カープ女子を全国ブランドに押し上げたのはNHKだ。2013年9月30日放送の『ニュースウオッチ9』の特集『なぜ首都圏で急増?カープファン』という特集の中でカープ女子という言葉が使われ、そのネーミングが一気に全国に広がった。プロ野球12球団でリーグ優勝から最も縁遠かったカープが昨シーズン、セ・リーグのクライマックス・シリーズに進出し、さらにカープ女子の知名度は高まった。
カープの女性ファンが増えたきっかけは、1975年にジョー・ルーツ監督が導入した「赤」のチームカラー。当時は「女の子の色」と皮肉られたが、今では女性に一番似合う色として受け入れられている。スタンドがカープ女子のユニフォームである赤に染まるのは、本拠地マツダスタジアムとは限らない。関東でも関西でも、多くのカープ女子が球場に足を運び、ビジター側スタンドを真っ赤に染めるほどの人気なのだ。
全国ブランドとなったことに目を付けた球団は、今年5月の中日ドラゴンズ戦で「関東カープ女子 野球観戦ツアー」を実施した。約150人の参加者は入場券と食事代の6500円を負担するだけ。東京-広島間の往復の新幹線代は球団が負担し、資生堂による「メーキャップ講座」を開くなど至れり尽くせりの内容。実は球団が400万円を負担する赤字の企画だった。
変貌遂げる球場
プロ野球ファンは年々高齢化が進んでいるが、最近は野球よりサッカーをする子供が増え、プロ野球の将来は楽観できない。球場はビール片手に観戦する男性ファンのくつろぎの場だったが、今では様相が一変した。プロ野球ファンの女性、いわゆる「野球女子」の増加により、球場の雰囲気はがらっと変わった。
カープ女子ブームに続けと各球団は、野球女子の取り込みに頭をひねるが、特に熱心なのがパ・リーグだ。プロ野球12球団のファンクラブで女性ファンの割合が4割を超えているチームは4つある。福岡ソフトバンクホークスと東北楽天ゴールデンイーグルスが45%、北海道日本ハムファイターズは44%、そしてカープは42%だ。
5月11日、ソフトバンクの本拠地ヤフオクドームはカープ女子の向こうを張った「タカガールデー」で大いに盛り上がった。ソフトバンク対埼玉西武ライオンズ戦の女性来場者全員にピンクのレプリカユニフォームが配られた。入場数は定員いっぱいの3万8561人。このうち女性ファンが2万8450人と4分の3弱を占めた。始球式にはピンクのユニフォームを着たモデルの益若つばさが登場し、一~三塁のベースだけでなく、ネクストバッターズサークルやマウンドのチームマーク、スコアボードもピンク色に変えられた。名物のジェット風船や勝利の花火もピンク一色にするという力の入れようだった。ドーム球場はピンク一色に染まった。
プロ野球界は10年前の再編問題を機にファンサービスに力を入れるようになり、「地域密着」が定着してきた。幅広い層のファン獲得のため、女性ファン増加のための動きを強めている。
黒字経営続ける、カープの経営戦略
実はカープは、39年間黒字経営を続けている。13年12月期決算は、カープが初優勝した1975年以来39年連続の黒字となった。決算書は公開していないが、ここ数年は売上高100億円、最終利益2億円程度で推移しているという。これだけ長期間にわたって黒字経営を維持しているプロ野球球団は珍しい。
カープは、ロータリーエンジンを開発した東洋工業(現マツダ)の創業家である松田一族の同族経営である。松田家がマツダの経営から離れた後も球団の株式は保有しており、球団名に旧社名の「東洋」という名前を残している。他球団が親会社を持つのに対して、カープは松田家のファミリー企業だ。現在、松田元氏が3代目のオーナーを務めている。
12球団で唯一の独立採算制の球団であるカープは、他球団のように親会社が宣伝部門と位置付け、赤字を補填してくれるわけではない。そのため球団経営はシビアで、選手の年俸総額を20億円程度に抑えてきた。年俸が高騰した選手を次々と放出したため戦力が低下した時期もあった。91年のリーグ優勝を最後に12球団で最も長い期間、優勝から遠ざかっているのも事実だ。
09年に新本拠地マツダスタジアムがオープンしたのに合わせ、球団が強化したのが女性ファンの取り込みと多彩なグッズ販売だ。カープに女性ファンが増えていることは11年頃からスポーツ紙で報じられ、その頃は「カープガール」と呼ばれていた。昨年以降のカープ女子ブームと相まり、グッズの売り上げが急増。今シーズンは選手の総年俸に匹敵する約20億円のグッズの売り上げを見込んでいるという。将来的に厳しい経営環境が見込まれる各球団は、このカープ女子の経済効果を学ぼうとしている。
(文=編集部)