「終わりの始まり」というべきか――。日本マクドナルドホールディングス(以下、日本マクドナルド)が、昨年7月に発覚した中国食品会社の使用期限切れ鶏肉使用問題に端を発し、その後、立て続けに起こった異物混入問題で客離れを起こし、1971年7月に銀座三越(東京)に第1号店を開業して以来の未曾有の経営危機に直面している。
日本マクドナルドの2014年12月期決算は売上高約2223億円(前期比14.6%減)、営業損益は約67億円の赤字、最終損益は当初予想の170億円を48億円も上回り、約218億円の大赤字となった。最終損益が赤字になるのは03年12月期以来、11年ぶりのことだ。ちなみにFC(フランチャイズチェーン)を加えた全店売上高は約4463億円(同11.5%減)。また店舗数は直営が1009店、FCが2084店の合計3093店であった。
創業以来の悲惨な決算に拍車をかけたのが、今年1月の既存店売上高が前年対比38.6%減と、4割近くも落ち込んだことだ。客数も28.5%減と大幅に落ち込んだ。「マクドナルド離れ」は深刻な状況にある。この異常ともいえる落ち込みに、日本マクドナルドでは「今期の業績予想や配当は未定」として発表しなかった。
この状況が2~3月にかけても続くようだと、日本マクドナルドがすぐに回復する見込みは少なく、15年度も大赤字を出す可能性が高い。大量生産、大量出店、大量販売のマクドナルドのビジネスモデルそのものが時代の流れに対応せず、構造的な転換期に突入した可能性も否定できない。
「経営の抜本的な改革が急務だが、マーケティング屋のサラ・カサノバ社長兼CEO(最高経営責任者)では、いまだかつて経験したことがないような経営危機を克服するのは難しい。カサノバ氏は3月いっぱいで退任だろう。問題は、売上高が激減して経営不振に陥っているFCオーナーたちが集団で離反しかねないことだ。FCオーナーの中には創業社長の藤田田時代に独立したり、指導を受けた人が多い。そんな事情から藤田時代を知る人物で、原田泳幸前CEO(現会長。3月に退任予定)と対立して辞めた幹部を呼び戻し、カサノバの後任に就けるのが業績回復の特効薬になるかもしれない」(日本マクドナルド株主)
後任候補者めぐる情報が錯綜
藤田時代を知る経営者としては、06年に日本マクドナルドのCOO(最高執行責任者)を1年間務め、現在コメダ珈琲店を展開するコメダの社長、臼井興胤氏がいるが、もともと外食産業出身者ではなく金融マン。プロ経営者のような人物で日本マクドナルドにはほとんど人脈を持っていないので、対象外だと言われる。
藤田氏が社長兼COOに就けた八木康行氏はどうか。藤田氏は02年3月、旧マクドナルドをホールディングス体制にし会長兼CEOに就任するが、その際に子飼いの八木氏を社長兼COOに就けた。八木氏は04年に就任した原田前CEOと対立し、辞めてリンガーハットの社長に就任するが、実績を残せず退任した。
「八木氏は英語ができないので、日本マクドナルドのトップに復帰するのは無理だろう」(同社関係者)
そんな中でカサノバ氏の後任に最適な人物と期待されているのが、バーガーキング・ジャパン社長として実績を上げている村尾泰幸氏だ。村尾氏は1958年10月、大阪府生まれの56歳。81年3月、奈良大学文学部卒業。大学時代に日本マクドナルドで、短時間勤務が可能なクローズ作業のアルバイトに従事した。同年4月、同社に入社し、大阪を振り出しに沖縄3年間、大阪店長、取締役上席執行役員・直営本部長として直営店全般の運営に携わり、全社横断的な戦略立案、実行、特に財務、出退店、FC展開などに参画した。31年間勤務し、原田前CEOと対立、12年3月に同社を退社。同年7月シダックス取締役、同年10月シダックス・コミュニティ-代表取締役・常務取締役を経て、14年2月にバーガーキング・ジャパン社長へ就いた。
バーガーキングはビーフパティをマクドナルドのように鉄板ではなく直火で焼くスタイルだ。これが人気で、アメリカではカナダの同業を買収し、スターバックスと共にマクドナルド追撃のトップバッターに躍り出た。日本でも直火焼き、400~500円台のセットメニューは人気で、現在の85店舗を、近い将来200店舗に増やそうとしている。村尾氏はバーガーキングの社長に就いてまだ1年であるが、古巣の経営危機ということで一肌脱ぐことになるかもしれないとの見方も強い。あとは日本の事情を熟知したアメリカ人および外国人経営者が後任候補だが、日本マクドナルドがカサノバ氏の後任問題につまずくようだと、FCの集団離反という最悪のシナリオに発展するかもしれない。
(文=中村芳平/外食ジャーナリスト)