これだけ施術所数が増えているということから、業界の競争が激化している現状が推測できる。その中で黒字経営の施術所は、TKC経営指標によると、およそ4割だという。他業界に比較してITの導入が遅れており、経営改革が進まない業界といわれている。今回は、関西で整骨院を複数店舗展開するA氏に、整骨院業界の事情を聞いた。
資格者急増、低価格での開業が可能に
–まず、現在の業界の事情を教えてください。
A氏 年々競争が厳しくなっているのが現状です。1つの町に整骨院が10~20あることも珍しくありません。しかし、集客力があるのは、都市部やビジネス街の一角といった好立地の場所に限られます。クイックマッサージなどの店舗も増え、少ないパイを奪い合っている状況です。
–整骨院がここまで増加した大きな原因はなんですか?
A氏 大きく分けて2つあります。1つは、国家資格である柔道整復師の資格を取得できる学校数の増加です。3年で資格を取得できるため、医師と違い、卒業後すぐに開業することも可能です。もう1つは、低価格での開業が可能となったことです。20年前は開業資金が最低1500万円は必要といわれていました。しかし、近年では簡易な設備投資での開業も可能で、規模にもよりますが、関西なら600万円程度とハードルが下がっています。
–開業の際、金融機関の資金援助は受けやすいのでしょうか?
A氏 新規参入は厳しくなっています。担保がない場合、よほど綿密な事業計画書をつくらなければ借り入れは難しいです。今後もこの傾向は続くでしょう。一方では、内装施工や設備のリース業者が出てきており、初期投資の額に関しては、ある程度の融通は利きます。
–閉店も多いと聞きますが、実際はいかがですか?
A氏 そうですね。金融機関の支援も少ないので、力のない店舗は淘汰されています。特に近年は、技術があるだけでは集客が難しくなっており、接客がモノをいう時代といえるでしょう。昔ながらの職人気質を持つ、本当に技術のある経営者のお店が閉店を余儀なくされているのは、業界の問題点だと感じています。
–経営で難しいのは、どういった点ですか?
A氏 施術の収入の7割は保険負担なので、お金回りが悪いことです。今はずいぶん制度も整いましたが、それでも入金までは3~4カ月程度の時間を要します。最低限、3カ月程度の内部留保金がないと、短期的な運営も難しいです。