どうやら「起業は割に合わない」は本当らしい?9割の普通の人が富裕層になる唯一の方法
数多くの大企業のコンサルティングを手掛ける一方、どんなに複雑で難しいビジネス課題も、メカニズムを分解し単純化して説明できる特殊能力を生かして、「日経トレンディネット」の連載など、幅広いメディアで活動する鈴木貴博氏。そんな鈴木氏が、話題のニュースやトレンドなどの“仕組み”を、わかりやすく解説します。
仏経済学者トマ・ピケティがブームである。昨年後半から今年にかけて多くの経済紙がピケティの『21世紀の資本』(みすず書房)を特集し、NHKの『白熱教室』にも登場した。
ピケティは過去200年間の世界中の税務統計を集めて、その結果「r>g」という大発見を世の中に提示した。過去200年間、世界全体で資本収益率(r)は常に経済成長率(g)を上回っていたと結論付けた。そのメカニズムによって、資産を持つ富裕層に富が集積していくことになる。そこでピケティは全世界的に富裕層へ課税をして、富の偏在を解消していくべきだと説く。これが現在巻き起こっているピケティブームの一番主要な論点である。
さて、本連載は常に世の中をウラ読みするコラムなので、本稿では世の中で議論されている正調のピケティ議論ではない、もうひとつの読み方について考えていきたい。
●事業を立ち上げるのは割に合わない?
ピケティの「r>g」を前提に考えると、事業を立ち上げるのは割に合わないかもしれないのだ。いや筆者もなんとなく、これまでもそんな気がしていた。連続テレビドラマ『半沢直樹』(TBS系)を観たり漫画『ナニワ金融道』(講談社)を読んでいても、実際にいろいろな企業家の相談に乗っていても、なんとなく資本家や銀行家のほうが企業家よりも割がいいような気がしていたのだ。
企業家の中でも自分で会社を立ち上げた起業家は、お付き合いしていると、人物としては非常に魅力的であることが多い。チャレンジャーで創意工夫に富んでいて、いつも何か面白いことを考えている。ただ儲かっている人もいるのだが、あまり儲かっていない人もいる。時流に乗って非常に儲かっている起業家は、筆者にもよくしてくれるし、周囲にも気前よくお金をばらまいてくれる。
しかし、そういった調子のよい時期はいつまでも続くことはなく、10~20年の期間でみると、どちらかといえば苦労して経営している時期のほうが長いように見える。
一方で資本家や銀行家はというと、人間的にはそれほど魅力も感じないし、堅いというか派手さはない。だが、長い目で見ると、お金はこういった人たちに還流しているように感じていた。
起業家は結局、事業が傾くと財産をすべて奪われて夜逃げをする。一方で資本家や銀行家は、その前に貸したお金をきっちりと回収している気がしていた。