昨年、ギャルファッション誌の休刊が相次ぎ、東京・渋谷のギャルカルチャーの終焉が叫ばれて久しい。
実際、渋谷ギャルの象徴ともいえる“ガングロギャル”は絶滅寸前。十数年前の渋谷センター街には、そこかしこにガングロギャルたちの集団がいたものだが、今やめっきりその姿を消している。
しかし、そんなガングロギャルに会えることを売りにしたカフェが今年1月に登場し、密かに注目を集めている。
その名もズバリ、「ガングロカフェ」。渋谷の東急百貨店本店近くの雑居ビルにて運営している同店は、文字通りガングロギャルたちが店員として接客する飲食店である。
敬語とタメ語を使い分けた接客
10年以上前からギャルファッション誌、ギャル男ファッション誌に携わってきたライター・昌谷大介氏に聞いた。
「一言で言うなら、メイド喫茶のガングロギャル版といったお店です。ガングロギャルたちが接客から調理までこなしていますので、彼女たちの手料理が食べられるというのは面白いですね。また、ガングロギャルたちが店内で懐かしのパラパラを披露してくれるパラパラダンスショーもあるので、往時のギャル好きには需要がありそうです。もちろん一緒に記念撮影もできます。ちなみに、このお店の最大の強みは参入障壁の高さにある。実は店員たちは、ガングロギャル約150名が所属する『ブラックダイヤモンド』というユニットのメンバーなのです。今は日本中で激減しているガングロギャルたちが一堂に集まっている『ブラックダイヤモンド』が店舗プロデュースを手掛けており人材は豊富。もし近い将来、この『ガングロカフェ』が大繁盛したとして、他社が類似の飲食店を出そうとしても、そもそもコンテンツの核となるガングロギャルを集めるのは至難の業でしょう。例えば、普段はガングロギャルじゃない女の子が出勤時だけガングロギャルっぽくメイクをしても一朝一夕で真似できるものではないので、やはり本物ならではの空気感や生々しさは絶対に出せません。ですから、一度繁盛すれば、あとは独り勝ち状態になりそうです」(昌谷氏)
そこで編集部記者は実際に、ガングロカフェへ足を運んでみた。「いらっしゃいませ~」と出迎えてくれたのは、3人のガングロギャルである。
席に案内され、名物だという創作タコ焼き「ガングロボール」(600円、写真中央の女性が手に持っている料理)を注文。店長であり、もちろんガングロギャルでもある、このみんさんに話を聞いた。
「この『ガングロボール』は、生地にイカスミを練り込んで真っ黒にしました。具にはタコの代わりにソーセージとチーズとバジルが入っています。もちろん作るのも、この料理を開発したのも私たちです。みんなで『これ入れたらおいしそう』などと試行錯誤しながら考えた看板メニューです。営業は火曜・金曜・土曜・日曜の11~19時までで、入場料は90分制で1500円、あとは単品注文でドリンク600円~・フード600円~がかかるシステムです」(このみんさん)
意外にもと言っては失礼だが、接客はしっかりとした感じのいい敬語である。同店のイメージガールを務める、えりもっこりさんとぽみたんさんが、接客のスタンスについて語ってくれた。
「初めて来たお客さんには、だいたい敬語で接客します。その後、慣れてきたら、『次は何飲む?』とか『全然飲んでないじゃん』みたいなタメ語になるかな。お客さんのテンションを見て、場面に応じて敬語とタメ語を使い分けています」(えりもっこり)
「ギャルは世間から、敬語を使えず、礼儀もなっていないという偏見を持たれがちです。その上、この見た目も手伝って『怖い』と思われることも多いです。しかし私たちは、そういう固定観念をなくしていきたいと思っているので、敬語も使い、フレンドリーに接客するときもあり、お客さんにとって居心地のいいお店にできるように気を付けています」(ぽみたんさん)
来日外国人数は十数年前から倍増
ガングロカフェは、JR渋谷駅から徒歩7~8分の小さな路地に面する雑居ビルの5階にあり、入り口となるエレベーターも非常にわかりにくくなっている。少なくとも同店の存在を知らない人が街を歩いていてフラッと立ち寄れるような立地条件ではないため、実際、取材当日の客入りもポツポツとまばらだった。
果たしてこの新業態、ビジネスとしてどれほどの勝算があるのだろうか? オーナーである浅野毅氏は次のように語る。
「いきなりドカンと繁盛するとは思っていませんでしたので、今の店舗は実験的にミニマムスタートさせました。このお店は、実は夜にバーとして運営しているスペースを昼間だけ借りるという契約で、賃料を抑えているのです。今はまだお店の存在を周知させることを第一としている段階なので、客数や売り上げはまだまだです」
ギャルブームが下火となっている昨今において、どこまで需要があるのか疑問に思うところだが、浅野氏からはこんな意外な答えがあった。
「実は、メインのターゲットは日本人ではなく外国人観光客です。確かに今、日本でギャルブームは瀕死状態です。ただ、あまり知られていないのですが、欧米の10代、20代の女性を中心に、日本のギャルファッションがクールだと注目を集めていています。現段階で客層の比率は日本人7割、外国人3割といった具合ですが、今後はこの比率が逆転するぐらいにしていきたいと考えています。そのために、英語でホームページを制作したり、外国人観光客に日本でオススメの店やスポットを紹介する『Voyagin(ボヤジン)』というサイトに『ガングロカフェ』を載せてもらうなど、外国人へのPR活動を行っています。ベンチマークしているのは新宿のロボットレストランです」
法務省が発表しているデータによると、訪日外客数は2003年には521万1725人だったが、13年は1036万3904人と10年で約2倍にも増えている。20年に東京オリンピックを控えていることから、この数字がさらに右肩上がりに増加していく可能性は高い。そう考えると、外国人観光客をメインターゲットにするという狙いは悪くないのではないか。
「渋谷は外国人観光客からの知名度も高いのですが、観光スポットがほとんどありません。外国人観光客にとって、一番の目玉はスクランブル交差点です。あの大勢の人が行き来する交差点は彼らにとっての見どころらしいのですが、それ以外はショッピングを楽しむしかないというのが渋谷の現状です。十数年前のギャル隆盛期には、あちこちで外国人観光客と素人ギャルたちが記念撮影をしている風景が見られました。しかし、今の渋谷にガングロギャルはいないので、インターネットで過去の写真などを見て、渋谷にガングロギャルがたくさんいると思って楽しみにして来る外国人観光客は、がっかりして帰ることもあるそうです。そんなガングロギャルを一目見たいと考えている外国人にお越しいただけるようになれば、収益増も見込めるとにらんでいます」(浅野氏)
同店では、店員たちが自身のメイク術を駆使して、お客にギャルメイクを施し一緒にプリクラを撮影しに行く「ギャルメイクパック」(1名・7000円/ドリンク・フード・おみやげ付)という体験型サービスも行っている。先日も20代のブラジル人女性観光客にギャルメイクを施したところ、満足して帰って行ったという。これは京都で舞妓体験ができるサービスと似ている。
まだ大きな収益は上がっていないそうだが、確かに外国人観光客からの需要を見据えたこれらのサービスは大化けする可能性を秘めている。
(文=編集部)