先月24日に発表された2020年東京五輪の公式エンブレムが、ベルギーにある「リエージュ劇場」のロゴにそっくりで「パクリではないか?」などと一部で話題になっているようです。
同29日には、東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会の高谷正哲戦略広報課長がこの問題に関し、「国際的な商標登録の手続きを経てエンブレムを発表している。特に本件に関して懸念はしていない」とコメントするなど、毅然と応対しているようです。
本件をめぐっては、法律上どのような問題が生じるのでしょうか。
まず注意しなければならないのは、「国際的な商標登録の手続きを経てエンブレムを発表しているから問題はない」というわけにはいかないという点です。
商標とは、自身の商品やサービスを他人のものと区別する、他人に勝手に使用させないためのものなので、パクリかどうか、すなわち「著作権」の問題とはまったく異なるからです。問題は、リエージュ劇場のロゴの著作権を持っている人の権利を侵害しているかどうかです。
さて、そもそも著作物というものは、なんらかの手続きにしたがったり、どこかに登録しなければならないものではなく、日本の法律にしたがえば、「個人の思想や感情を創作的に表現したもので、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(小説、音楽、舞踏、絵画、彫刻、映画、写真等)」であれば、創作した瞬間に著作物として認められます。これらの著作物を複製したり、展示したり、売ったり、少し変更したりする権利(総じて著作権といいます)として認められます。
また、著作物には国境はなく、世界各国が条約を締結し、お互いの国で生まれた著作物とこれに関わる著作を保護しています。したがって、リエージュ劇場のロゴはこれを創作したとされるフランスのデザイン会社が著作権を有していることになります。
そして、「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」によって、その国(フランス)と、条約同盟国(日本)において、その国(フランス)が与えている権利と同じ内容の保護が与えられることになります。具体的には、「保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法は、この条約の規定によるほか、専ら、保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる(条約5条(2)」ので、日本の著作権法が適用されることになります。
その結果、フランスのデザイン会社は、この条約と日本の著作権法に基づき、使用の差し止め請求や損害賠償請求ができることになります。また、このデザイン会社が望めば(親告すれば)刑事告訴も可能となります。