著作権侵害の成立条件
では、今回の東京五輪のエンブレムは、フランスのデザイン会社の著作権を侵害しているのでしょうか。
ここで注意すべき点は、似ていればなんでもかんでも著作権侵害となるわけではなく、たとえば2つの作品が偶然に一致した場合は、著作権侵害には該当しません。
あくまで他人の著作物を「利用して作品を創作する(依拠する)」場合に、著作権侵害が問題となるわけですが、過去の判例が、「既存の著作物に接する機会がなく、従って、その存在、内容を知らなかった」場合は、著作権侵害の可能性は極めて低いとしているように、もともとの著作物に接するチャンスがあったかどうかを「依拠している」かどうかのメルクマール(基準)としています。
今回、エンブレムを創作した人が、どこかでリエージュ劇場のロゴを見ていた場合には、「依拠している」とされるかもしれません。
しかし、「依拠している」なら、常に著作権侵害となるわけではありません。判例は、複製権侵害や翻案権侵害にすら該当しない場合、すなわち、「もともとの著作物を修正し、増減した別の著作物に新しい創作性が認められ、かつ、もともとの著作物の表現形式の本質的な特徴が失われてしまっている場合」には、著作権侵害とならないとしています。
要するに、「確かに、ちょっと参考にした(依拠した)けど、もともとの著作物の本質的な点が変更されているから、まったく別の著作物になっている」場合は、侵害ではないということです。実際に過去の判例をみても、デザインの著作権侵害はなかなか認められにくいようです。
今回の東京五輪のエンブレムとリエージュ劇場のロゴは、「正方形を彷彿させる図形の中に、直径が同じ円のシルエットと、長辺が同じ長方形を配置している」ところまではほぼ同一ですが、カラー、右上の赤丸の有無、さらなる外枠の円の有無などが異なるので、「まったく別の著作物になっている」といえるのではないでしょうか。
(文=山岸純/弁護士法人AVANCE LEGAL GROUP・パートナー弁護士)