安倍晋三首相は7月17日、2020年東京五輪・パラリンピックのメーン会場となる新国立競技場について、計画を白紙に戻すと表明した。同競技場は12年11月、日本スポーツ振興センター(JSC)が国際公募でデザインを選定。その整備費は当初見込みの1300億円から、2倍近い2520億円にまで膨れ上がり、世論の批判が強まっていた。見直しの決定がここまでずれ込んだ理由について、全国紙記者は語る。
「文部科学省やJSC、五輪組織委員会をはじめとする関係者らはみな、“腫れ物”化した建設費問題に手を出して火傷を負いたくなかったため、ずるずると放置されてしまったというのが実情です。また、下村博文文科省相もまったく調整力を発揮できず責任逃れの発言に終始し、最終的には安倍首相自らが動かざるを得なかったことからもうかがえるように、責任の所在が曖昧なことも背景にあります。
さらに、組織委員長の森喜朗元首相への“気兼ね”があったという要因も大きいです。元日本ラグビー協会会長の森氏は、19年ラグビーワールドカップ(W杯)の日本誘致に尽力した経緯もあり、新国立競技場でのW杯開催に意欲を持っているが、建設計画を見直せばW杯に間に合わない可能性が出てくる。そんな森氏の“熱意”を知る関係者たちは、見直しを言い出せなかった面も強い。しかし、世論の批判が無視できないほど高まってきたことで、安倍首相が動いたのです。政界引退からすでに約3年が経過した今もいまだに自民党内に強い影響力を持つ森氏ゆえ、安倍首相の気遣いも相当なもので、白紙撤回を表明する当日と前日の2回にわたり森氏と面会し、直接説得を行っています」
その森氏は17日、テレビ番組の収録で当初選定されていたデザインについて「僕はもともと、あのスタイルは嫌だった。生ガキみたいだ」などと発言。さらに同日午後には、組織委の事務所で「国がたった2500億円も出せなかったのかね」と不満を述べたが、この発言に対しインターネット上などでは「その出所は税金なのですが」「他国の五輪会場より高いというのが、わかっていない」「元政治家として、この認識はまずい」など、批判の声が上がっている。
森氏へ厳しい批判
また、一般の人々からも次のように森氏に対して厳しい声が聞かれる。
「国民の税金をなんだと思っているのか。財政赤字が深刻化する中で、かつて首相だった人物の発言とは思えない。組織委トップとしての資質に欠ける」(40代女性)
「『たった2500億円』と考えているところが、国民の感覚と完全にズレている。これまで“大物政治家”“元首相”ともてはやされ、今度は組織委トップに就き思い上がっているのだとしたら、勘違いも甚だしい」(50代男性)