ソニーが10月29日に発表した2015年4~9月期の連結決算は、売上高3兆7007億円、当期純利益1159億円の黒字に転換した。上半期の黒字は5年ぶりだ。
ソニーはいま、長期にわたったリストラにようやくメドをつけ、反転攻勢に出ようとしている。
東京・品川にあるソニー本社ビルの一階。その一角に、ガラスの自動ドアで仕切られた、一見おしゃれなカフェのようなスペースがある。足を踏み入れると、静かにジャズが流れている。奥には、積層型や光造形樹脂タイプの3Dプリンターに加え、レーザーカッターやオシロスコープなど専門的な工作機器が並ぶ。左手の壁は、全面黒板になっており、何やらメモや記号、図がいくつも描かれている。
ここは、14年8月にオープンした「SAP Creative Lounge」だ。SAPとは、「Sony Seed Acceleration Program」を指し、同年4月に平井一夫社長直轄組織として誕生した新規事業創出部によって運営されている。
平井氏は15年2月に開催された経営方針説明会の席上、「SAP」などのプログラムについて次のように語った。
「ソニーがソニーらしく成長し続けるために、社員が創業以来持ち続けているイノベーションへの探求心を刺激し、既存の枠組みにとらわれずに挑戦できる場を多く与えることが不可欠であると考え、自ら新規事業創出の活動をリードしてきました。会社の規模の拡大により、ややもすると損なわれてしまう事業のスピード感を、このような取り組みを通して取り戻していきたいと考えています」
このラウンジは、新しい製品や事業のアイデアを創出するために設置された「場」である。朝8時から夜8時まで開いており、社員はもちろん、ソニー社員の紹介があれば、社外の人も利用できる。社内外のメンバーが一緒にミーティングをしたり、工作機器を使うこともできる。
設立から1年以上が経ち、運営は軌道にのっている。一般人も参加できるワークショップが頻繁に開かれるほか、工作機器を予約制で貸したり、非公開のセミナーを行うなど、平日はほぼ予定が埋まっている。
この「SAP Creative Lounge」は、ソニー内部に起きている変化の象徴といえる。すなわち、社内外を巻き込んだユーザーとの共創、部署や事業の枠を超えたアイデアの提案、自由な発想への挑戦である。まさしく、「自由豁達ニシテ愉快ナル理想工場」へのソニーの原点回帰といっていい。