ソニーは、完全とはいかないまでも、「構造改革フェーズ」から「成長投資フェーズ」へと進むことに成功したと見ることができる。
挑戦を奨励して社内を活性化
振り返ってみれば、ソニーは大企業化、コングロマリット化し、いつしか組織が重くなった。その結果、どうなったか。数千億円単位の巨大ビジネスをいくつも抱えるなかで、小さな案件やすぐにモノにならない案件は、かりに面白いアイデアが含まれていても、陽の当たることがなかった。組織はいつしか内向きになり、社員は保守的になった。「挑戦」の意欲を喪失していった。
しかし、たび重なる赤字決算に加え、これまで累計7万人ものリストラ、事業のカーブアウトや分社化などにより、ようやく現場の社員に危機感が浸透した。トップがいくら旗を振っても、現場が動かなければ事態は変わらない。
ソニーがこの間に断行してきた構造改革とリストラの「構造改革フェーズ」は、社員を委縮させ、モチベーションを削いだ。しかし、「成長投資フェーズ」に入ったいま、社員に求められるのはチャレンジ精神や積極性だ。
ソニーは、社員の奮闘を促すための策を次々と打った。新規事業創出部を設け、冒頭の「SAP Creative Lounge」を設置したのも、その一環だ。ほかにも、社内活性化のための全社的なイベントや、新規事業オーディションなどを開催する。
新規事業オーディションは、年2回行われる。14年度には、それぞれ約400件、約1000人の社員から応募があり、数チームが通過してプロジェクト化された。プロジェクトに与えられる期間は3カ月だ。その間に成果をあげることができれば、さらに3カ月の延長、もしくは事業化、量産化される。求めたのは、スピード感だ。
具体的には、外部のクラウドファンディングサイトを使い、顧客から支持を集めた製品を小粒でも商品化する試みを始めた。大手企業がクラウドファンディングを使う例は珍しいが、顧客と向き合いフィードバックを得ると同時に、アイデアから商品化までを短縮できる。今年7月には、自社でクラウドファンディングサイト「First Flight」を立ち上げた。
これらの取り組みから、米ウィルとの合弁会社が開発した、スマートフォンを使って鍵をシェアする「キュリオスマートロック」、文字盤とベルトが電子ペーパーでできており柄が変わる腕時計「FES Watch」、さらに外観はアナログ時計でありながらベルトにセンサーや通信機能を内蔵したスマートウォッチ「wena wrist」などが誕生した。