「構造改革フェーズ」から「成長投資フェーズ」へ
12年4月、社長に就任した平井氏は、「ソニーを変える。ソニーは変わる」と強調した。平井ソニーは、各事業の分社化を進める。14年7月に「VAIO」ブランドをもつパソコン事業を投資ファンドの日本産業パートナーズ株式会社に売却。さらに、テレビ事業を分社化した。分社化されたテレビ事業は、規模より利益を優先して高級機種に特化し、継続的に行ってきたコスト削減も功を奏して、15年3月期に11年ぶりに黒字化を達成した。
さらに、15年10月にオーディオ事業を分社化し、ソニービデオ&サウンドプロダクツを設立した。現在、モバイル事業の構造改革を進めている。
ソニーはこの間、財務体質の健全化にも取り組んできた。10年にCFO(最高財務責任者)に就任した加藤優氏のもと、11年3月期と12年3月期には、合わせて6600億円の繰延税金資産の取り崩しを計上した。以降、14年の吉田憲一郎氏のCFO就任を挟んで、液晶テレビ関連、電池、ディスク製造などにおける長期性資産や営業権の減損損失を次々と計上する。
たとえば、14年3月期にディスク製造事業で256億円、電池事業で321億円、PC事業で128億円の長期性資産の減損、15年3月期にディスク製造事業で86億円、モバイル事業で1760億円の営業権の減損などだ。
ソニーは1995年3月期に、89年に買収したコロンビア・ピクチャーズに関して2652億円の減損を行うなど、財務の健全化に取り組んできた歴史がある。つまり、ソニーは減損処理を先送りせず、経営危機に陥るリスクを避けてきたのだ。その点、不適切会計における混乱の渦中の東芝が、いまだ繰延税金資産や、買収した企業ののれん代の減損に手をつけていないのとは対照的な経営姿勢といえる。
そのうえ、15年3月期の中間、期末配当金について上場来初の無配を決断するなど、痛みを受け入れた。平井氏は15年2月の経営方針説明会の席上、「大型の構造改革をやり切ることに一定のメドがついた」と語った。ソニーの“出血”はようやく止まった。今年7月には、満を持していたかのように、公募増資や転換社債発行などにより、総額約4200億円の大規模な資金調達を行った。公募増資を行うのは89年以来、じつに26年ぶりだ。
調達した資金は、CMOSイメージセンサーの製造設備向けに、ソニーセミコンダクタ長崎テクノロジーセンターへの1250億円をはじめ、同山形や熊本などに投資される。強い技術をより強化し、利益を創出し、さらには成長を目指すための投資資金だ。