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江川紹子の「事件ウオッチ」第43回

前ソウル支局長に無罪判決 でも産経新聞と日本のメディアは、我が身を振り返るべき

文=江川紹子/ジャーナリスト
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前ソウル支局長に無罪判決 でも産経新聞と日本のメディアは、我が身を振り返るべきの画像1判決を受け産経新聞社、首相ともに「言論の自由、報道の自由は守らなければいけない」とコメントしたが、その言葉を自ら省みるべきではないか。(写真は産経新聞電子版号外)



 インターネット上に掲載したコラムで韓国朴槿恵大統領の名誉を毀損したとして起訴されていた、産経新聞前ソウル支局長に対する判決は、無罪だった。その内容は、言論の自由を重くみた、極めて常識的な内容だと思う。ただ、韓国外交省から日韓関係に考慮して裁判所に「善処」を求める文書が判決前に提出されており、政権の意向が司法に強く反映されたことがうかがわれた。検察の起訴自体が大統領の意図を忖度したものだったうえ、裁判所までもがそのような政治的判断をするとは……。果たして韓国に司法の独立はあるのだろうか、という疑念を引き起こす展開になっている。

韓国政府による司法への介入

 外交省の「要請」は、日本側から本件が日韓関係改善の阻害要因になっているとの指摘があり、最近は関係改善の兆しが見えていることから、日本側の要請を真摯に考慮する必要があり、配慮してもらいたい、というものだ。露骨に政治的配慮を裁判所に求めている。

 しかも、それを外交省幹部が自ら自国メディアに明かしている。この「要請」は検察を通じて裁判所に提出され、判決言い渡しに先だって裁判長がその文書を読み上げた。このオープンな対応を見ていると、政権側にも裁判所にも、司法へのこうした働きかけが問題だという認識はないようだ。韓国紙の日本語電子版を見ても、この「要請」を特に問題視している論調を見つけることはできなかった。

 このような政権の司法介入は、韓国では許容範囲内ということなのだろうか。この事件では朴大大統領は被害者という位置づけであり、「コラムで書かれた内容が虚偽であることが裁判で明らかになったので、名誉回復の目的は達した」という被害者サイドからの意思表示と受け取れないことはない。しかし「要請」は朴槿恵氏個人から出されているのではなく、外交省という政府組織から出ている。決して被害者個人の意見表明ではなく、政権としての意思表示だ。これを許せば、ほかの政治的案件についても政府の司法介入を許すことになってしまう懸念はないのだろうか。

 韓国の憲法でも「法官は、憲法および法律にもとづき、その良心に従い独立して審判する」と、「法官の独立」を謳っている。政治や世論に影響されず、法と証拠と裁判官の良心のみで判断するのでなければ、真に「司法の独立」とはいえないように思う。これまでも、日本絡みの案件では「世論に影響されているのではないか」と勘ぐりたくなる司法判断はあったが、ここまであからさまな政権からの介入を問題視しないというのは、ちょっと理解しにくい。

 このように釈然としない展開ではあったが、無罪という結論には安堵した。そもそも、この程度の批判を刑事事件にしたことが間違いで、市民団体から持ち込まれても検察段階で不起訴とすべきだった。韓国政府にしても、今さら裁判所に「要請」するくらいなら、検察の起訴を止めるべきだったろう。そうした対応については、よくよく反省してほしいと思う。

いまだに真偽の検証も記事の訂正もしない産経新聞

 ただ、判決がコラムで取り上げられていた事柄の公共性と執筆目的の公益性は認めたが、内容の真実性に関してばっさり否定していることは、当該の産経新聞や前支局長も真摯に受け止めるべきだろう。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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