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江川紹子の「事件ウオッチ」第19回

【朝日新聞・誤報検証】で再確認すべき「歴史の記録者」としての責務とは?

文=江川紹子/ジャーナリスト
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【朝日新聞・誤報検証】で再確認すべき「歴史の記録者」としての責務とは?の画像1朝日新聞社による従軍慰安婦報道について検証する第三者委員会から、これまでの対応を「読者の信頼を裏切るもの」と批判された渡辺社長は、「報告を真摯に受け止め、改革を進める」と公言したが……(写真は朝日新聞東京本社)

 朝日新聞慰安婦報道を検証する第三者委員会の報告が発表された。報告書は、過去の記事でも間違いが分かった時には、正して謝罪することを要求しており、「事実」についての責任の自覚を報道する者に強く求めるものとなった。

●自己弁護に終始してきた朝日の“罪と罰”

 現韓国の済州島で朝鮮人女性を強制連行し、慰安婦としたとする、いわゆる「吉田証言」については、朝日新聞は1982年9月2日以降に16本の記事を掲載した。歴史学者の秦郁彦氏が1992年4月に済州島の調査を行い、吉田証言の疑わしさを指摘。その後に記事を書いた記者は、吉田証言の信憑性に疑問を持ったものの、済州島の取材を行うなどの対応をせず、朝日新聞は次第に吉田証言の扱いを減らして紙面からフェードアウトさせた。

 このような「消極的対応」を、報告書は「読者の信頼を裏切るものであり、ジャーナリズムのあり方として非難されるべきである」と批判している。

 また、朝日新聞は1997年3月31日付の特集記事で慰安婦問題を大きく取り上げ、吉田証言については「疑問視する声が上がった。済州島の人たちからも、裏付ける証言は出ておらず、真偽は確認できない」と否定的な評価をしながら、自らの過去の報道については、検証していない。そのうえで、慰安婦については、力ずくの「強制連行」(もしくは「狭義の強制性」)にとどまらず、騙されて応募したり、物理的・心理的に慰安所から離れられない状況にあった「広義の強制性」も問題だと主張した。

 報告書は、この特集の段階で、「『狭義の強制性』があったことを前提に作成された記事について、訂正又は取り消しをすべきであったし、必要な謝罪もされるべきであった」と朝日の対応を批判。過去の誤報を清算しないまま、「広義の強制性」を強調した論調は「議論のすりかえ」と論難した。

 今年8月に改めて検証を行って吉田証言を取り上げた記事を取り消したが、謝罪をしなかったうえ、その内容も「自己弁護の姿勢が目立ち、謙虚な反省の態度も示されず、何を言わんとするのか分かりにくいものとなった」と厳しい評価を下した。

 この報告書の評価は、世間一般の人々の報道に対する思いを、よく反映しているように思う。

 間違いがあっても、なかなか訂正しない。指摘を受けても、事実を巧みに修正する続報でごまかしたり、論点をすり替えたり、問題をフェードアウトさせて、できるだけ訂正記事を出さずに済まそうとする。そういう新聞の対応は、かねてから批判を招いていた。

 原発事故を巡るいわゆる「吉田調書」報道でも、相通じる問題点が見える。

 記事への疑問が提起された時に、自分たちの報道を見つめ直すより、相手に居丈高な抗議を行った。続報で若干の修正をしようとしたが、疑問や批判に答える内容の記事ができずに頓挫。慰安婦問題で轟々たる批判が起きる中、吉田調書の内容を他メディアも報じ、全文が公開されるに至って、取り消して謝罪した。それでも、事故を起こした福島第1原発の所員たちが第2原発に移動するという、所長の指示にない行動をしたのだから「外形的事実は間違っていない」と強弁し、記事の取り消しに反対する者もいた(驚くことに、今なお同じことを言い続けている者が、朝日新聞の内外にいる)。

●同じ過ちを犯している読売・産経の“不誠実”

 誤報はしないに越したことはない。誤報を防ぐ努力はすべきだ。それでも、人や組織は間違いを犯す。間違いが分かった時点で迅速に訂正や取り消しをして、書かれた側や読者に謝罪する。そういう、いわば当たり前のことを、この報告書は朝日新聞社に求めた。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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