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江川紹子の「事件ウオッチ」第14回

天誅、脅迫、記者の殺害リストまで……バッシングの域を超えた【朝日新聞叩き】の異常

文=江川紹子/ジャーナリスト
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天誅、脅迫、記者の殺害リストまで……バッシングの域を超えた【朝日新聞叩き】の異常の画像1慰安婦証言と原発事故報道で誤報を認め、激しいバッシングにさらされている朝日新聞。元朝日記者が勤務する大学には脅迫文が送られ、菅官房長官は「脅迫やそれに近い行為がなされることは許されるものではない」と厳しく批判したが……。(写真は朝日新聞東京本社)

 朝日新聞批判に便乗した、卑劣な行為が相次いでいる。

 戦時中の慰安婦や原発事故に関する誤報をめぐって批判を浴びてから、朝日新聞叩きはヒートアップ。かつて慰安婦報道に関わった元朝日記者が教壇に立つ大学に対する脅迫まで行われている。

●殺害をほのめかされた朝日新聞記者たち

 報道によれば、大阪の帝塚山学院大には、「(元記者である教授を)辞めさせなければ学生に痛い目に遭ってもらう。釘を入れたガス爆弾を爆発させる」との脅迫文と釘が送られた。それ以前にも、札幌の北星学園大に「元記者を辞めさせなければ天誅として学生を痛めつける。釘を混ぜたガスボンベを爆発させる」などの脅迫状が少なくとも2通、送り付けられていた。

 誤報やその後の対応、さらには会社の体質がさまざまな批判を受けるのは、やむをえない。朝日新聞社は、そうした批判に耳を傾けつつ、一連の間違いや失敗の原因を検証し、報道機関としての自らのあり方を見つめ直すべきだ。

 だが、このような脅迫行為が、甘受すべき「批判」とはまったく異質な犯罪であることは、言うまでもない。そもそも、記者の誤報の問題で、学生たちを「痛い目に」遭わせようなどという発想が、甚だしく筋違いだ。天に代わって制裁を加える「天誅」などという言葉は、思い上がりも甚だしい。自らは身を隠したまま、気に入らない人を排斥しようというやり方も、いかにも卑怯だ。

 帝塚山学院大では、(大学は脅迫とは無関係としているが)当該教授は退職した。一方、北星学園大は、学生や保護者に向けた見解をネット上に公開し、事実経過を説明したうえで、「大学の自治を侵害する卑劣な行為であり、毅然として対応する」として、警備に万全を尽くして授業は予定通り行うとしている。

 いずれも大阪府警と道警札幌厚別署が被害届を受け、威力業務妨害の疑いで捜査しているという。報道された脅迫文の内容は似通っているところもある。両警察は、情報を交換し合いながら、十分な体制で捜査を尽くしてもらいたい。

 ただ、問題はこの2件にとどまらない。朝日新聞社の記者は実名でツイッターに登録し、発信している人が少なくない。慰安婦報道の訂正に関する池上彰氏のコラムの掲載を見合わせた件では、多くの記者が、自社の判断を批判するツイートをしていた。こうしたツイッターアカウントを集めて「朝日関係者殺害リスト」なるものを作った人物がいた。その人物のアカウントは匿名である。

 実際に殺傷行為に及ぶつもりではないだろうが、リストに加えられたある記者は、次のようなツイートをしている。

<「阪神支局襲撃事件」で、本当に記者が射殺されている朝日新聞の記者としては、世界とつながっている「公的な場」であるツイッターでの「殺害予告」のような態度表明は、決して笑って流すような問題ではありません。>

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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