4日に行われた会見では、9月30日付で新たにみずほFGの法令順守担当となった岡部俊胤副頭取(旧富士銀行出身)が「頭取らトップには報告されていなかった」と繰り返していたが、その説明はわずか4日でひっくり返った。
問題の融資はみずほグループの信販大手・オリエントコーポレーション(オリコ)を通じた中古車などのローン。2010年12月には行内で把握されていたが、抜本的な解決策を取らなかったため融資の件数は200件以上にふくらみ、12年12月に金融庁検査で指摘されるまで継続していた。
問題融資の情報は当時の副頭取で止まり、頭取ら経営トップに伝えられなかったというのが、これまでのみずほ銀行の主張だった。
それが一転して、経営トップに報告が上がっていたという事実を認めた。佐藤頭取は、「行内の調査委員会で、徹底的に調べた。前週末(10月5~6日)に資料を洗う作業で、(トップへの報告を示す)資料を見つけた」と説明したが、銀行業界内では以前から「この手の問題融資の報告がトップに報告が上がらないわけがない」と疑問視する声が上がっていた。結局トップが報告を受けていたことを認めたが、なぜ放置してきたのかという説明はまったくなされていない。
●オリコは旧第一勧銀の案件
問題のポイントは、オリコは旧第一勧業銀行案件だということだ。旧興銀や旧富士銀はオリコの問題に口を挟まないのが行内では不文律だ。オリコが07年3月期に4613億円の巨額赤字に転落し経営危機が表面化した時、みずほ銀行が再建に送り込んだのは、第一勧銀の出身者たちだった。07年6月、第一勧銀出身でみずほコーポレート銀行副頭取の沖本隆史氏が会長、同じ第一勧銀出身でみずほ銀行常務の西田宜正氏が社長に就いた。
みずほが出資比率を高め持ち分法適用会社に組み入れられた翌年の11年6月、西田氏が会長になり、第一勧銀出身でみずほFG常務の斎藤雅之氏が後を継いだ。オリコの2トップは、いずれも第一勧銀出身者である。
持ち分法適用会社に組み入れた直後の10年12月、みずほ銀行は、オリコとの提携ローンの事後審査を開始した。当時の上野徹郎副頭取(第一勧銀出身、在任09年4月~11年3月)らは顧客に暴力団構成員がいることを把握。西堀利頭取(富士銀出身、同09年4月~11年6月)に報告がいった。西堀氏は防止策について「確かに検討した記憶がある」と語っている。
11年6月、重要な首脳人事があった。みずほFG社長だった塚本隆史氏(第一勧銀出身、同09年4月~11年6月)が、みずほ銀行頭取(11年6月~13年6月)に就いた。当時、親会社の社長から子会社の頭取に降格したことで不思議がられたが、今となっては、オリコ問題が原因だったことがわかる。みずほ銀行は塚本頭取、オリコは斎藤雅之社長の第一勧銀出身者で問題融資の処理に当たることになったということだ。塚本氏がみずほFG社長当時、斎藤氏は常務で直属の部下だった。
しかし、両トップが防止策を打ち出せなかったことが、今回の問題につながった。この間、旧興銀と旧富士銀は事態を静観していた。興銀出身の佐藤頭取は11年6月からグループを統括する持ち株会社・みずほFG社長を務めている。社長就任後のFG取締役会では、オリコの暴力団構成員向けの融資は何度も報告されていた。
佐藤氏は、取締役会には資料が配られただけで議論はなく、「資料も見た記憶はない」と語っている。記憶にないということは、オリコの問題は第一勧銀が処理する案件だと認識していたことを裏付ける。
●くすぶる2トップ辞任観測と次期人事
02年、小泉純一郎政権は公約である不良債権処理を実現するために、それぞれの都市銀行が抱える“危ないゼネコン”の再編・淘汰を促した。これを受けて、みずほFGは、飛島建設と佐藤工業、ハザマ(現・安藤ハザマ)の3社を統合して、みずほ建設をつくるシナリオを書いた。メインバンクは飛島が旧富士銀、佐藤工業とハザマは旧第一勧銀だった。
しかし、この構想はうまくいかなかった。第一銀行と日本勧業銀行の合併銀行である第一勧銀出身の役員間で意見が割れ、銀行として意思決定できなかったのが最大の原因だ。「うちはハザマをピカピカの会社にした。なんで佐藤工業と一緒にならなきゃいけないんだ」と反対する第一銀行出身の役員もいた。旧第一銀行系と旧日本勧業銀行系の確執だ。合併して何十年経っても、旧行が取引先を丸抱えする意識はそう簡単に消えるものではない。
みずほ銀行内では、暴力団構成員に対する融資を放置した今回の問題の主犯として、第一勧銀出身者トップの塚本隆史氏の名が挙がっている。事件当時、みずほFG社長とみずほ銀行頭取を務め、現在はみずほFG会長だ。
経営責任を取り、みずほFGの塚本会長、佐藤社長の2トップは引責辞任するとの見方が強まる中、後任としてみずほ銀行内では、同FGの法令順守担当副社長でみずほ銀副頭取を兼務する富士銀出身の岡部俊胤氏が有力視されている。もしこの見方が現実となれば、旧第一勧銀と旧興銀が沈み、旧富士銀が浮上する構図が明確になる。
(文=編集部)