日立は今回の経営トップ人事に合わせて、CEOとCOOの職位を新設する。日立の経営課題はグローバル展開で、先行する米ゼネラル・エレクトリック(GE)、独シーメンスを追撃する。
川村隆会長は1月8日の記者会見で「シーメンスなどは2010年に本格的な構造改革をした。日本(=日立)と差がついている」と危機感をあらわにした。リーマン・ショックなどにより巨額赤字を計上した直後に子会社の会長から日立本体の社長に異例の登板をした川村氏は、「脱・総合電機」を宣言。ハードディスク駆動装置事業の売却、薄型テレビの国内生産の終了、三菱重工業と火力発電事業の統合など、さまざまな構造改革を断行してきた。
その結果、14年3月期連結決算で5000億円の営業利益を想定し、これまでの最高である5064億円(1991年3月期)の更新が視野に入るまでに業績のV字回復を果たした。今後は経営再建から成長へと新たな段階に移ることになるが、経営の立て直しに追われている間に大きく差をつけられたGEやシーメンスの追撃のポイントとなるのが、今回のCEOとCOOの新設なのだ。
CEOに就く中西会長は、事業再編や買収などグループの中長期的な戦略を決める。COOとなる東原社長が世界中を飛び回ってトップセールスを行う。このように役割分担を明確にした。これまでは川村会長が高齢なため、中西社長がトップとして仕事の多くを分担してきたが、今後は2トップ体制に移行し、COOがトップセールスを展開することになる。
社長兼COOに就任する東原氏は徳島県小松島市出身。徳島大学工学部を卒業後、日立に入社。工場の生産設備設計や鉄道の運行システムの設計、電力、医療など、さまざまな分野を経験してきた。89年には米ボストン大学大学院(コンピュータサイエンス専攻)に留学したほか、08年にはドイツ子会社のトップに就任して、発電設備を売り歩いた。東京大学卒が多い日立幹部の中で、地方大学卒は異色の存在だ。とはいえ、東原氏は中西氏の“秘蔵っ子”といわれる存在。入社直後に配属された大みか工場(茨城県)でコンピュータ関連実習の指導をしたのが、当時技師であった中西氏だった。
東原氏は「新人時代にタイプライターで作成した週報を中西氏に提出して添削してもらった。中西さんは教育熱心で本当に面倒見がよかった」と語り、今でも、その週報を大事に保管している。東原氏は敬意と親しみを込めて中西氏のことを「ビッグボス」と呼ぶ。
グローバル展開する日立のCOOは、海外の経営トップや政府の要人に会ってトップセールスすることが重要な仕事になる。GEはジェフリー・イメルトというスター経営者が世界の経営トップや政府要人との間に人脈を築いたことで知られている。東原氏は、世界に人脈を広げることができるかがポイントになる。
●CEO・COOを廃止した新日鐵住金の狙い
一方、新日鐵住金は、社長交代に合わせて会長と社長がそれぞれ兼務するCEOとCOOの職位を廃止する。4月1日付で進藤孝生副社長が社長に昇格し、友野宏社長兼COOは代表権を持つ副会長に就任。宗岡正二会長兼CEOは会長職を続投する。
12年10月に新日本製鐵と住友金属工業が合併した際に、社内融和を図るために新日鐵出身者が会長兼CEO、住金出身者が社長兼COOになってバランスを取った。組織統合が進み、社長に権限を一本化しても社内融和に問題はないと判断。そこで社長が経営を陣頭指揮するワントップ体制に移行する。