携帯電話各キャリアから2014年3月期の携帯電話契約数が発表され、これにより2013年度の各社の新規顧客獲得数の状況が明らかになった。
新規契約による契約純増数に注目が集まりがちだが、昨今の新規契約は2台目以降の買い増しニーズによるものが多いといわれている。各社の現在の勢いを測る上で指標にしたいのは、MNP(携帯電話のキャリアをまたぐ番号継続サービス)の動向だ。既存ユーザーがキャリアを乗り換えるMNPは、キャリアに対するユーザーからの評価を色濃く反映させたものといえ、携帯電話業界の現状を把握する上で純増数以上に参考になるのだ。
13年度のMNPの動向をまとめると、KDDI(au)が約83万4700件の転入超過数で2年連続のトップ。auは30カ月連続の転入超過数トップを更新しており、2位のソフトバンクモバイル(41万1200件の転入超過)に対して倍近いMNP純増数を獲得した。一方のNTTドコモはiPhone導入以降に若干の改善が見られたものの、転出超過の傾向は続き、年間で123万4300件の転出超過となった。ドコモから流出した顧客をauとソフトバンクが獲得するという構図に大きな変化は見られず、ドコモの“独り負け”状態は2013年度も続いたかたちだ。
●自ら仕掛けた消耗戦でドコモが独り負け
MNPでの顧客獲得と聞いて思い浮かべるのは、販売時に行っている高額なキャッシュバックだ。縮小傾向にあるものの、今でも7万円のキャッシュバックを行っている携帯電話販売店もある。主力機種であるiPhoneの販売に至っては、MNPによる新規契約に対してさらに高額なキャッシュバックを付与し、激しい顧客獲得競争を繰り広げている。こうしたキャッシュバックは建前上、量販店が独自の裁量で付与しているものだが、その原資は携帯電話会社が負担しているともいわれ、これが携帯電話会社の収益を圧迫しているのではないかという懸念も指摘されている。
実は、こうした“キャッシュバック戦争”の先駆け的な存在は、新規顧客獲得に最も苦労しているドコモだった。12年の夏、ドコモは沖縄県限定でスマートフォンとタブレット端末を同時契約する顧客に対して、10万円のキャッシュバックを“テストマーケティング”として展開。県内で劣勢だったシェアを急拡大させ、競合の沖縄セルラー(KDDIの沖縄地域サービス会社)との間に壮絶なキャッシュバック戦争が巻き起こったのだ。
しかし、この沖縄県における一連の動きは、キャッシュバックによる顧客獲得が携帯電話会社にとって大きな負担で“消耗戦”となるだけでなく、顧客獲得への効果が一時的なものにしかならないということを物語っている。なぜなら、先ほどのケースで沖縄セルラーは一時的にシェアをドコモに奪われることになったのだが、スマホと固定通信サービスのセット割引「auスマートバリュー」の対応エリアを拡大してアピールを強化。沖縄セルラーの契約数は回復し、再びシェアを取り戻すことができたからだ。
ドコモにしてみれば、キャッシュバックが契約者の確実な増加や収益の確保、スケールメリットによるサービス品質の向上につながれば、持ち出したコストを回収するだけの算段が立ったのかもしれない。しかし、残念ながらキャッシュバックによる“消耗戦”を挑んだ結果として大量の顧客流出を招いてしまった。ドコモは自ら仕掛けた戦略で敗北する結果となったのである。
昨年度のMNPの動向を見ても、キャッシュバックという一時の魅力だけで消費者の心をつかめるほど単純なものではないことは明白だ。ドコモもソフトバンクも大量のキャッシュバック予算をかける中で、auがMNPで最も選ばれる結果となったのは、端末、ネットワーク、サービス、コストパフォーマンスという携帯電話キャリアの「総合力」が消費者に認められているからといえるのではないか。いまや携帯電話は毎日の生活に欠かせないライフラインだ。各キャリアは、つながりやすいネットワークの整備を続け、使いやすさをサポートするさまざまなサービスの開発など地道な努力が不可欠だろう。
(文=編集部)