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和歌山初のイオンモール、地域密着&全世代配慮型店舗で地域商業圏変化の起爆剤になるか

文=長田貴仁
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和歌山初のイオンモール、地域密着&全世代配慮型店舗で地域商業圏変化の起爆剤になるかの画像1「イオンモール和歌山 公式サイト」より

 5月8日付当サイト記事『イオン、積極出店が呼ぶ地方商業圏の地殻変動と、グローカル経営で狙う地方との共存共栄』でも一部触れたとおり、2012年4月に、南海電鉄の100駅目の記念駅として開業した新駅・南海本線「和歌山大学前(ふじと台)駅」が開業したのに続き、同駅前に和歌山県内初の複合型ショッピングモール「イオンモール和歌山」(和歌山市中字楠谷)が3月16日にオープンした。

 これまで和歌山大学の周辺には、めぼしい商業施設どころか学生街と呼べるストリートもなかった。それどころか、最寄り駅といっても、遠く離れた南海電鉄の紀ノ川駅(本部棟前まで約3km、徒歩で約30分)や和歌山市駅(同約5.5km、バスで約20~25分)のみ。それが、新駅誕生により大学までの距離は2km弱まで短縮され、新駅前からバスに乗ればあっという間に到着できるようになった。何よりも、大学名がついた駅ができたことによる広告効果は大きい。ちなみに新駅は、和歌山県や和歌山市など地元からの請願駅で、南海電鉄にとっても100駅目となる記念駅として開設された。「和歌山大学」の名称を駅名に冠することで、南海本線のイメージアップを期待している。

 この新駅にデッキで直結する向かい側に、和歌山最大のショッピングゾーンができたことで、キャンパスライフを謳歌したい大学生にとっては魅力が大幅に増すことになる。今、ほとんどの大学が受験生を対象にオープンキャンパスなる大学説明会を開催している。ここでは、講義内容よりもキャンパスのトイレや学食(学生食堂)のおしゃれさを気にする高校生が少なくない。こういった趨勢の中で、事実上、和歌山大学のキャンパスの一部になったイオンモール和歌山によるPR効果は大きい。

 大学はどこも18歳人口の減少により、少しでも多くの受験生を確保することが重要課題の一つになっている。和歌山高等商業学校および和歌山師範学校の伝統を継ぐ国立の和歌山大学でさえ、地方大学ゆえ安穏としていられなくなっている。かといって支出を大幅に増やすわけにはいかない。民間資本により開設されたこれら2大施設は、まさに、和歌山大学にとっては、渡りに船といえよう。

 もちろん、和歌山大学だけでなく、イオンモール和歌山は他地域にできたイオンモール同様、和歌山地域全体の商圏構造を変える起爆剤になりそうだ。案の定、同モール開設前に、それを象徴する出来事が起こった。

 13年12月26日、高島屋(大阪市中央区)が南海和歌山ビルに入居するデパート「和歌山タカシマヤ」を14年8月末日で閉店する、と発表したのである。1973年5月にオープンした同店は、売り上げが91年の約65億円をピークに減り続け、13年2月期は22億円を割ってしまった。実に赤字は10年以上続いていた。和歌山市内では、98年に大丸百貨店、01年に丸正百貨店が相次いで閉店。和歌山タカシマヤの撤退で、老舗百貨店はJR和歌山駅に隣接する近鉄百貨店和歌山店のみとなる。郊外にイオンモールができると旧市街はシャッター商店街と化す、といわれているが、和歌山ではイオンモールのオープン前に老舗百貨店が退出を強いられた。

丘の上の最上級メゾン

 ここで、イオンモール和歌山の概要を説明しておこう。同モールがあるのは、地元ディベロッパーの浅井建設が中心になり開発を進めている和歌山市北部の大規模住宅地・ふじと台。和歌山市駅からは急行電車で約6分の立地だ。国道26号線沿いにあるため、さらに現在事業推進中の本計画地に接道する市道中平井線と第二阪和国道の結節点である「平井ランプ(仮称)」から大谷ランプまでの区間が供用開始されると、アクセスが飛躍的に向上することから、周辺だけでなく南部は和歌山市内、北部は大阪府岬町・阪南市方面からの集客が見込まれる。なお、駐車場は3500台分が用意されている。

 開発のコンセプトは、「丘の上の最上級メゾン」。緑豊かな環境を取り入れ、くつろぎのある上質な時間を提供し、「食」や「趣味」も三世代共通で楽しめる商業施設を目指している。敷地面積は約15万5000平方メートル、イオン和歌山店と専門店、シネマコンプレックス「イオンシネマ和歌山」などで構成されている。建物は、地下1階地上4階建て。延べ床面積は約12万8000平方メートル。わずか数十キロ先にある「イオンモールりんくう泉南」(大阪府泉南市)は敷地面積13万9822平方メートル、延床面積15万6642平方メートル、商業施設面積7万7026平方メートル、駐車台数4300台となっている。敷地面積では和歌山がりんくうより少し広く、延床面積・店舗面積は2/3程度である。

 イオンモール和歌山は、核店舗の総合スーパー「イオン和歌山店」と専門店で構成される。専門店は約210店舗で、その6割以上が和歌山県初出店となる。和歌山店は服飾関連を強化したのに加えて、地元ならではのライフスタイルや客層に対応しているのが最も差別化できる点である。ちなみに、りんくうはスポーツや家電を強化することですみ分けを行い、共食いを避けようとしている。

さまざまな試みが実践

 和歌山市は牛肉消費量が全国平均よりかなり多いため、イオンモール和歌山は、イオン直営では珍しい量り売りもする対面販売の牛肉売り場を設けた。和歌山の魚や果物を揃えたコーナーも目を引く。1階には、田辺市のプラスが経営する農産物直売所「産直市場よってって」がある。同店は田辺市稲成町など県内外に出店しており、これで14店舗目となる。直売所がショッピングモールに出店するのは全国で初めて。また、和歌山で人気の洋菓子店の商品が買える「スイーツワールド」も注目されている。衣料品売り場は、近くに和歌山大学があることから、若者向けが充実。映画館は、シーンと連動して動く座席を近畿で初めて導入した。

 これまでのイオンモールで見られなかった店舗としては、メルセデス・ベンツ日本と正規販売店契約を結ぶシュテルン和歌山が新たにオープンした「メルセデス・ベンツ和歌山 イオンモールプラザ」がある。ショッピングモール屋上に設置され、駐車場から直接アクセスできる「オートモール」に入居した。食材にこだわったカフェを併設し、ドリンクやオリジナルフードをきっかけに、気軽に立ち寄れるように配慮されている。

 昨年末にオープンしたイオンモール幕張新都心での成功体験を背景に、イオンモール第2号店としてイオンモール和歌山に出店する店舗もある。それは、「家族でメガネ選びが楽しめる空間の提供」をコンセプトにした「Zoff Marche(ゾフ・マルシェ)和歌山店」。インターメスティックが展開するファミリー業態の2号店で、関西初出店となる。同店では、約1500本のメガネを展示、店内の通路も十分な空間を設け、ベビーカーやカートを押しながらゆったりメガネを見ることができる。店内には同社初の子どもたちが遊べるプレイスペースを設置し、親がメガネを選んでいる間に子どもたちは自由に遊べる。

 このほかにも、子育て世代への配慮は各所で見られる。授乳室などがある「ベビールーム」を各階に設置し、1階と3階のルームには遊び場を備えた。子ども用トイレ「キッズトイレ」も5カ所に設けた。約1000席で和歌山県最大の規模を誇るフードコートでも「キッズレインボースペース」など子ども連れで利用しやすい席も用意している。
一方、高齢者対応としては、各所にベンチやソファを置くなど、休憩しながら買い物できるようにした。

 施設の充実に加えて、顧客の囲い込み、防災対策などにも配慮している。顧客の囲い込みでは、電子マネー「紀の国わかやまWAON」の発行も開始された。「紀の国わかやまWAON」は、イオンが全国で取り組む「ご当地WAON」の88枚目のカードで、利用金額の0.1%が地元団体等に寄付され、和歌山の地域振興などに使われる仕組み。防災対策では、イオンモール和歌山と和歌山市が、大規模災害時に被災者への避難場所や災害に関する情報などを提供する協定を締結した。

 以上みてきたように、さまざまな新しい取り組みが施されたイオンモール和歌山の開業が、和歌山大学のみならず地域商業圏が生まれ変わる起爆剤となるのか、地元だけでなく、日本の流通業界全体から注目されている。
(文=長田貴仁)

長田貴仁

長田貴仁

ビジネス誌「プレジデント」編集部を経て、2005年4月、神戸大学大学院経営学研究科助(准)教授に就任。研究・教育に携わる傍ら、同研究科が設立したNPO法人現代経営学研究所が発行する学術誌「ビジネス・インサイト」の編集責任者を務め、抜本的に改革する。その後、他3大学の社会人MBAや複数の大学の学部でも、客員教授、非常勤講師として教鞭を執ってきた。2013年4月から岡山商科大学に招かれ、15年から18年3月まで2期4年、経営学部長を務めた。日本人学生だけでなく、多くの留学生とも交流を深め、草の根のグローバル化を実践している。所属学会・研究所は、組織学会、日本経営学会、経営史学会、日本ベンチャー学会、企業家研究フォーラム、日本マーケティング学会、日本広報学会、経営行動科学学会、神戸大学経済経営研究所、現代経営学研究所。

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