「プリウスが売れていない」
自動車業界では、そんな声が飛び交っている。声が強まったのは、2017年頃からだ。09年に20万8876台を販売して年間の新車販売ランキング(軽自動車を除く)で1位に輝いたトヨタ自動車「プリウス」は、10年には31万5669台にまで販売台数が成長。2位のホンダ「フィット」に10万台以上の差をつけたのだから、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの驚異的な売れ行きだった。
11年は東日本大震災の影響があって販売台数が落ちた(とはいえ25万2528台を販売)が、12年には31万7675台と再び30万台を突破。驚異的な強さを見せつけた。やや台数を落とすものの、13年には25万3711台を販売している。
その後は、消費税引き上げによる買い控えやフルモデルチェンジ前ということもあって14年と15年には20万台を割り込むが、現行型(4代目)へのフルモデルチェンジを経た16年には24万8258台と勢いが復活。しかし、それ以降は、17年は16万912台、昨年18年は11万5462台と、近年は時間の経過とともに販売台数が減少しているのは数字を見れば明確だ。かつてのようには売れていない。
プリウス不振の原因はデザインなのか?
その原因が、4代目プリウスのデザインにあるという意見は根強い。4代目プリウスは、シンプルで誰もが受け入れやすかった2代目や3代目のデザインとは異なり、大幅に個性が増した。「歌舞伎顔」ともいわれる、ヘッドライトの一部が涙のように垂れ下がっていて、見方によっては歌舞伎の隈取りのようにも見えるフロントマスクに賛否があったのは事実だ。
その狙いは、「一目でプリウスだとわかる個性を盛り込み、存在感を高める」というもの。しかし、豊田章男社長自らが「今のプリウスはカッコ悪いと思っている」と自動車メディア関係者との懇談の場でコメントしたのは有名な話。昨年秋のマイナーチェンジでは、プリウス史上初めてフロントマスクが大きく変更されてクリーンな表情になったのも、トヨタ自身が「個性が強すぎた」と反省していることの表れだろう。
とはいえ、その個性あふれるデザインだけが大幅な販売台数減の理由かといえば、決してそうではないように思える。現行型にモデルチェンジした直後の16年に約25万台を販売したことを考えれば、決してデザインそのものが受け入れられなかったというわけではないのだ。
むしろ、販売台数が約16万台まで落ちた17年でも年間の乗用車販売台数ランキング(軽自動車を除く)では堂々の1位に輝いていて、さらに販売台数を下げた18年でもランキング3位につけていることに着目すべきである。台数だけを見ると落ちているのは事実だが、「しっかりと売れている車種」であることは変わらないのだから。
プリウス販売減の本当の理由
では、なぜプリウスはかつてほど売れなくなったのか? その理由を探るには、昨今の人気車種がヒントになる。プリウスが年間販売台数トップから陥落した13年に1位に輝いたのは、同門であるトヨタの「アクア」で、これもハイブリッドカーである。そして、18年に年間販売トップに輝いた日産自動車「ノート」も「e-POWER」と呼ぶハイブリッドモデルの人気が販売を後押ししている。
かつてはハイブリッドカーといえばプリウスが代表格で、ほかの選択肢が少なく、「とりあえずプリウスを買っておけば安心」という状況だった。ところが、昨今はトヨタの人気車種だけを見てもコンパクトカーの「アクア」にミニバンの「シエンタ」や「ヴォクシー/ノア」、セダンの「カローラ」、そしてSUV(スポーツ用多目的車)の「C-HR」とハイブリッドモデルが数多く存在。プリウスを選ばなくても、魅力あふれるハイブリッドカーが選べる状況へと変化しているのだ。
プリウス販売台数減の理由。それは、ハイブリッドカーが増え、プリウス一極集中ではなくなったこと。すなわち、ハイブリッドカーの一般化と繁栄が招いた結果なのである。もはや、ハイブリッドカー市場は「ハイブリッドカーの元祖」というだけでは勝負できない環境といえるだろう。
(文=工藤貴宏/モータージャーナリスト)