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アニメ制作会社、倒産等が過去最多に…年収100万円台、月393時間労働で“業界劣化”

構成=長井雄一朗/ライター
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京都アニメーションの犠牲者を追悼する式にあわせて展示されたイラストやメッセージ(写真:毎日新聞社/アフロ)

 今夏、アニメ業界では2つの大きなトピックがあった。ひとつは、新海誠監督のアニメ映画『天気の子』の大ヒットだ。興行収入は140億円を超え、アニメ界のアカデミー賞といわれる「第47回アニー賞」の「長編インディペンデント作品賞」「長編作品監督賞」など計4部門にノミネートされている。また、米アカデミー賞の国際長編映画賞部門の日本代表および長編アニメーション賞候補にも選ばれており、最終候補に残るかどうかが注目されている。

 一方、『涼宮ハルヒの憂鬱』『けいおん!』などで知られるアニメ制作会社の京都アニメーションで放火事件が起き、36名の死者を出す痛ましい出来事もあった。この事件に対しては世界中のアニメファンから追悼の意が寄せられるなど、今や日本のアニメは世界で人気を博している。

 帝国データバンクが9月に発表した「アニメ制作業界動向調査」によると、アニメ業界は一時の停滞から持ち直しつつあるものの、収益力には課題が残るという。また、現場の労働環境が問題視される状況も変わっていないようだ。アニメ業界の現状と今後の見通しについて、帝国データバンクデータソリューション企画部情報統括課の飯島大介氏に聞いた。

乱立する制作会社、倒産などが過去最多に

――調査の概要から、教えてください。

飯島大介氏(以下、飯島) 当社が保有する企業情報データベース「COSMOS2」での2018年(1~12月期決算)のアニメ制作会社の収入高(売上高)合計は2131億7300万円となり、11年以降8年連続で前年を上回り、過去最高を更新しました。1社当たり平均収入高は8億4300万円(前年比8.1%増)で、06~07年以来11年ぶりに2年連続で前年を上回り、ピークとなった07年(9億9200万円)の8割超の水準まで上昇しています。

 一方、収入高動向では「増収」が34.1%で2年ぶりに前年を下回りました。このうち、直接制作を受託・完成させる能力を持つ元請やグロス請と呼ばれる企業では増収企業が35.6%で、全体を1.5 ポイント上回っています。また、最終損益で「赤字」となった企業が30.4%を占め、3年ぶりに増加しました。この割合は過去10年で最大です。

 一時期は「アニメバブル崩壊」とも言われましたが、制作本数が増えたことでヒット作も生まれ、ライセンス収入などの拡大もあって、業績は回復基調にあります。しかしながら、収益力には課題があるといえそうです。

 ちなみに、今のように深夜アニメが増えた背景には、06年から始まった『涼宮ハルヒ』シリーズの成功が大きく影響しています。当時の深夜枠といえば、テレビ局にとって予算が少なく、視聴率も望めない枠でした。しかし、『ハルヒ』のヒットはその定説を覆し、深夜放送枠でアニメが大量に放送されるきっかけとなりました。

――現在、アニメは製作委員会方式により各社が出資して制作されるケースが多いですね。

飯島 テレビ局やビデオ会社はもとより、出版社やレコード会社、商社、広告代理店、映画会社、おもちゃ会社、元請アニメ制作会社などが出資し、制作会社に依頼します。製作委員会と制作会社は元請けと下請けの関係。当然、元請けとしては制作費の安い制作会社に委託したい。一方、仕事がほしい制作会社は安値受注に走るケースが増えており、これが現場の疲弊につながっている側面もあります。

 アニメ業界の著名人も、こうしたアニメ業界の現状に強く警鐘を鳴らしています。『新世紀エヴァンゲリオン』などで知られる庵野秀明監督は「このままではアニメ制作会社はダメになる」と発言。ヒット作品を多数生み出す庵野監督の言及は多くの注目を集めました。こうした動きもあって、製作委員会側が制作単価を上げる動きもありますが、出資する関係者すべての同意がないと制作費を値上げすることはできない事情もあり、簡単に解決する問題ではないのです。

――アニメ制作会社の数は増えているようですね。

飯島 19年7月時点で256社で、そのうち00年以降に設立された新興系企業は154社と全体の6割を占めています。独立しやすい業界事情もあり、乱立状態といえます。しかし、今は人件費が高騰しているため、十分な利益を上げるのは容易ではありません。劇場版アニメ『虐殺器官』を制作していたマングローブは15年11月に東京地裁から破産手続開始の決定を受けましたが、自転車操業を続けた挙げ句に資金繰りに窮してしまったようです。

――今回の調査では、倒産の多さもトピックになっています。

飯島 18年は倒産が6社、休廃業・解散5社で合計11社となり、10年(8社)を上回って過去最多を更新しました。代表例として、『いなり、こんこん、恋いろは。』『ハイスクール・フリート』などを制作していたプロダクションアイムズ、『クリオネの灯り』などを制作していたdropなどが挙げられます。請負単価の低下などで収入高が減少したほか、人材不足で人件費が高騰したり下請業者などへの支払いが増大したりして、資金繰りに行き詰まるケースが目立ちます。

年収100万円台で“やりがい搾取”

――制作現場の働き方改革についてはいかがでしょうか。『時をかける少女』などで知られる日本テレビ子会社のマッドハウスでは、ある社員が月393時間労働で倒れたことやパワハラなどを告発し、同社は残業代の未払いについて労働基準監督署から是正勧告を受けました。また、『海獣の子供』『鉄コン筋クリート』などのSTUDIO 4℃でも労使紛争が発生しています。

飯島 働き方改革が社会全体の課題となるなか、アニメ業界の劣悪な労働環境が表面化したケースだと見ています。アニメーターの年収は100万円台で、総監督レベルでも年収600万円に満たないという調査もありました。一方、アニメ業界はアニメが好きで仕事にしている人たちが多く、交渉事が苦手なクリエイターも多い。そのため、いわゆる“やりがい搾取”が横行しているといえます。業界としても危機感を持っており、人材投資に注力する大手も出始めていますが、現状を見る限り劇的な改善には至っていません。

――今後、アニメ業界はどうなっていくと見ていますか。

飯島 現在、アニメの制作本数は年間300本を超える水準で推移していますが、この状態が長く続くとは思えません。一方、アニメ業界を維持していくためには、今の方法で仕事を回していくしかないのも事実です。少なくとも、業界として確実に利益を得られるような構造をつくり上げていくべきでしょう。

 ただ、今ではコンピュータグラフィックでの制作も進んでいます。テクノロジーの発展によって、やがて原画マンや動画マンは不要になるかもしれません。すでに、中国ではAI(人工知能)がアニメを制作するケースも出てきています。

――最近、中国のアニメ制作会社が日本の技術者を引き抜くという動きもありますが。

飯島 娯楽が少ない中国では日本のアニメが人気です。そのため、高いクオリティの作品を生み出す日本人アニメーターの技術は、成長を続ける中国アニメ業界にとっても喉から手が出るほど欲しい。日本国内にも中国資本のアニメ制作会社はありますし、人材引き抜きなどのケースは今後増えてもおかしくないと見ています。

 アニメ人材の獲得競争が活発になれば、優秀なアニメーターを引き抜かれる立場の日本アニメ産業では今後、劣化が進む可能性があります。また、中国は日本と比べ相対的に人件費が安いため、同じコストでも中国企業のほうが日本企業よりクオリティの高い作品を制作する時代が来るかもしれません。

(構成=長井雄一朗/ライター)

長井雄一朗/ライター

長井雄一朗/ライター

建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス関係で執筆中。

Twitter:@asianotabito

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