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『クレしん』『らき☆すた』…「アニメの聖地といえば埼玉」を目指す埼玉県の観光戦略

構成=長井雄一朗/ライター
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『クレしん』『らき☆すた』…「アニメの聖地といえば埼玉」を目指す埼玉県の観光戦略の画像1『らき☆すた』の舞台となった久喜市鷲宮の鷲宮神社

 ファンが好きなアニメ作品の舞台などをめぐる「聖地巡礼」がブームとなっていることもあり、今「アニメツーリズム」が注目を浴びている。各自治体が力を入れるなか、埼玉県は「アニメの聖地といえば埼玉」を目指している。

クレヨンしんちゃん』『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』などの舞台である埼玉県は、「アニメ強化月間」と位置付ける毎年7~10月に大々的に埼玉県のアニメをアピールし、10月には「アニメだ!埼玉~埼玉まるごとアニ玉祭~」を開催するなど、アニメと観光資源を結びつける動きを多数展開している。

 埼玉県のアニメツーリズム戦略について、同県の産業労働部観光課に話を聞いた。

海外でも人気の『クレヨンしんちゃん』

――まず、埼玉県のアニメツーリズム戦略の概要について教えてください。

埼玉県産業労働部観光課(以下、埼玉) 「埼玉県観光づくり基本計画」のなかで行動指針がまとめられています。観光課の主要施策のひとつとして、「アニメの聖地といえば埼玉」を目指しています。

 そのために、国内外のプロモーションをはじめ、毎年7~10月に大々的に埼玉県のアニメのアピールを実施し、10月にはアニメと漫画の総合イベント「アニ玉祭」を官民が一体となった実行委員会形式で開催しています。ほかにも、聖地セミナーや聖地サミットなどの取り組みをしています。また、「鉄道でめぐる!埼玉×アニメ・マンガ横断ラリー」を実施しており、春日部市であれば『クレヨンしんちゃん』、川越市であれば『月がきれい』の舞台などを紹介しています。

 さらに、これまではアニメやマンガの舞台を紹介するだけでしたが、昨年は、ほかの観光地にも足を運んでもらおうということで、川越市であれば「時の鐘」などの観光名所も紹介し、地元からも好評を博しました。同様に、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(秩父市)や 『心が叫びたがってるんだ。』(横瀬町)などでも、それぞれの舞台とともに観光地の紹介もしました。

――地元からも好評ということは、埼玉県民がアニメ・マンガ文化を受け入れたということですか。

埼玉 『らき☆すた』の舞台となった鷲宮町(当時、現・久喜市鷲宮)の例のように、地域の方々がオタク文化を受け入れたことでアニメツーリズムは大きく前進しました。

――どのような経緯や理由で、埼玉県はアニメに舵を切ったのでしょうか。

埼玉 きっかけは、11年前に『らき☆すた』の舞台となった鷲宮町の鷲宮神社がブレイクしたのを見て、「これは有力な観光コンテンツになる」と当時の担当者が考えたことです。そこで、5年前から「アニ玉祭」を開催するようになり、試行錯誤を重ねて今に至ります。

――海外に強いコンテンツというのはあるのでしょうか。

埼玉 『クレヨンしんちゃん』です。香港で本やおもちゃを販売する「香港ブックフェア」では、日本のブースで埼玉県も出展しPRしています。そこでしんちゃんの着ぐるみが登場すると、すごく盛り上がりました。

『クレヨンしんちゃん』に関しては、ほかにも埼玉県、春日部市、東武鉄道、イトーヨーカドー春日部店が連携して、地元の春日部をしんちゃんが盛り上げるという試みも行いました。しんちゃんのラッピングトレインとラッピングバスを運行し、イトーヨーカドー春日部店のマークを一時的に作品内のデパート「サトーココノカドー」のものにするなどの取り組みが行われ、広報などで県も協力しました。

「埼玉クイズ王決定戦」とクイズアニメがコラボ

――なぜ、埼玉県アニメの聖地化に成功したのでしょうか。

埼玉 成功したかどうかはわかりませんが、観光課の主要施策のひとつとして、「アニメの聖地といえば埼玉」を目指しています。ただし、行政の視点だけではアニメファンに受け入れられるのは難しいです。尖った視点が必要になります。

 秩父市にしても鷲宮町にしても、地元にキーパーソンがいたため、私どもと協力して一緒に盛り上げるようにしています。また、この動きをほかの市町村にも波及させるべく、埼玉県の全市町村の観光担当者を集めてアニメの聖地セミナーを定期的に開催しています。

――誘致に関して、何かいい方法はありますか。

埼玉 人脈が欠かせません。常にアニメ・マンガ業界の関係者と連絡を欠かさず、「今度、埼玉が舞台になるコンテンツはありますか?」と聞くようにしています。そのなかで、埼玉が舞台となるコンテンツの情報が得られています。

――埼玉を舞台としてマンガを描いてもらえるように要請することはありますか。

埼玉 していません。ファンの方々は敏感です。秩父や鷲宮のケースのように、じわじわと長い時間をかけて安定的に人が来るような仕組みづくりが大切です。鷲宮のイベントや祭りでは、ファンの方々が交通誘導やごみ掃除までされるそうです。本当に、鷲宮に対する愛を感じますね。

――出版社やアニメの制作会社にコラボレーションを呼びかけることはありますか。

埼玉 話が持ち込まれることもあれば、こちらから持ちかけることもあります。最近の例では、競技クイズアニメ『ナナマル サンバツ』はこちらから働きかけて「埼玉クイズ王決定戦」でのコラボが実現しました。原作マンガを読んで、登場する学校がどう見ても県内の高校で、実際にさいたま市内の風景も描写されていました。そこで、こちらから働きかけたところ、「埼玉クイズ王決定戦」での同作のビジュアルの使用許可を得られました。

グライダーのマンガに県知事が推薦文

――最近のアニメは、ほぼ実写に近いものもありますね。川越市が舞台の『月がきれい』は、その代表例です。

埼玉 『月がきれい』は実写ではないかと思うほど美しく描かれていて、リアリティのある作品です。

――マンガ『ブルーサーマル -青凪大学体育会航空部-』には県知事の推薦文が載っていましたが、どのような経緯で実現したのでしょうか。

埼玉 グライダーをご存じでしょうか。エンジンなしで上昇気流を捉えることで飛翔する飛行機で、いわば大きな紙飛行機のようなイメージです。『ブルーサーマル』は大学の体育会航空部が舞台の作品です。作者の小沢かな先生は、ご自身の部活動経験を基に描いています。

 一方、埼玉県には熊谷市妻沼にグライダーの滑空場があります。実際、作品のなかには熊谷市に実在するお店も多数登場しており、それらを舞台に大学生の恋愛、涙、笑いといった青春群像が描かれています。読んでみるととてもおもしろく、コラボすることになりました。このときはまず県知事に読んでもらい、埼玉県のPRにもなっているということでマンガの推薦文を寄せることになりました。単行本4巻の帯には「熊谷は暑いが、この漫画はもっと熱い!」という上田清司県知事の推薦コメントが載っています。ちなみに、県知事は昨年の「アニ玉祭」では『おそ松さん』のパーカーを着て出席しました。

アニメの聖地へ…さらに狙う進化

――今後の戦略や見通しを教えてください。

埼玉 昨年は、インターネット限定のアニメ『雨天の盆栽』とコラボしました。また、『ALL OUT!!』は神奈川県が舞台ですが、埼玉県熊谷市はラグビーの聖地ということもあり、ラグビーつながりでコラボしたということもありました。舞台が埼玉であればベストですが、今後は、「舞台が埼玉」ということにはこだわらない可能性もあります。

 アニメツーリズム協会が選定した「アニメ聖地88」には、埼玉県からも5カ所が選ばれています。アニメツーリズムを強化するには自治体が盛り上がることが必須であり、もっと広げていきたいです。

 そのため、地道にチャレンジを続け、アニメツーリズムで県全体を盛り上げていきたいと考えています。
(構成=長井雄一朗/ライター)

長井雄一朗/ライター

長井雄一朗/ライター

建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス関係で執筆中。

Twitter:@asianotabito

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