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新NHK経営委員長は放送への介入を主導した人物だった…安倍首相人脈に牛耳られるNHK

文=有森隆/ジャーナリスト
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NHK放送センター(「Wikipedia」より)

 前回、「NHK経営委員長は槍田松瑩氏でいいのか」と書いた。槍田氏のNHK経営委員長就任に反対する、という論調だったが、そうなると人がいない。「委員長職務代行者の森下俊三・阪神高速道路会長が委員長に昇格することはない」(永田町筋)とみられていたが、経営委員会は12月24日に定例会合を開き、互選で森下氏を委員長に選んだ。

 森下氏は、かんぽ生命保険の不正販売問題のNHK報道をめぐり、日本郵政グループが昨年10月、NHKの上田良一会長(当時)の対応について不満を伝えた際、12月10日付で退任した石原進委員長(同)とともに、上田会長への厳重注意を中心になって進めたとされる人だ。

「石原氏も森下氏も同じ穴のムジナ」(NHK関係者)ということになる。

 石原氏の前任の委員長だった浜田健一郎・元ANA総合研究所社長(第22代委員長)や小丸成洋・元福山通運社長(第20代同)なども、どちらかといえば知名度がそう高くはなかったため、森下氏でもいいのかもしれない。

「24日の会合では複数の候補の名前が挙がったが、森下氏以外は辞退し、最終的に全会一致で決まった」(前出のNHK関係者)

 森下氏は24日の会見で、厳重注意に関して、「(上田会長に)ガバナンス上、見逃せない問題があった。NHKの自主自律を損ねた意識はまったくない」と反論した。

「厳重注意は、経営委員会による番組の介入にあたる。番組への介入は禁じられているはずだ」(別のNHKの関係者)

 森下氏に反省している様子はない。NHK会長に決まった前田晃伸・みずほフィナンシャルグループ(FG)元会長は安倍晋三首相に近い「官邸の人脈」(永田町筋)といわれている。前田氏同様、森下氏も首相官邸から見れば「コントロールしやすい人物」と見られているのかもしれない。森下氏は「見識が高く、経営委での発言も含めて最適」として、委員長代行に村田晃嗣・同志社大学教授を指名し、同意を得た。

前田NHK会長の不思議

 NHK経営委員会が12月9日に現職の上田会長の再任を認めず、前田氏を全会一致で会長に選出した。“親安倍”の12月11日付読売新聞(朝刊)は<上田良一会長の退任や次期会長の人選を巡っては、安倍首相と菅官房長官が影響力を行使したとみられる>とはっきり書いた。

「官邸には上田会長が政権批判の番組に十分対応できない(放送にストップをかけられない)との不満があった。前田会長の誕生で番組内容への影響力を強めようとするのは間違いないだろう」(同)

 前田氏は会見で、安倍首相を囲む財界人でつくる「四季の会」とのかかわりを問われ、メンバーだったことを認めた。その一方で、「権力を持った政権が報道機関からチェックされるのは当たり前。きちっとした距離を保つ。どこかの政権とべったりということはまったくないし、その気もない」と言い切った。

 安倍首相の“お友だち”財界人が集う「四季の会」は、JR東海の葛西敬之取締役名誉会長と富士フイルムホールディングスの古森重隆会長の2人が中心メンバー。07年、NHKの経営委員長に古森氏が選ばれた。安倍首相の強い意向があったといわれている。古森氏はアサヒビール(現アサヒグループホールディングス)の福地茂雄相談役をNHK会長に任命した。福地氏も四季の会のメンバーだった。

 四季の会がNHKの人事で失敗したこともある。08年12月、古森経営委員会委員長が任期満了になるのを受けて、政府はみずほFGの前田社長(当時)を後任の経営委員長として提案した。国会の同意が必要で、野党の民主党(当時)が「NHKの指定金融機関のトップが経営委員に就任するのは好ましくない」と反対。前田氏の人事は国会の同意が得られなかった。前田氏の人事は一度、失敗しているのだ。

 古森氏は長崎県出身。そのためかどうかはわからないが、NHKのトップに次々と九州人脈の人が起用された。12年、第2次安倍政権の発足とほぼ同時に、NHK経営委員長に就いた浜田氏は鹿児島県の出身。その後任として16年、経営委員長に就いた石原氏はJR九州の相談役だ。つまり、NHKのトップは九州人脈一色なのだ。福地氏は福岡県戸畑市(現・北九州市)の出身。悪評高かった籾井勝人会長は福岡県の炭鉱町、嘉穂郡山田町(現・嘉麻市)出身。17年に会長に就いた三菱商事元副社長の上田良一氏は長崎県島原市の出身だ。

 そして、新しくNHKの会長になる前田氏は、福沢諭吉の郷里、大分県中津市の出身。福沢諭吉の言葉「独立自尊」を座右の銘としている。

九州人脈

「四季の会のメンバーで安倍首相に近いといわれているが、それ以上に、『九州出身の財界人人脈』が大きかったのではないか。前経営委員長の石原氏が、前田氏をかなり推したと聞いている。キヤノンの御手洗冨士夫会長とも親しいはずだ」(政界関係者)

 御手洗会長は前田氏と同郷の大分県佐伯市出身で、安倍首相のゴルフの“お友だち”だ。

「財界人とゴルフをやるときの、人選の窓口が御手洗さん」

 御手洗氏に近い財界人は「前田さんをかわいがってはいるが、今回、彼は動いていない」と言っていたが、果たして。

 前田会長は四季の会、九州人脈という二枚看板を背負って登場するわけだ。石原氏の後任の経営委員長に槍田松瑩・三井物産顧問が就任するのではないかと見られていた。槍田氏は、第2次安倍政権の発足時に四季の会のメンバーに加わった。もし、槍田経営委員長が誕生していたら、経営委員会委員長と会長は、いずれも四季の会のメンバーということになった。これで果たしていいのか。

「NHKのトップ人事は安倍人脈によるたらい回しだ」(NHK関係者)

 しかも、九州人脈が圧倒的に多い。12月10日の記者会見で、インターネットによる常時配信について聞かれた前田・新会長は「実はインターネットとか、パソコンは持っていないんです。(会長に就任するまで)もうちょっと勉強させてほしい」と答えたことで波紋を広げている。

「NHKの新しいトップはインターネットもパソコンも使えない。今こそ攻め時だ」と米ネットフリックスの経営陣は喝采しているかもしれない。

(文=有森隆/ジャーナリスト)

有森隆/ジャーナリスト

有森隆/ジャーナリスト

早稲田大学文学部卒。30年間全国紙で経済記者を務めた。経済・産業界での豊富な人脈を生かし、経済事件などをテーマに精力的な取材・執筆活動を続けている。著書は「企業舎弟闇の抗争」(講談社+α文庫)、「ネットバブル」「日本企業モラルハザード史」(以上、文春新書)、「住友銀行暗黒史」「日産独裁経営と権力抗争の末路」(以上、さくら舎)、「プロ経営者の時代」(千倉書房)など多数。

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