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NHK、会長も経営委員長も安倍首相支援の「四季の会」メンバーか…揺らぐ公共放送の中立性

文=編集部
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前田晃伸氏(写真:ロイター/アフロ)

 NHKの次期会長に決まった元みずほフィナンシャルグループ(FG)会長の前田晃伸(てるのぶ)氏(74)は10日、東京・渋谷のNHK放送センターで記者会見し、「公共放送として信頼される番組づくりを続けていく」と語った。

 会見の冒頭に、「突然の話だったので家に帰ってカミさんに初めて言ったら、『そんなのやめておけ』と言われました」と明かした。妻に関しては家族構成を説明する際に「恐ろしいカミさんと2人」と紹介。過去にマスコミに追いかけられた際に妻に怒られたとし、「今回も同じことが昨日、起こりました。ぜひ、事情をご理解して」と報道陣を笑わせた。

 2011年に不本意なかたちでみずほFGの特別顧問を退任した前田氏は、久々の表舞台への復帰となる。来年1月25日就任予定で任期は3年。上田良一会長(70)からバトンを渡される。

 当初、上田会長の続投が有力だった。ところが、9月以降、上田氏は逆風に見舞われる。かんぽ生命保険の不正販売を報じた『クローズアップ現代+』をめぐり、NHK経営委員会が上田会長を厳重注意し、上田会長が郵政側に謝罪文書を送付する事態に追い込まれた。経営委員会は12月9日、上田会長の再任を認めず、前田氏を全会一致で選出した。

 NHK関係者の間では、「政権に批判的な報道に不満を持つ首相官邸が、安倍政権とベッタリなNHK幹部と連携して人事を主導した」と受け止められている。任期満了を迎えたNHK経営委員会の石原進委員長(JR九州相談役)の置きみやげともいわれ、安倍政権に最も都合がいい人選になったといえる。

 12月24日の経営委員会で新委員長を互選で選出するが、もし委員長に三井物産顧問の槍田松瑩(うつだしょうえい)氏(76)が就任すれば、三菱商事出身の上田氏が会長のままでは両ポストが総合商社出身者となるため、それを避けた可能性もある。

「四季の会」のメンバー

 前田氏は会見で安倍晋三首相を囲む財界人でつくる「四季の会」との関わりを問われ、メンバーだったことを認めた。一方で、「権力を持った政権が報道機関からチェックされるのは当たり前。きちっとした距離を保つ。どこかの政権とべったりということはまったくないし、その気もない」と断言した。安倍首相の“お友だち”財界人が集う四季の会は、JR東海の葛西敬之・取締役名誉会長と富士フイルムホールディングス(HD)の古森重隆会長の2人が中心メンバー。

 四季の会NHK会長人事と浅からぬ関係にある。第1次安倍政権時には、NHKの報道に不満を持つメンバーが重用され、経営委員会委員長には安倍氏の強い意向で古森氏が選ばれた。古森氏はアサヒビール(現・アサヒグループホールディングス)の福地茂雄・相談役をNHK会長に任命したが、福地氏も四季の会メンバーだ。11年1月に福地会長の後任としてNHK会長に就いた松本氏は古森氏が推薦したが、松本氏は古森氏の盟友、葛西氏の元部下で、当時JR東海の副会長だった。

 08年12月、古森氏が経営委員会委員長の任期満了を迎えるのを受けて、政府はみずほFGの前田社長(当時)を提案した。NHK経営委員会の人事には国会の同意が必要だ。野党の民主党(当時)が「NHKの指定金融機関のトップが経営委員に就任するのは指導監督上、好ましくない」として反対。この人事案は国会で同意を得られなかった。大方の見方どおり槍田氏がNHK経営委員会の次期委員長に就任すれば、経営委員会委員長とNHK会長の両ポストに四季の会メンバーが座ることになる。

 前田氏は来年1月には75歳になる。「年だと思う。定例の会見もある。皆さんが、言っていることがおかしいと思ったら、すぐ辞めろという記事を書いてください。すぐに辞めますから。早めに言っていただきたい」と報道陣を笑わせたが、安倍政権とべったりとの批判を、えらく気にしていることをうかがわせた。

「町役場の出納課長」と揶揄された人物評

 前田氏は柔和な風貌に反して、「権謀術数に長けた策士。リアリズムの塊のような人物」との評がある。大分県出身。東大法学部を卒業後、1968年に富士銀行(現みずほ銀行)に入行、副頭取を務めた。第一勧業銀行、日本興業銀行との3行統合への交渉を水面下で担った立役者だ。02年4月、みずほ銀行、みずほコーポレート銀行、2行の持ち株会社みずほHDが発足した際にみずほHDの社長に就いた。

 新体制は出足からつまずいた。みずほ銀行は開業初日、大規模なシステム障害を起こし、前田氏の指導力に批判の声が上がった。金融史上、類をみない最悪のシステム障害が日本の金融機関の無誤謬性を前提とした決済システムを揺るがせた。

 衆院財務金融委員会で参考人招致された前田氏の目はうつろで、表情に精彩がなく、声はマイクを通しても聞き取れないほど小さかった。質問者や出席者からは「もっと大きな声でしゃべってください」との注文が飛んだ。グループ内からも不協和音が漏れ伝わるようになり、「町役場の出納課長さん」(金融担当記者)と揶揄された前田氏だったが、実は並外れた知恵者だった。

奇想天外の奇策でみずほを救済し、権力者へ変貌

 02年10月、小泉純一郎内閣の金融担当相に就いた竹中平蔵氏は、金融再生プログラム「竹中プラン」に基づく、大手銀行の不良債権処理を進めていった。みずほFGは03年3月期決算で、他行よりずば抜けて多い5兆円の不良債権を処理し、2兆3000億円という日本企業で過去最大の赤字となることが確実視されていた。

 そこで前田氏は、不良債権処理のために奇想天外な妙案をひねり出した。取引先に頭を下げて1兆円の奉加帳方式による増資を実行し、不良債権処理の原資を確保した。この増資には取引先3436社が応じた。実行部隊長は現ユニゾホールディングス社長の小崎哲資氏が務めた。

 それに先立つ03年1月、みずほHDは全額出資によりみずほFGを新設。同年3月、みずほFGとみずほHDの株式交換により、みずほFGがみずほHDの完全親会社になる。さらに、再生専門の子会社4社を設立し、不良債権の処理に当たらせた。これは、2つの持ち株会社に赤字の子会社と黒字の優良会社に振り分けることを意味した。具体的には、みずほFGに黒字会社を集約。赤字会社だけが残ったみずほHDは、不良債権を切り離して再生専門の4社に移した。

 これで5兆円の不良債権を処理しても、みずほFGは配当を実施することが可能になった。無配が続くと、公的資金注入で国が保有する優先株が普通株に転換され、国有化されてしまう恐れがあった。みずほFGはマジックのような“奇手”、奉加帳方式で国有化を免れた。

 竹中金融相は、みずほを国有化し、米シティバンクに売却することを想定していたといわれている。前田氏が断行した1兆円増資が、竹中氏の青写真を破った。前田氏の出身地は、福沢諭吉の郷里、大分県中津市。前田氏は福沢の言葉「独立自尊」を座右の銘としている。1兆円増資の決断を支えたのは「独立自尊」だったと後年、語っている。それが意味するものは、「最後は自分で責任を取る」。誰かに寄りかからないということだ。

「青白き秀才で、経営者に向いていない」(ライバル行のトップ)と酷評されてきた前田氏は、これを機に権力者へと変貌を遂げることになる。そんなどのようなNHK改革の妙案を打ち出すか。

ストイックな「民僚」

 3行合併をまとめた3人は、旧富士銀行の山本惠郎(よしろう)頭取、旧第一勧銀行の杉田力之頭取、旧日本興業銀行の西村正雄頭取だが、山本氏の秘蔵っ子が前田氏だった。参謀として8年間あまり、経営戦略を担当した。

 山本氏が前田氏に絶大な信頼を寄せるようになったのは、1998年7月の埼玉県春日部支店事件からだといわれている。春日部支店の行員が老夫婦を紐で絞殺した殺人事件。動機は5700万円の「浮き貸し」(資金のまた貸し)の発覚を防ぐためだった。老夫婦を殺して証拠の隠滅を図った。行内で「頭取が会見すべきだ」との声が高まった。これに断固反対したのが、当時常務だった前田氏である。頭取会見を回避し、自ら会見に臨んだ。その上で、頭取の会見を強硬に主張した中堅幹部を地方に飛ばしたのだ。楯突くものへの見せしめだった。

 確かに前田氏は「民僚」(民間企業で官僚のようにふるまう人)としては有能かもしれなかったが、「前田流の恐怖政治で行内での地歩を固めていった」と批判されたこともある。現役のバンカー時代には、毎朝5時前に起きて6時半に出社。夜は9時に就寝するという生活ぶり。夜の宴会には一切出ない。「公私ともにストイックで、贅沢というものに関心がないのでは」(みずほ銀行の元役員)といわれた。

 12月11日付読売新聞は「上田良一会長の退任や次期会長の人選を巡っては、安倍首相と菅官房長官が影響力を行使したとみられている」と報じている。

「官邸には、政権批判を行う番組に対応できない、ストップをかけられない上田会長に不満があった」(NHK関係者)

 官邸が前田氏をNHK会長にあてることで、番組内容への影響力を強めようとするのは間違いないとみられている。

(文=編集部)

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