新型コロナ陽性者の発覚封印のため検査阻止か…日本列島がダイヤモンド・プリンセス号化
衝撃を受けたTBSの『NEWS23』
2月25日(月)の23時から放送されたTBSの『NEWS23』を見て衝撃を受けた。それは、新型コロナウイルスの検査件数で、日本と韓国で2桁の差があったからだ(図1)。
筆者は医学関係者ではない。そのため、新型コロナウイルスのPCR検査が遺伝子検査であることも知らなかったし、それがどの程度大変であるか、手間暇がかかるかもわからなかった。
日本では、「風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合、強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合には、最寄りの保健所などに設置される『帰国者・接触者相談センター』にお問い合わせください」(厚生労働省、令和2年2月23日時点版のQ&A)とあるように、ある一定条件を満たさなければPCR検査を受けられない。
したがって、「きっとPCR検査は大変な検査なんだろう」と勝手に思っていたのだが、前掲の『NEWS23』に解説者として出演していた医療ガバナンス研究所の上昌広・理事長は、「PCR検査は古くからある検査で、非常に簡単な検査である」という趣旨を説明していたのである。
加藤勝信・厚生労働大臣は2月18日に、「国立感染症研究所で400件、全国の検疫所で580件、地方衛生研究所で1800件、さらに18日からは民間の検査所5カ所で900件、大学で150件の、あわせて最大で1日あたり3830件の検査が可能になった」と発表していた(2月19日付ロイター)。
ところが、日本は図1に示したように、1日当りのPCR検査数は100件にも及ばない。2月25日に7548件のPCR検査を行った韓国とは100倍もの差があるのだ。このことからは、「日本政府はPCR検査をしたくない」ということが見えてくるように感じる。実際に2月22日放送の『NEWS23』では、「新型コロナウイルスの集団感染が起きているクルーズ船内で業務していた厚生労働省などの職員の多くが、ウイルスの検査を受けずに職場に復帰していたことがわかりました。厚労省内で検査が一度は検討されたものの、陽性者が多く出た場合の業務への影響などを考慮し、見送られたということです」という内容が放送された。
このニュースを聞いた時は、呆れてものが言えなくなった。しかし、「日本政府はPCR検査をしたくない」という意図があると考えれば、辻褄が合う。
では、なぜ日本政府は、1日当り3830件できるはずのPCR検査をフル稼働して行わないのか? それは、前掲の『NEWS23』にあるように、PCR検査を行うと多数の陽性反応者が見つかってしまうからではないか。そして、日本政府は、そのことを隠蔽したいのではないかと疑わざるを得ない。
国会議事堂や首相官邸にはウイルスバリアがあるのか?
日本政府が「日本に新型コロナウイルスの感染者が多数いる」ことを隠蔽したいのは、世界における日本のイメージ悪化を恐れているからではないか。そして、その背後には、今年開催が予定されている東京五輪があるものと考えられる。もし、日本で東京五輪が開催できなくなったら、日本政府のメンツは丸つぶれになるからだ。“日本はクリーン”だというイメージを示したい。このことは、国会や予算委員会での政治家、首相官邸での内閣、およびその周辺に群がっている官僚などの姿にも見て取れる(図2)。
彼らは、なぜマスクをしないのか? 国会議事堂や首相官邸には、新型コロナウイルスの侵入を防止するバリアでもあるのか?
日本政府と比較すると、非常事態を宣言した韓国の文在寅大統領およびその周辺の大臣や政治家は、必ずマスクを着用している(図3)。この差は一体、何なんだ? もしかしたら、イメージの問題だけでなく、日本政府には危機感そのものがないのかもしれない。
「こんな事してる場合かよ」
これは、2016年に東宝で上映されてヒットした『シン・ゴジラ』の中で、内閣官房副長官秘書官の志村祐介(演:高良健吾)がつぶやいたセリフである。東京湾に出現したゴジラが、東京都大田区の呑川を、周りをぶち壊しながら遡上している最中に、巨大不明生物の学術的正体に関する緊急有識者会議が開催された。そのときに、思わず「こんな事してる場合かよ」と前述の秘書官が言ったわけだ。
日本では、2月初旬から中旬にかけて、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の中で新型コロナウイルスの感染者が日に日に拡大し、中国の武漢からも政府が用意したチャーター便で続々と日本人が帰国した。そして、市中感染も広がってきていた。
そのようななか、国会の予算委員会では、安倍首相の桜を見る会が追及されていたり、東京高等検察庁の黒川弘務検事長の突然の定年延長が白熱した議論となっていた。
これらをみて、「こんな事してる場合かよ」と思ったのは、私だけか? 日本は、まさに国難に直面しているのである。桜を見る会や検事長の定年問題は、いったん横に置いておいて、新型コロナウイルスの感染防止に全力を挙げるときなのではないのか?
なんで……さっき“上陸はあり得ない”って……
前掲の映画『シン・ゴジラ』の中で、故大杉漣が演じた大河内清次首相が記者会見で、「巨大不明生物はアクアトンネル多摩トンネル等に甚大な被害をもたらし、現在東京都大田区の呑川を遡上しております。その正体は現時点では不明ではありますが、上陸という事態は想定しづらく、水深が浅くなり川岸に打ち上げられたとしても自重で潰れ死に至ると思われますので、どうかご安心ください」と発表した。
ところが、その記者会見の最中に、ゴジラが東京の蒲田に上陸してしまった。そのことを記者会見の後に知った一人の記者が、「なんで……さっき“上陸はあり得ない”って……」とつぶやいたのである。
新型コロナウイルス感染症対策会議の座長を務めた脇田隆字・国立感染研究所長は2月19日に、「検疫期間を通じて発症者が減った」ことを説明し、「隔離が有効に行われた」として、加藤厚労相は、ダイヤモンド・プリンセスでの新型コロナウイルスの感染は2月5日以前のものであり、潜伏期間14日間を過ぎて発症しないものは下船させることを決定した(2月20日付日本経済新聞)。
この説明や決定に、違和感を持ったのは私だけか? しかし、2月19日から始まったダイヤモンド・プリンセスの下船者の中から、感染者が見つかり始めている。「なんで……さっき“下船者には感染者はいない”って……」と言いたくなったのは、私だけか?
ここは住民の自主避難に任せるしかありません
これは『シン・ゴジラ』の中で、川又・東京都副知事がはいたセリフである。状況はこうだ。蒲田に上陸したゴジラが時速13キロで品川方面に街をぶち壊しながら移動していた。そのとき、東京都庁では以下のやり取りがあった。
小塚・東京都知事「なぜ、すぐに避難指示が出せないんだ」
田原・東京副都知事「なにせ想定外の事態で、該当する初動マニュアルが見当たりません」
小塚・東京都知事「災害マニュアルは、いつも役に立たないじゃないか! すぐに避難計画を考えろ!」
田原・東京副都知事「しかし、このような事態の防災訓練も行なっておりませんし、パニックの回避を考えるならば、避難区域の広域な指定も困難です」
川又・東京都副知事「ここは住民の自主避難に任せるしかありません」
要するに、東京都庁でのゴジラへの対処は困難なため、「住民の自主避難」と言って、その対処や責任を放り出したのである。
日本政府は2月25日、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、対策の基本方針を公表した。その方針によれば、国民には「事前相談せずに(病院などに)受診しない。症状があれば外出を控える。軽症なら自宅療養を原則とする」との対応を求めている。また、企業や学校には、「症状があるなら社員は休む。テレワーク、時差出勤を推奨する。集団発生が起きた施設などには休業を要請する」としている。
これを見て、政府が新型コロナウイルスへの積極的な対処や責任を放棄し、『シン・ゴジラ』の川又・東京副都知事のように、「国民の自主対応に任せるしかありません」と感じたのは、私だけか?
ダイヤモンド・プリンセスの悲劇は“人災”
2月25日に『NEWS23』に出演した医療ガバナンス研究所の上昌広・理事長は、次のように主張している(2月25日付Japan In-depth記事『遺伝子検査行う体制作り急げ』)
「感染者の大部分は無症状あるいは軽症だ。彼らは見落とされている。私は、新型コロナウイルスは既に国内に蔓延していると考えている」
私は医療関係者ではないが、2月に入ってからの報道をみると、薄々そう感じていた。また、上氏はダイヤモンド・プリンセスの悲劇に言及し、それが起きた要因も指摘している。
「その典型が、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の悲劇だ。当初、船内には2,666人の乗客と1,045人の乗務員がいた。総勢3,711人のうち、2月23日現在、692人が感染し、重症は36人、さらに80歳代の男女4人が死亡した」
「私は、政府機能を強化することで、感染症対策が上手くいくようになるというのは、何の根拠もない仮説に過ぎないと考えている。むしろ、現状を把握してない政治家・官僚、さらに有識者の権限が強化されることで、被害は増大すると予想している」
ダイヤモンド・プリンセスの悲劇を“人災“だと思っているのは、私だけではない。
日本がダイヤモンド・プリンセスになる日
『シン・ゴジラ』では、日本政府が「緊急災害対策本部」を設置し、それに基づいて、矢口蘭堂・内閣官房副長官(演:長谷川博己)を事務局長とする「巨大不明生物特設災害対策本部(巨災対)」が立ち上げられた。
その巨災対に集められた各分野の「出世に無縁な霞ヶ関のはぐれ者、一匹狼、変わり者、オタク、問題児、鼻つまみ者、厄介者、学会の異端児」たちが、ゴジラ凍結プラン「ヤシオリ作戦」を考え出し、日米の共同作戦を行うことになった。このヤシオリ作戦の実行にあたり、矢口事務局長は、自衛隊や協力民間企業関係者を前にして、以下の様に檄を飛ばした。
「今回のヤシオリ作戦遂行に際し、放射線流の直撃や急性被曝の危険性があります。ここにいる者の生命の保証はできません。だが、どうか実行してほしい。我が国の最大の力はこの現場にあり、自衛隊はこの国を守る力が与えられている、最後の砦です。日本の未来を、君たちに託します。以上です」
「我が国の最大の力はこの現場にある」。それは私も同感だ。しかし問題は、新型コロナウイルスの対策のために、その最大の力を持っている現場を、日本政府が活用できていない(活用しようとしない)ことにある。そう思っているのは、私だけか?
日本は今、各国から渡航を禁じられ始めている。早晩、日本人の入国を拒否する国も出てくるかもしれない。今私が一番恐れているのは、“日本列島がダイヤモンド・プリンセス”のようになってしまうこと”である。『シン・ゴジラ』の巨災対のようなチームが立ち上げられ、新型コロナウイルスが駆逐されることを願うのみである。
注)2月26日放送の『NEWS23』では、日本におけるPCR検査の件数が、100件以下ではなく、1000件程度だったことが報道された。しかし、韓国では同日、1日の検査件数が1万件を超えたという。したがって、いまだに日本と韓国における検査件数の差は約10倍もある。さらに、韓国は、ドライブスルー検査を実施していることが報道された。なぜ、日本でもっとスムーズに検査ができないのか? この問題はいまだに解消していない。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)