薬の説明書を読んで疑問が湧いてしまう
先日、私が勤務する薬局に患者さんから電話で問い合わせがありました。こうして電話をしてくるということは、薬について何か疑問があるからです。患者さんに薬を渡す際に服薬指導をするのですが、「病院で長い間待たされたので、早く帰りたい」という思いが勝って「ハイ、ハイ」と聞いたふりをして帰宅したが、「なぜこの薬が出ているの?」「いつ飲んだらいいの?」と疑問が湧いてくることもあるでしょう。
今回の方は「熱があるのに、熱に効く薬が出ていなくて、咳止めが出ているのはおかしい」ということでした。咳はどの程度か質問すると「少し出る」とのことでした。また、体温は37.2度でした。この方は大人の男性で、微熱レベルなので薬を出さずに治るのを待つと処方医が判断したのでしょう。処方箋を見て私もそれが妥当だと思ったので、あえて薬の追加を依頼せずそのまま薬を渡しました。
別の例もあります。お子さんを持つお母さんから「熱が出て病院行ったのに、なぜ熱を下げる薬が出ていないのよ!」と服薬指導の際に詰め寄られたことが何度もあります。解熱鎮痛薬を処方すべきかどうかは医師の判断になります。37度台は高熱ではないため、解熱鎮痛薬なしでも問題ないと考えられます。
現在は薬の説明書が渡されるので、なんの薬が出されているかは読めばわかるようになっています。自分が感じている症状にない薬が出たりすると疑問に感じますし、実感している症状に当てはまる薬がなくても疑問に感じてしまいます。
解熱鎮痛薬を使わずに治癒を待つほうがよいこともあるのです。
解熱鎮痛薬は本当に怖い薬です
市販薬で最も副作用が多いのが総合感冒薬、2番目に多いのが解熱鎮痛薬です。もちろん最も多く発売されているのが総合感冒薬なので、件数が多くなるのは当然だと考えられがちですが、死に至るレベルとなると、ほかの薬効群に比べて圧倒的に多いのです。厚生労働省の平成19年から23年の副作用報告によると、死亡例は総合感冒薬で12人、解熱鎮痛薬で4人でした。総合感冒薬は解熱鎮痛薬のほかにさまざまな薬を混合して風邪の諸症状を和らげる薬です。つまり、解熱鎮痛薬が入っています。
解熱鎮痛薬の歴史は「アスピリン」から始まりましたが、アスピリンを飲んだ人に脳症が起こる例が多数報告されています。アスピリンより解熱鎮痛作用が強い「ジクロフェナク」や「メフェナム酸」も、脳症を引き起こすことがわかっています。「メフェナム酸」はかつて市販で飲み薬として発売されていたのですが、副作用のため市販されなくなりました。“メフェナム酸信者”の方に「前はあったのに!」と何度も詰め寄られたこともあります。「大きい副作用が出たので市販されていないんです」と説明しても「今まで大丈夫だったんだから! これしか効かない!」とさらにヒートアップし「この店はダメだ!」と怒って帰る方もいました。
こうした解熱鎮痛薬には「NF-kB」(エヌエフカッパビー)という物質を増やす作用があることがわかっています。この物質は転写因子の一つで、物質工場のスイッチをオンにする作用があります。これがオンになると炎症を起こす物質、炎症性サイトカインであるIL-1、IL-6、IL-12、TNF-αを大量につくります。ウイルスや細菌が入ってきてそれと戦うために、こうした炎症性サイトカインは必要ですが、薬により大量につくると制御が利かなくなり、ウイルスや細菌のみならず体内の細胞に総攻撃をしてしまいます。
この総攻撃が脳内で起こってしまうと、脳症になります。解熱鎮痛薬は、脳における熱を出す指令を抑えることで熱を下げる効果があります。つまり薬自体が脳に作用しているということです。そこで、薬で「NF-kB」を増やすと、脳内で炎症性サイトカインを大量につくり、総攻撃へと突入していくわけです。
アセトアミノフェンは救世主
唯一「NF-kB」を増やさない解熱鎮痛薬があります。それがアセトアミノフェンです。「家族みんなで使える」とうたっている風邪薬にはアセトアミノフェンが入っています。脳が未発達な小児では、アセトアミノフェン以外の解熱鎮痛薬を飲んでしまうと脳症の危険が高まるため、ほかの解熱鎮痛薬の使用は禁止されています。
いわゆる頭痛薬の場合、アセトアミノフェンのみが配合された製品はほとんどありません。効いた実感がしないものは「売れない」ためです。私も、より効くとされる「ロキソニン」や「イブA」を患者さんに紹介することがありますが、その時は添付文書通りに「症状があるときのみ」使ってもらうよう伝えます。そして、棚の下段のほうにひっそりと陳列されている「タイレノール」はアセトアミノフェンのみが入っている薬であり、救世主として覚えておいて損はないと思っています。
(文=小谷寿美子/薬剤師)