郵便や貯金といった日本郵政が行う郵便局でのユニバーサルサービスが終焉を迎える可能性が出てきた。
3月23日付日本経済新聞は、日本郵政グループが全国の郵便局に配置する局員数の見直しに向けて労働組合と協議に入ると報じた。全体の5%にあたる1万人の削減案などが浮上しているという。低金利による運用難やかんぽ生命保険の不適切販売問題で金融事業の収益力が落ち、人件費を抑える必要があるためだとしている。
2007年10月の郵政民営化で、郵政事業は郵便事業、郵便貯金事業、生命保険事業に分割された。持株会社となる日本郵政の下に、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命がぶら下がっている。この郵政民営化の実施あたって、ユニバーサルサービスについては郵政民営化法第7条の2第1項で、「日本郵政株式会社及び日本郵便株式会社は、郵便の役務、簡易な貯蓄、送金および債権債務の決済の役務並びに簡易に利用できる生命保険の役務が利用者本位の簡便な方法により郵便局で一体的に利用できるようにするとともに将来にわたりあまねく全国において公平に利用できることが確保されるよう、郵便局ネットワークを維持するものとする」と規定された。
日本郵政および日本郵便には、郵便および金融のユニバーサルサービスの責務を課すことで、民営化であまねく全国において公平に利用できていた郵便、貯金、簡易保険などの機能が利用できなくなることがないように規定されたわけだ。だが、今、このユニバーサルサービスが継続できるかの“分水嶺”を迎えている。
民間企業ゆえに事業の採算性重視
日本郵政グループの仕組みは複雑なので、簡単に説明しておく。日本郵政グループが行っている郵便、貯金、簡易保険などのサービスの主な拠点は、日本郵便が設置している全国2万4000局の郵便局網で、ゆうちょ銀行とかんぽ生命はそれぞれ日本郵便と窓口業務委託契約を結んで委託手数料を支払っており、その額は年1兆円にのぼる。
しかし、日本郵政グループの主要サービスである郵便、貯金、簡易保険などには逆風が吹いている。IT化の進展によりメールが普及したとことで、手紙やはがきなどの郵便物は減少が続いている。日本銀行の黒田東彦総裁就任以降の大規模金融緩和による低金利政策により貯金事業も収益も悪化、そこに“追い打ち”をかけたのが、かんぽ生命保険による保険商品の不適正販売だ。特に、貯金、簡易保険という収益の柱となっている金融事業が悪化していることのダメージは大きい。
前述のように、ゆうちょ銀行とかんぽ生命は日本郵便に対して年1兆円の手数料を支払っているのだが、両社とも事業収益の悪化を受けて、手数料の減額を求めて日本郵便と交渉を行っており、日本郵便の収益の悪化は避けられそうにない。かんぽ生命保険による保険商品の不適正販売を受け、2020年 1月 6日には増田寛也元総務大臣が日本郵政の新社長に就任し、新体制で再建を目指している。その再建策の一つが、今回報道のあった人員削減だ。
日本郵政グループの2018年度末の従業員数は21万5412人。日経の報道のように1万人の削減となれば、全従業員の約5%削減となる。日本郵便側も業務を効率化すれば人数を絞っても事業運営に支障は出ないとみているように、5%程度の削減であれば大きな影響はないと思われそうだが、本当にそうだろうか。
国鉄が民営化したことで、地方の不採算路線は次々と廃線に追い込まれた。日本郵政グループも郵便および金融のユニバーサルサービスを維持することが困難になってきている。民間企業であることで事業の採算性が重視され、半面、過疎化などにより事業の採算が悪化しているためだ。
しかし、民間金融機関などが事業の採算が取れない山間僻地などでは、郵便局が郵便と金融の唯一のサービス提供者となっている。日本郵政グループの人員削減は、確実にユニバーサルサービスの衰退につながり、また、過疎化に拍車をかける一因にもなりかねない。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)