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東芝、再び巨額赤字に転落…隠れた“減損リスク”顕在化、過去の負の遺産を整理しきれず

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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東芝の事業所(「Wikipedia」より/Waka77)

 2020年3月期、東芝の連結最終損益は1,146億円の大幅赤字となった。最終赤字は3年ぶりだ。その主な要因として、米国の液化天然ガス(LNG)事業の売却損と、40%を出資する半導体企業キオクシアホールディングスの減損がある。コロナショックが世界経済を低迷させている中、東芝をはじめ日本企業にとって過去に取得した資産の減損リスクは軽視できない。

 今後の展開を考えた時、東芝が業績の回復を目指すためには2つの重要な要素がある。一つが、キオクシアの半導体事業だ。米中対立の先鋭化は、状況によっては日本の半導体業界に追風となる可能性がある。そうした展開を念頭に東芝は、キオクシアが独自の技術を用いて競争力ある製品を生産できるよう支える必要がある。

 二つ目は、東芝の経営トップの意思決定だ。東芝はデジタル技術を用いたインフラサービスを軸に成長を目指している。コロナショックを境に世界経済全体でデジタル化が急速に進む中、東芝のトップは組織をまとめ、大胆に意思決定を実行しなければならない。それができるか否かは、長期的な東芝の成長に無視できない影響を与えるだろう。

減損リスクを吸収しきれない東芝

 2020年3月期の東芝の決算を考える上で最も重要なことは、減損が同社の最終損益を赤字に転落させたことだ。資産の売却を進めて経営再建を進めてきた東芝ではあるが、過去、買収などを通して取得した資産価値の評価引き下げ、あるいは損失の確定を吸収できるだけの体力は回復できていない。

 最大の原因は、2006年に東芝が6000億円超を投じて米国の原子力大手、ウエスチングハウスを買収したことにある。その後、ウエスチングハウスは原子力発電所の建設コストの上昇などに直面し、収益と財務内容が急速に悪化した。2017年3月、ウエスチングハウスは連邦破産法11条(通称チャプターイレブン)を申請し、経営破たんした。その結果、東芝は7000億円を超える損失を計上し、債務超過に陥った。

 東芝は債務超過を解消するために、成長期待の高かった医療機器事業の売却などを余儀なくされた。さらに、東芝は稼ぎ頭だった旧東芝メモリ(現キオクシア)を売却せざるを得なくなった。その後、東芝は第三者割当増資を実施して約6000億円の資本増強を行い、債務超過からは脱した。

 当たり前だが、資産(事業)を売却すると、売り上げが減少してしまう。リーマンショックのあった2008年度、東芝の売上高は約6.7兆円の規模を誇った。それに対して、前期の売上高は3.4兆円と約半分にまで減少した。事業=収益源が減ったのだから、売り上げが減少するのは仕方がない。

 問題は、東芝が過去に取得した資産から発生する損失を吸収できる収益力をつけられていないことだ。米国でのLNG事業の売却損やキオクシアからの減損計上によって最終損益が赤字に落ち込んだことがそれを示している。見方を変えれば、経営者は過去の負の遺産を整理しきれていない。

 現在、東芝経営陣は、成長を加速するための買収資金を確保するために、追加の資産売却を目指している。それは重要なことだが、既存の事業が減速リスクを吸収できるだけの収益力を発揮できていない状況下、追加の資産取得が同社の業績にどう影響するかは読みづらい。

業績立て直しに不可欠なキオクシア

 東芝が業績を立て直すために、キオクシアの半導体事業の重要性が高まっている。なぜなら、IT先端技術は今後の世界経済の成長を支えるからだ。コロナショックを境に、デジタル技術が世界経済をささえることが明確になった。また、世界全体で普及が進む5G通信は、4G通信の100倍の通信速度を誇り、IoT(インターネット・オブ・スィングス)が一段と世界各国に浸透する。それは、キオクシアだけでなく、東芝のインフラビジネスの成長にとって追い風だ。

 それに加えて、米中対立の先鋭化が、東芝とキオクシアにとって大きなチャンスとなる可能性がある。9月以降、台湾のTSMCは米国の制裁に対応するために、中国の通信機器大手ファーウェイ向けの半導体生産を停止する予定だ。東芝に求められることは、キオクシアが独自の技術を用いて米中双方から必要とされる半導体を生産できるように環境を整えることだ。東芝は他の株主の利害を調整し、キオクシアが強みを発揮できる体制を整えなければならない。

 もともと、東芝の半導体技術は高かった。1985年以降、日米半導体摩擦が激化し、米国は日本に半導体市場の開放を求めた。東芝はその要請に応えつつ世界シェアを維持するために、韓国のサムスン電子に技術供与を行った。つまり、韓国は日本の人材や技術に依存して半導体分野の競争力を高めたのである。

 TSMCがファーウェイ向けの生産を停止した場合、韓国はどうにかして中国の半導体需要を取り込み、景気を支えようとするはずだ。ただ、経済運営に必要な資金、資材を日米に依存している韓国の立場は厳しい。すでに、米国は中国のIT覇権を食い止めるために、韓国に圧力をかけている。9月以降に延期される予定のG7首脳会議に関してトランプ大統領が韓国を含む意向を示しているのはそのためだ。

 技術移転に頼ってきた韓国と異なり、日本には独自の技術を用いて半導体を生産する自力がある。東芝は出資先であるキオクシアがそうした力を発揮できるよう取り組むべきだ。それができれば、東芝は過去の投資に起因する減損の影響を吸収し、成長のために必要な資金などを自力で獲得することができるだろう。

一段と重要性増す経営者の意思決定

 キオクシアの半導体事業の動向に加えて、東芝が業績の回復とインフラ企業としての長期存続を目指すために、経営者の意思決定の重要性も高まっている。現在、コロナショックによって世界経済は低迷している。その一方でデジタル化が急速に進み、世界経済は大きく変化している。加速化する変化に対応するために、これまで以上に経営トップの意思決定の重みが増している。それは東芝だけでなく、日本企業全体に当てはまる。

 経営者の意思決定の重要さを考える際、リーマンショック後に日立が“選択と集中”を進めたことは重要だ。リーマンショック後の2009年3月期、日立は7873億円の最終赤字に転落した。日立のトップは家電や重電などハードを中心としたビジネスモデルでは生き残れないと判断し、大胆に構造改革を進めた。端的に、日立はIoTに親和性の高い事業への選択と集中を進め、ソフトウェア企業としての成長を目指した。日立は日立化成など主要子会社の売却を進めてAI(人工知能)など成長期待の高いIT先端分野に経営資源を再配分したのである。

 リーマンショック後、東芝も赤字に陥った。日立との違いを生んだのは、経営者が既存の事業ポートフォリオで今後の環境の変化に対応できると考えたか否かだ。日立は、赤字転落をビジネスモデルの行き詰まりととらえ、迅速、かつ大胆に改革を進めた。それに対して、東芝は改革ではなく既存事業の温存に傾注してしまった。

 現在、日立も東芝もデジタル技術を駆使したインフラプラットフォーマーとしての成長を目指しているが、日立の取り組みは東芝よりも10年以上先行している。その分、日立はより優位な条件で必要な資産を取得し、選択と集中を進めることができた。

 東芝の組織は大きく、改革は一朝一夕に完結しない。収益力への不安から組織内では今後の資産売却などへの不安も高まっているだろう。そのなかで同社がどのようにしてインフラ企業としての体力をつけ、持続的な成長を実現できるか、経営トップの意思決定の重要性は一段と高まっている。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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