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岡田正彦「歪められた現代医療のエビデンス:正しい健康法はこれだ!」

安倍政権、米ファイザーから未開発ワクチン「6千万人」分購入決定に重大な疑問

文=岡田正彦/新潟大学名誉教授
安倍政権、米ファイザーから未開発ワクチン「6千万人」分購入決定に重大な疑問の画像1
「首相官邸 HP」より

 ニューヨークタイムズ紙によると、7月27日(月)、2つの米国企業モデルナ社とファイザー社が、新型コロナウイルスのワクチン臨床試験を同時に開始しました【注1】。

 試験の方法はどちらも似ていて、次のような手順で行われます。まず3万人の健常者に協力を求め、同意を得た上で、2つのグループに分かれてもらいます。その一方に本物のワクチンを、また他方には食塩水を注射し、数カ月後、どちらのグループで感染した人が多かったかを比べてみようというものです。ただし協力者にも、また注射を行う医師にも、どの人がどちらのグループなのかは内緒です。

「ワクチンの効果は明らかだった」という結論を出すためには、偽物のワクチン(食塩水)を接種したグループのほうで100~200人を超えるくらい感染者が出て、かつ本物のワクチンを接種したグループはそれよりずっと少なかった、というデータを提示する必要があります。そうでなければ、「統計学的に有意だった」と言えないからです。

 かりに、この試験を日本でやるとして、もっとも感染者が多かった5~7月の3カ月間、東京・新宿区でボランティアを募ったとします。しかし感染者の人数がはるかに足りず、統計処理はできません。桁違いに感染者数が多い米国だからこその話なのです。その米国政府は、試験が成功した暁に、1億人分のワクチンを約2,000億円でファイザー社から買い取るという約束をしました。

 さて、そもそもワクチンとはどんなものなのでしょうか? なじみが深いインフルエンザ・ワクチンで、つくり方をみておきましょう。まず無菌的に若鳥を飼育し、生後半年~1年の間に受精卵を産ませます。少し育てたのち、注射器で卵の殻に穴をあけウイルスを注入します。ウイルスは生きた細胞の中でどんどん増殖しますから、それらを集め、特殊な薬品でウイルスの形をばらばらにし、特定の断片だけを濃縮するのです。

 これがワクチンの本体になるのですが、ウイルスそのものではないため、もちろん感染力はありません。これをヒトに接種すれば、免疫、つまり抗体が自然にでき、あとで本物のウイルスが侵入してきたときに、それらを攻撃してくれるはずです。

 インフルエンザ・ワクチンは、卵1~2個で1人分のワクチンしかつくれないため、大量生産が難しく、しかも1年くらいの月日がかかってしまいます。当然、新型コロナ対策には間に合いません。

「メッセンジャーRNA」

 いま世界中の製薬企業やバイオ企業がしのぎを削っているのは、まったく新しいアイデアの「メッセンジャーRNA」と呼ばれる技術です。

 遺伝情報は、細胞内のDNAに保存されています。DNAは遺伝だけでなく、日々、細胞が健康を保っていくための調節も行っていて、たとえば、細胞内のコレステロールが不足してくると、その合図がDNAに伝わり、コレステロールを細胞内に取り込むための「たんぱく質」を少しだけ合成するという仕組みが働き出します。

 その際、膨大なDNA情報から必要なコードだけがコピーされるのですが、その複製物がメッセンジャーRNAと呼ばれます。コレステロールを取り込むためのたんぱく質は、作り過ぎても困るため、このメッセンジャーRNAは、消化酵素によってただちに分解されるようになっています。

 そのメッセンジャーRNAが、なぜワクチンになるのでしょうか? 新型コロナウイルスの表面はたんぱく質でできていますが、もしその一部、たとえばあの「とげとげ」を合成するメッセンジャーRNAを人工的につくることができれば、それがすなわちヒトの体内でワクチンとして働くことになるのです。利点は、試験管内で簡単に、安価に、かつ大量に生産できることです。

 難しいのは、本物のメッセンジャーRNAと同じ機能を持たせるために複雑な修飾が必要になることと、簡単に分解されないようにするための工夫です【注2】。その難しさゆえ、このアイデアで実用化したワクチンはまだ存在していません。

 いま世界中で、無数ともいえる企業が新型コロナのワクチン開発に取り組んでいますが、多くはメッセンジャーRNAタイプのようです。そのうち27社は、すでに人間に接種する初期段階の試験を始めています【注3】。

 しかし、60年近い歴史のあるインフルエンザ・ワクチンでさえ、その効果が明らかになったのは、やっと2年前のことです。しかも毎年、ワクチン接種による死亡例が報告されているなど、副作用対策もまだ十分ではありません。

何もデータが公表されていないのに…

 7月31日、政府は、新型コロナウイルスのワクチンを米国ファイザー社から6,000万人分を購入することに決めた、と発表しました。臨床試験がうまくいけばとの条件つきですが、それにしてもモデルナ社から7月14日に中間報告がなされたばかりであり【注4】、ファイザー社のほうはまだ何もデータが公表されていないのです【注5】。なぜ日本政府は、そんな製品を早々と契約できたのでしょうか? トランプ米大統領肝いりだったからなのでしょうか?

 新型コロナウイルスのワクチンは疑問だらけです。あまりに拙速な開発で、あとになって重大な副作用が見つかることはないのでしょうか? 6,000万人分もの大量のワクチンを誰に使うのでしょうか? インフルエンザ・ワクチンでさえ、今シーズンの生産量は2,000万人分でした。新型コロナは間もなく完全に終息する可能性も高く、不要な買い物の支払いに誰が責任をとるのでしょうか? 地対空迎撃システム「イージス・アショア」やアベノマスクの二の舞にならないことを祈るばかりです。

「人工のメッセンジャーRNA」は、(治験協力者を別にして)人類の誰もがまだ体内に入れたことのない物質です。たとえ完成したと言われても、怖いので私は拒否します。
(文=岡田正彦/新潟大学名誉教授)

参考文献
【1】Grady D, Moderna and Pfizer begin late-stage vaccine trials. New York Times, July 27,2020.
【2】位高啓史, ほか, mRNA医薬品開発の世界的動向. 医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス, 50: 242-249, 2019.
【3】Corum J, et al., Coronavirus vaccine tracker. New York Times, July 27,2020.
【4】Jackson LA, et al., An mRNA vaccine against SARS-CoV-2, preliminary report. New Engl J Med, July 14, 2020.
【5】ClinicalTrials.gov, NCT04405076.

岡田正彦/新潟大学名誉教授

岡田正彦/新潟大学名誉教授

医学博士。現・水野介護老人保健施設長。1946年京都府に生まれる。1972年新潟大学医学部卒業、1990年より同大学医学部教授。1981年新潟日報文化賞、2001年臨床病理学研究振興基金「小酒井望賞」を受賞。専門は予防医療学、長寿科学。『人はなぜ太るのか-肥満を科学する』(岩波新書)など著書多数。


岡田正彦

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