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保健所、機能不全が深刻化…“行政改革”で大幅削減、PCR検査の目詰まりの元凶

文=小倉正行/フリーライター
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「Getty Images」より

 今、新型コロナウイルス感染拡大が日本中を震撼させているなかで、保健所の機能不全という問題が浮き彫りになっている。新型コロナ感染経路の解明やPCR検査の実施に、保健所が中核的な役割を担っていたが、クラスターの感染経路追跡は進まず、PCR検査の数も低迷して、先進国のなかでも最低の検査水準に陥っていた。

 これには、政府の専門家会議の尾身茂副座長も「保健所の職員が疲弊している。保健所のクラスター態勢を強化していれば」(4月6日付朝日新聞デジタル)と指摘。さらにPCR検査が低迷している原因についても「厚労省幹部は『実施件数が伸びない要因の一つは保健所の人員不足もある』と認める。政府関係者は『東京の検査数が伸びないのは、保健所がパンクしているからだ』と言い切る」(同)と政府関係者も保健所の人員不足がその原因と認めている。

 厚生労働白書(2018年版)によれば、保健所数は2005年の549から17年の481へ12.3%も減少している。都道府県でも411から363、保健所設置市も115から95へと減少している。このようななかで、都道府県の保健師数も05年の4014人から16年には3661人と約1割減少している。

 その背景には、1980年代の「臨調行革」路線の下、社会保障制度の全面的な見直しが行われ、94年には「保健所法」が全面改正され、「地域保健法」に改称されたことがある。これにより保健所の統廃合など公衆衛生全般の見直しが始まった。

食の安全安心の確保も保健所の役割

 保健所は、食中毒や残留農薬問題にかかわる食品衛生法も所管をしている。保健所に配置されている食品衛生監視員が、食品衛生法に基づく監視指導を行っている。しかし、保健所の専任の食品衛生監視員は、統計がわかる範囲で2000年の1659人から12年の1279人へ380名、23%も減少している。

 12年時点で専任の食品衛生監視員がいない府県は全国で以下の19府県におよぶ。

【専任の食品衛生監視員がいない府県】

山形県、茨城県、群馬県、富山県、石川県、福井県、三重県、滋賀県、京都府、奈良県、和歌山県、島根県、徳島県、愛媛県、高知県、佐賀県、大分県、宮崎県、沖縄県

 さらに食品衛生法の所管となっている政令指定都市でも、さいたま市、横浜市、相模原市、京都市、神戸市、広島市で専任の食品衛生監視員がゼロである。

 これらの府県や政令市では、兼任の食品衛生監視員が食品衛生法遵守の監視指導を行っている。保健所に配置されている医師や看護師や獣医師、保健師などが兼任で行っているのだが、09年のデータでは、兼任の食品衛生監視員のうち31%しか「主に食品衛生監視業務」に従事していないとされている。まさに、片手間で食品衛生監視業務がなされているのである。

 このような状況のなかで新型コロナウイルスの感染が全国に広がり、人員不足の保健所を直撃したのである。人員不足でクラスターの感染経路追跡は進まず、PCR検査も低迷しているなかで、兼任の食品衛生監視員が新型コロナ対応に追われる。専任の食品衛生監視員がいない19府県6政令市では、食品衛生法遵守の監視指導はほとんど行われない事態となっている懸念がある。まさに食の安全が危機的な状況に直面しているのである。

 食の安全を確保するためにも、保健所の機能強化は待ったなしである。

(文=小倉正行/フリーライター)

小倉正行/フリーライター

小倉正行/フリーライター

1976 年、京都大学法学部卒、日本農業市場学会、日本科学者会議、各会員。国会議員秘書を経て現在フリーライター。食べ物通信編集顧問。農政ジャーナリストの会会員。
主な著書に、「よくわかる食品衛生法・WTO 協定・コーデックス食品規格一問一答」「輸入大国日本 変貌する食品検疫」「イラスト版これでわかる輸入食品の話」「これでわかる TPP 問題一問一答」(以上、合同出版)、「多角分析 食料輸入大国ニッポンの落とし穴」「放射能汚染から TPP までー食の安全はこう守る」(以上、新日本出版)、「輸入食品の真実 別冊宝島」「TPP は国を滅ぼす」(以上、宝島社)他、論文多数

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