日米貿易交渉で日本政府は、米国から300万トンものトウモロコシを追加輸入することを約束したと報道されている。米国産トウモロコシは、強い発がん物質であるアフラトキシンの汚染が懸念されている。そのため厚生労働省は、食品衛生法に基づき食用目的で輸入される米国産トウモロコシについて、輸入時におけるアフラトキシン汚染の検査を重点的に進めている。基準値10ppb(10μg/kg)を超えるアフラトキシンが検出された食用向けトウモロコシは、食品衛生法違反として輸入が差し止められる。
アフラトキシン汚染の状況を厚労省資料(「違反事例」)に基づいて見てみると、2016年では、最高が84ppb、次いで70ppb、65ppb、54ppb、51ppb、38ppbと続き、総違反数量(農林水産省による国会提出資料より)は1万521トンになる。17年は26ppb、20ppbで5529トン。18年は36ppb、29ppb、21ppbで7946トン。19年は8月までの時点で18ppb、17ppb、16ppbで、1万1401トンになる。このように基準値の8倍という高濃度汚染の例もみられる。
アフラトキシン汚染は生産地の気象条件によって、汚染濃度が変化する。ハリケーンが生産地に襲来すると高温多湿の条件が揃い、アフラトキシンの汚染は広がり、汚染濃度は高くなる。しかし、驚くべきことに、上記の3万5397トンにも及ぶアフラトキシン汚染で輸入がストップされていた食用向けトウモロコシが、輸入事業者の申請により、飼料用に転用され輸入が認められていたのである。
EUより緩い日本の規制
乳牛が飼料に混入したアフラトキシンを体内に取り込むと、肝臓でアフラトキシンが代謝されアフラトキシンM1に変化し、血流に乗って乳に含有されることになり、牛乳がアフラトキシンに汚染される。このアフラトキシンM1は強力な発がん物質であるアフラトキシンB1の10分の1の毒性を持っており、世界的に規制対象となっている。
国際がん研究機関も、「アフラトキシンM1はヒトに対しても発がん性を有する可能性がある」と評価している。そのため、EUも生乳のアフラトキシンM1について0.05ppbという基準値を設定して厳しく規制している。また、調製粉乳はさらに厳しく0.025ppb、乳幼児向け特殊医療目的の栄養食品は0.025ppbとなっている。
これに対して日本は、国際基準が設定されてから15年たった16年1月から、乳に含まれるアフラトキシンM1の基準値を0.5ppbとした。これは、EUと比べると10倍とかなり緩いが、とりあえず基準値を設定して規制を強めてきた。今のところ違反事例は報告されていないが、検査結果の詳細は公表されておらず、日本の牛乳のアフラトキシンM1汚染の実態は明らかになっていない。
研究機関のアフラトキシンM1汚染実態調査によれば、10年には乳児用調製粉乳で0.177ppbの汚染が明らかになった。これは、日本の基準値内であったが、EUの基準値の7倍にも及ぶものである。いずれにせよ、このようなアフラトキシン高濃度汚染のトウモロコシの飼料転用がこれからも安易に行われていけば、私たちの健康にも影響を及ぼしかねないだろう。
(文=小倉正行/フリーライター)