免税店大手のラオックスは8月14日、7月に募集した希望退職に114人の応募があったと発表した。退職日は8月31日。2月にも募集を行い、すでに90人が退職している。今年に入り従業員の約4割に当たる204人が退職することになる。
新型コロナウイルス感染拡大による入国制限により、主要顧客だった中国人の訪日観光客が激減。連結売上高の約3割を占めるインバウンド事業の業績が悪化。2度にわたり従業員の8割に相当する390人の希望退職を募集するなど経営の立て直しを進めてきた。
7月28日、全店舗24店の半数に当たる12店を閉鎖すると発表。大丸福岡天神店(福岡市)や沖縄あしびなー店(沖縄県豊見城市)などを閉じ、九州・沖縄地区から撤退した。閉店する店舗の内訳は北海道3、東京1、近畿1、九州6、沖縄1の12店舗である。インバウンド事業の主要顧客である中国からの訪日観光客が入国できない状況に加え、韓国・台湾からの訪日客が戻ってくるメドが立っていない状況にあるとして、九州・沖縄から撤退した。今後は食品など国内向けの商材を強化し、東京・大阪の都市部の店舗で立て直しを図るとしている。
インバウンド事業が壊滅的な打撃を被る
2020年上半期(1~6月期)の連結決算は、売上高が前年同期比37.5%減の379億円、営業損益は28億円の赤字(前年同期は23億円の赤字)、最終損益は139億円の赤字(同31億円の赤字)だった。コロナウイルスの感染拡大で非常事態宣言下にあった20年4~6月の3カ月間に限ると、売上高は前年同期比49.6%減の160億円、最終損益は120億円の赤字(前年同期は16億円の赤字)と赤字が拡大していた。
事業セグメントはインバウンド、グローバル(中国で日本製品を販売)、生活ファッション(ラオックス店内でのインバウンド向け以外の製品)、エンターテインメントの4つに分かれている。上半期のインバウンド事業の売上高は前年同期比83.4%減の37億円、セグメント営業利益は12億円の赤字(前年同期は9億円の黒字)。「中国人御用達の店」といわれてきた。中国人観光客が消えて壊滅状態に陥った。
中国で日本製品の販売を行っているグローバル事業の売上高は5.5%増の83億円、セグメント営業利益は7.5倍の1.2億円と増収増益。コロナ対策として質の良い日本製の除菌シートや非接触体温計などの需要が増えた。生活ファッション事業の売上高は26.4%減の214億円、セグメント営業利益は10億円の赤字(前年同期は16億円の赤字)。インバウンドと並んで打撃は大きかった。エンターテインメント事業は千葉市で複合施設「千葉ポートスクエア」やエンターテイメント施設を運営。売上高は3.7倍の45億円、セグメント営業利益は9500万円の赤字(前年同期は8億円の赤字)。不動産の売買や仲介で業績は好転した。
大打撃を被ったインバウンドと生活ファッション事業を中心に25億円の減損損失を計上した。20年12月期の連結決算は、売上高が前期比30.5%減の900億円、営業損益は43億円の赤字(前期は31億円の赤字)を見込む。最終損益は「未定」としている。
食品販売に活路を求める
ラオックスは09年、中国で大手の家電量販店を運営する蘇寧電器の傘下に入った。羅怡文社長は、ラオックスを家電量販店から免税店に業態を転換。15年には中国人の“爆買い”が流行語となった。中国人の団体旅行客向けの家電需要を取り込むことで成長してきた。直近でも中国人客の割合は9割に上る。「国内最大の免税店」をウリに、中国人がクルーズ船で訪れる九州・沖縄に多店舗展開した。
中国人の関心はモノからコトに移った。しかもモノは、家電ではなく、化粧品やクスリをドラッグストアで買い求めるようになった。中国人の嗜好の変化についていけず、業績が悪化した。これに新型コロナウイルスが追い打ちをかけた。
この危機をどう切り抜けるか。6月18日、大阪・道頓堀に新店をオープンした。日本人客などにも人気がある関西土産や食品を多く取り揃えたのが特徴だ。店舗は3階建てで、戎橋の近くにある。1階は食品、2階は化粧品や美容家電を販売する。3階は雑貨売り場と展示会などを開けるイベントスペースを備える。食品売り場には、さまざまな果物や日本酒のコーナーもある。インバウンドが戻ってくることに備えて、中国で人気の高いドリンク専門店「奈雪の茶」が入居するほか、韓国やタイなど海外の食料品も販売する。
道頓堀で成功すれば、他の店舗でも本格的な食品売り場を導入する。免税店から食品販売店に転換をすることで活路を見いだそうとしているが前途は多難だ。
(文=編集部)