新型コロナウイルスの感染拡大が収まらないなか、第2波が外食産業を直撃した。低迷が長引くとみて店舗を閉鎖する企業が相次いでいる。
居酒屋「甘太郎」、焼肉「牛角」、回転寿司「かっぱ寿司」などを運営するコロワイドは全店舗の1割弱に当たる196店舗の閉鎖を決めた。ワタミも全店舗の1割強の65店舗を閉める方針だ。居酒屋以外にも影響が広がっている。ファミリーレストランではロイヤルホールディングス(HD)が収益回復が見込めない約70店、ジョイフルは直営約200店をクローズする。
吉野家HDではグループ全体の約5%に当たる150店舗を閉める。内訳は牛丼チェーンの「吉野家」で40店、持ち帰り寿司の「京樽」と讃岐うどんの「はなまるうどん」はそれぞれ30店。海外で50店の閉店を計画している。
吉野家HDは今期11年ぶりの営業赤字
吉野家HDの2021年2月期の連結決算の売り上げは前期比20.3%減の1723億円、営業損益は87億円の赤字(前期は39億円の黒字)、最終損益は90億円の赤字(同7億円の黒字)の見込み。通期で営業赤字となるのは10年2月期以来11年ぶりで赤字幅は過去最大となる。
下期(20年9月~21年2月)に売り上げが前年同期比10%減程度にまで回復するという前提に立ってきた。しかし、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、持ち帰りキャンペーンを行うなど販促費がかさんでいる。3~8月期の中間配当はゼロにする。無配となるのは再上場以来初めてのことだ。河村泰貴社長は「90%の売り上げで利益が出るように事業改革を進める」と説明した。150店の不採算店を閉鎖。本社のオフィスの面積を削減し、本部人員に店舗で働いてもらうなどして21年2月期までに固定費を22億円減らす。今後は宣伝費も削減する。
手元資金の確保のため6月までに230億円の借り入れを実施したほか、新規出店を中止して90億円を捻出した。役員報酬も一部返上する。不採算事業を切り離し、主力の牛丼事業に注力してきた。20年2月末に「ステーキのどん」「フォルクス」などを展開する完全子会社、アークミール(東京・中央区)を焼肉店の安楽亭に売却した。アークミールは20年2月期末時点で154店を擁し、売上高は198億円、営業損失は3.6億円。
アークミールは事業の4本柱の1つだったが、焼き肉やステーキなど競合チェーンが急増したほか、ファミリーレストランがステーキの商品を充実させるなどにより競争が激化し、赤字経営が続いていた。譲渡金額は非公表。
はなまるうどん、京樽の赤字を牛丼で補えなかった
吉野家HDの20年3~5月期の連結決算は売上高が前期比24.8%減の396億円、営業損益は49億円の赤字(前年同期は10億円の黒字)、最終損益は40億円の赤字(同10億円の黒字)だった。
アークミールの株式譲渡による影響は売上高で52億円、率にして10.0%の減収要因となった。新型コロナウイルスの感染拡大の売上高への影響は、商業施設への店舗が多い、はなまるが45億円減、京樽が27億円減。はなまるの営業損益は15億円の赤字、京樽のそれは13億円の赤字に転落した。
主力の吉野家は、売上高は前年同期比2.0%減の261億円と落ち込みは相対的に小さかったが、営業損益段階では3.6億円の赤字。テイクアウトの割引販売や広告宣伝費がかさんだためで、はなまる、京樽の赤字を補填できなかった、
テイクアウト・デリバリーが業績を下支えした。デリバリー対応店舗は5月末に546店と2月期末に比べて1.3倍に増えた。売上高は同2倍に伸びた。しかし「全品15%オフ」の値引きキャンペーンで利益率が低下し、営業赤字に転落する原因となった。通販商品の冷凍牛丼は内食需要をとらえ、3カ月で700万食を突破した。
マーケティングのプロを招く事例も
外食チェーンの浮き沈みは激しい。かつて「勝ち組」だった「いきなり!ステーキ」と焼き鳥チェーン「鳥貴族」が失速した。一方、一時低調だった日本マクドナルドHD、吉野家HDは巻き返しに出た。
日本マクドナルドHDの業績をV字回復させた立役者は足立光氏。マーケティングのプロを多数輩出させている米日用品大手プロクター&ギャンブル(P&G)ジャパンの出身。15年、日本マクドナルドHD上席執行役員マーケティング本部長に招かれ、「裏メニュー」や「ポケモンGO」とのコラボで同社を蘇らせた。「同じ仕事を3年以上続けてはいけない」という自らのポリシーを守って18年、退社している。
吉野家HDは吉野家のテコ入れのため、伊東正明氏を外部から招聘した。伊東氏もP&G出身。18年10月、事業会社吉野家のマーケティング担当の常務に就任した。吉野家の長年の課題は客層が偏っていることだ。男性比率が高い。吉野家のように日常の食事を提供する飲食店が成長するには、客層を広げて、来店回数を増やすことに尽きる。
19年3月からコア深掘りのメニューを導入した。「超特盛」(特盛よりも大きい最大サイズの牛丼)と「小盛」(並盛の4分の3サイズの牛丼)を同時に発売した。吉野家の客層を調べると年配の顧客が多い。年を取ったらたくさん食べないだろうと考え「小盛」を売り出し、「小盛」はよく売れた。
5月には、ライザップとのコラボ商品「ライザップ牛サラダ」を発売した。コメを使わず、ブロッコリーや鶏もも肉で満腹感を得られるように商品を開発。「高たんぱく質、低糖質」がウリである。ライザップ牛サラダの販売数は20年2月までに200万食を超えた。
牛丼の売り方を変えたことで、吉野家の既存店売上は19年3月以降、前年同月を上回り、劇的に改善した。20年2月期末の既存店の客数は2.0%増え、売上高は6.7%増えた。それでも当分、大幅な伸びは期待薄だ。次は、どんな商品をテコに、売り上げを回復させるのかが注目される。
(文=編集部)