2020年春、コンビニ大手のローソンはプライベートブランド(PB)のパッケージデザインを一新した。ブランド名も「ローソンセレクト」から「L basic」「L marche」に細分化し、そのロゴやパッケージを世界的に著名なデザインオフィス「nendo」が手がけるという、一大リニューアルプロジェクトだった。
しかし、いざ発売を開始すると、ネット上で新パッケージに対する批判が噴出。ローソンの竹増貞信社長自ら、一部商品パッケージの変更を発表する事態に陥った。
新パッケージの最大の問題点
nendoの公式ホームページ(HP)では、件のローソンPB商品パッケージについて、以下のように解説している。
「従来のパッケージにあったような大きな商品写真ではなく、優しい印象のフォントとともに中身や原材料などがそれとなくわかるような手描きのイラストをパターン状にあしらうことで、女性層でも手に取りやすい柔らかな表現を目指した」
確かに、ベージュやグレーに統一されたベースカラーからはやわらかさが伝わってくる。しかし、商品名が茶系のフォントで書かれているため、背景に文字が馴染んで読みにくいという声も多い。
「フォントの読みにくさもありますが、文字に頼りすぎている点も消費者視点が欠けていると言えます。ビジュアルの情報量が少ないので文字を読まなければならず、ほしいものを見つけるまでに時間がかかってしまいます」
そう話すのは、消費経済ジャーナリストの松崎のり子氏だ。松崎氏は「買い物中に文字を読ませるのは消費者の負担になる」と指摘する。
「海外では読み書きができない人を考慮して、パッケージや説明書は写真やイラストでわかりやすく表現するケースが多いもの。日本の識字率はほぼ100%で、世界を見渡しても、選挙の投票用紙に立候補者の名前を書かせる国は珍しい方だとか。今回のローソンPBのパッケージは『全員、文字が読める』という前提でつくられた、極めて日本的なデザインとも言えます。誰でも使えることを意味する『ユニバーサルデザイン』とは逆行している印象です」(松崎氏)
ローソンの新パッケージは、英語やローマ字が大きく書かれ、下に小さく日本語と中国語、韓国語の計4カ国語が記載されている。nendoのHPには「海外からの訪問客が困らないように配慮」とあるが、「本当に海外客を意識するのであれば、商品ビジュアルが必要なはず」と松崎氏。
「私たちも、海外旅行に行ったときはメニューの文字よりも写真を見て注文する人が多いはずです。一方、ローソンのPBパッケージにはささやかなイラストと控えめすぎるロゴがあるのみなので、海外からの訪問客は途方に暮れてしまうかもしれません。ある意味で、消費者を置き去りにしていますよね。
たとえば、『MENTSUYU』はめんつゆだとわかるまでに時間がかかりました。雑貨や洋服を時間をかけて選ぶのとは違って、コンビニではほしいものをサッと買いたいシーンが多いので、感覚的にわかりづらいパッケージはストレスになりますよね。
また、大きく表記されるのはローマ字だけかと思いきや、スライスチーズの『SLICED CHEESE』は英語なので、ローマ字と英語が混同しているようです。一方、写真右の改変前のローソンセレクトは日本語も読めて写真もあるので、わかりやすいですね」(同)
直感的に買える「セブンプレミアム」
一方、業界最大手のセブン-イレブンのPB商品「セブンプレミアム」は「消費者が直感的に買えるパッケージが多い」と松崎氏は話す。
「大きな納豆の写真とともに『北海道産大豆小粒納豆』と漢字でデカデカと書いてあるので、すぐに納豆だとわかります。同時に産地もわかるので、こだわりがある人にとっては有益な情報ですよね」(同)
店内であれこれ迷いたくないコンビニ利用者にとって“わかりやすさ”は重要なポイントだろう。パッケージのわかりやすさで圧勝のセブンだが、実は同社にも“わかりにくさ論争”を巻き起こした過去がある。その中心となったのが、2013年に導入した「セブンカフェ」のコーヒーマシンだ。
アートディレクターの佐藤可士和氏がデザインを担当し、日本語を排したデザインで、ボタンの表記はすべて英語。サイズ表記もMやLではなく「R(Regular)」と「L(Large)」という分類で、消費者の混乱を招いてしまった。そのため、各店舗は「ふつうサイズ」「大きいサイズ」と書かれたシールを貼るなどの対応に追われ、結果的に当初のスタイリッシュなデザインを活かせない事態となった。
その後、セブンカフェのコーヒーマシンはマイナーチェンジを繰り返し、最新型はタッチパネルで操作できる仕様になっている。
課題山積の中でコロナ禍が襲うコンビニ業界
このように、近年のコンビニが“オシャレ迷子”に陥る背景について、松崎氏は「コンビニに対するイメージの悪化が関係しているのでは」と分析する。
「2020年は新型コロナのインパクトが強すぎて薄れていますが、ここ数年はコンビニの問題点が露呈し続けていました。たとえば、24時間営業問題。店舗の人手不足やFC店オーナーの負担の大きさが指摘されています。ほかにも、恵方巻きやクリスマスケーキの販売数にノルマを設けたり、賞味期限切れの商品を大量廃棄する食品ロスの問題も深刻です。今では、そうした経営戦略が“悪”とみなされるようになっています」(同)
それらの課題が山積する中で起きたのが、新型コロナウイルスの感染拡大だ。その結果、コンビニ業界はさらなる苦境に突入したという。
「コンビニの売り上げは軒並み下がっています。今年7月の数字を見ると、3社とも前年割れ。加えて、客数も減少しています。特に、緊急事態宣言後に多くの企業がリモートワークに切り替えたため、オフィス街のコンビニはかなり厳しい状況です」(同)
新型コロナの打撃は予想外だが、「コンビニ業界そのものが転換期を迎えている」と松崎氏。
「ローソンのパッケージ刷新は『飽和状態になっているイメージを変えたい』という、経営陣の気概を感じます。その気持ちはわかりますが、さすがに振り幅が大きすぎましたよね。都市部で働く女性やSNSを使う若者をターゲットにしているようですが、コンビニは都市部だけでなく高齢者が多い地方にもたくさんあります。高齢者にとってローマ字はすぐ頭に入ってこないし、写真でわからない商品は手に取りにくい。そうした地域差を考えると、このパッケージを全店舗で展開するのは思い切りがよすぎる印象です」(同)
今後、日本は超高齢社会が進展していくにもかかわらず、ローソンのPBパッケージが高齢者にとって手に取りにくいデザインだったのは明白だ。松崎氏は、PB商品の中で棲み分けをすれば批判は抑えられたのでは、と話す。
「デザートのパッケージだけをオシャレにしたり、健康志向が強い客が多い『ナチュラルローソン』のみで販売したり、客層を絞った範囲で展開すれば、ここまで不評を買うことはなかったかもしれません。そもそも、食品や調味料にそこまでオシャレさを求めるだろうか、という疑問もあります。ローソンには『バスチー』や『悪魔のおにぎり』など、味が評価されている人気のPB商品もあります。いち消費者としては、パッケージのオシャレさではなく、商品力でストレートに勝負してほしいですね」(同)
ローソンは現在、期間限定で「無印良品」の商品を実験販売している。今後、無印と一緒にPB商品を製造することになれば、また新たな展開もあるのでは、と松崎氏。果たして、名誉挽回の機会は訪れるのだろうか。
(文=真島加代/清談社)
●松崎のり子
消費経済ジャーナリスト。『レタスクラブ』『ESSE』など生活情報誌の編集者として20年以上マネー記事を担当。「貯め上手な人」「貯められない人」の家計とライフスタイルを取材・分析した経験から、貯蓄成功のポイントは貯め方よりお金の使い癖にあるとの視点で、貯蓄・節約アドバイスを行う。『定年後でもちゃっかり増えるお金術』(講談社)など、著書多数。『ビジネスジャーナル』でも連載中。
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