外出自粛や在宅勤務で生活スタイルが変化し、DIYやガーデニング需要が拡大。衛生用品やトイレットペーパーなどの消耗品の売上も伸び、「巣ごもり需要」を追い風にホームセンター各社が業績を伸ばしている。
経済産業省の商業動態統計速報によると、ホームセンターの4月の売上高は2986億円で前年同月比4.1%増、5月はさらに増え、3382億円となり前年同月比11.2%増となった。分野別で2ケタ伸びたのはインテリア(23.9%増)、DIY用具・素材(21.3%増)、電気(15.0%増)、園芸・エクステリア(13.9%増)。
業界2位のDCMホールディングス(HD)の3~5月の既存店の売上は9.0% 増となり、営業利益は前期比で1.7倍と大幅に増えた。6月の売上は19.4%増とさらに伸び、3位のコーナン商事も4月が12.4%、5月が21.7%、6月が15.8%となった。
コロナを契機に、ホームセンターが見直された結果になったが、こうした状況がいつまで続くか見通しは不透明で、今回の生活者の意識・行動変容を契機に、潜在ニーズの掘り起こしや提案力を高めるなどして需要喚起を促し、積極的に顧客を取り込んでいく必要がある。
カインズ、「IT小売企業」へ
さらなる成長に向けて矢継ぎ早に手を繰り出しているのが業界トップのカインズ。2000年からSPA(製造小売)を取り入れPB(プライベートブランド)開発に注力、PB比率が40%まで上昇、同業他社との差別化戦略につながり、増収増益を続け、昨年度、DCMホールディングスを抜いて業界トップに躍り出た。
昨年創立30周年を迎え、3月に創業家出身の土屋裕雅社長が会長に就任、高家正行副社長が社長に昇格し新体制をスタートした。そして、次の30年に向けた持続的な成長を続けるために不連続な改革を実行すべく、2019 年度から21年度までの 3カ年中期経営計画「PROJECT KINDNESS(プロジェクト カインドネス)」を策定した。
そのなかで注目されるがデジタル戦略。IT・AIの最新技術を活用して、利便性を向上しながら新たなショッピングの楽しさを実現しようとする取り組みだ。その一環として、手始めにデジタルアドバイザリーボードの設置や米国シリコンバレーでのCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の設立など、国内外における最先端のテクノロジーを享受できる体制を整備してきた。
建築業者などプロ顧客向けの新しいデジタルサービスとして、店舗在庫を取り置きする「55-DASH PRO」や店頭にない商品も取り寄せて提供する「CAINZ-DASH PRO」なども開始した。
そして、お客と店舗スタッフの煩わしさを解消するため、売り場・在庫検索アプリ「Find in CAINZ(ファインド イン カインズ)」を開発し、昨年10月21日から順次、全国店舗での利用を始めた。これまで、お客から店舗スタッフへの質問のうち、「この商品はどこにあるの?」という売り場に関する内容が約8割を占めていたが、ホームセンター特有の店舗の広さや幅広い品揃えにより、店舗メンバーがスピーディかつ的確に対応することは困難だった。
「Find in CAINZ」は、この難題をテクノロジーで解決し、お客にとってストレスのない楽しい買物体験をサポートする。今後、デジタル関連事業に3年間で100~150億円を投資し、デジタルトランスフォーメーションを加速することで「IT小売企業」としての地位の確立をめざしていく。
ライバル同士も提携
新たなホームセンターの歴史を塗り替える可能性のある取り組みを始めたのがコメリ。ホームセンターは、建築資材や農業資材といったプロ向けの商材も扱っており、資材館などを設けて需要の取り込みを図っている。
コメリは、DIYと園芸・農業資材を取り扱う小型店業態「ハード&グリーン」を全国に約1200店展開しているが、今年2月、上伊那農業協同組合(JA上伊那)は、JA上伊那の専売商品をコメリの店舗で販売するなど、協業を開始することを発表した。
JAとの提携はホームセンター業界で初めてで、これまでは同じ農業資材を販売するJAとは長年ライバル関係にあり、敵対関係にあった両者が手を結ぶのは考えられなかったこと。農業資材は約1兆円の市場で、そのうちコメリの売上は約800億円にすぎず、シェアを拡大する余地は大きいと考え、今回の協業を契機に、取り組みを全国に拡大し、JAとのタッグで新たな成長をめざそうとしている。
建設資材では、コーナン商事が昨年6月に、全国に66店舗を持つ会員制建材卸の建デポを完全子会社化した。同社は、日本初のホームセンターだったドイトの事業も、パン・パシフィック・インターナショナルHD(旧ドン・キホーテHD)から譲り受け、M&Aを活発化させている。
今後、ホームセンター市場の拡大が見込めないなかで、成長を担保するにはM&Aや経営統合といった合従連衡はますます盛んになる。6月9日にはアークランドサカモトがLIXILビバを買収することを発表し、アークランドサカモトはTOB(公開買い付け)をするなどし、完全子会社化する。リクシルグループの事業の選択と集中により、LIXILビバはニトリへの売却話もあり、その動向が注目されたが、業界9位が6位を傘下に収める下克上という結果になった。
両社の売上は、20年2月期でそれぞれ1969億円と1127億円、合わせると3096億円となり、業界トップのカインズ4410億円、DCMホールディングス4374億円、コーナン商事3746億円、コメリ3486億円に次ぐ5位に浮上する。今後、両社は21年度中にホールディングカンパニーに移行し、それぞれのブランドを維持しながら店舗を自主独立で運営し、10年後売上5000億円・営業利益400億円をめざす。
4兆円のホームセンター市場は上位10社で約64%のシェアで寡占化が進み、限られたパイをめぐって熾烈な競争が繰り広げられている。6月9日の記者会見で、ビバの渡邉修社長は、戦略的なシナジー効果をめざしながら、新しいマーケットの変化を主導するために、必要なのがアライアンスでありゲームチェンジであると考え、今後さらなる合従連衡もあり得ると言及している。
業界外のM&Aのプレイヤーの動き
昨年4月には、ダイユー・リックHDがバローホールディングスグループのホームセンターバローを株式交換により子会社化した。もともとダイユー・リックHDは、東北を地盤にするダイユーエイトと中国地方を地盤とするリックコーポレーションが、2009年3月に資本業務提携、16年9月に経営統合した。そしてダイユー・リックHDはアレンザホールディングスと社名変更し、バローホールディングスの傘下となった。アレンザとはイタリア語で「同盟・連合」の意味で、グループ企業の関係強化と拡大を誓うという意味が込められている。
19年度の売上は1342億円で業界9位に位置しているが、2030年度には3000億円まで引き上げる計画だ。そのためにはM&Aは必須で、さらなる動きも出てくる可能性はきわめて大きい。中堅企業を巻き込んでのさらなる業界再編は避けられない状況で、大手企業同士の合従連衡の可能性も否定できず、寡占化に突き進んでいくのは確実だ。
当面は独立を堅持してきたナフコと島忠をめぐる動きがどう出てくるか注目される。そして、ニトリをはじめ業界外のM&Aのプレイヤーの動きにも目が離せない。成熟化した市場においては、お互いに競り合う競合ではなく、生き残りをかけた競争が繰り広げられ、淘汰される企業が続出し、業界の勢力地図も一変する可能性がある。
コロナ特需はあくまでも一過性のもの。これを契機に次代の成長に向けた次の一手を打てるかで、その企業のポジショニングにも大きく影響する。業態としてのイノベーションが求められているなかで、次代を切り拓く新たな羅針盤が必要。手をこまねいていては、これからますます激しくなる荒海を乗り切ることはきわめて難しくなる。ホームセンター大激変時代が幕を開けようとしている。
(文=西川立一/流通ジャーナリスト、マーケティングプランナー)