新型コロナウイルスが消費を冷え込ませているが、少しずつ回復の兆しを見せている。1人10万円の特別定額給付金や外出自粛の反動による「リベンジ消費」が牽引した。総額12.8兆円規模の給付金のうち、実際に国内で消費に回ると見られているのは3兆円程度。3兆円争奪戦で家電が勝利した。
家電の王様・テレビは大型機種が好調だ。電子情報技術産業協会(JEITA)によると6月の薄型テレビの国内出荷台数は前年同月比1.8%増の47万台。4月以降3カ月連続で前年を上回った。なかでも50型以上の大型機種に限れば18万3000台で33%増えた。
2018年9月以降、50型以上の大型テレビの国内出荷は前年実績を上回り続けている。薄型テレビ全体に占める大型の割合は17年に19%だったが、18年は23%、19年は29%と確実に増えている。6月には39%と約4割にまでなった。
「ネット動画の人気でテレビの視聴時間が伸び、大型テレビの需要が高まった。巣ごもりの反動や給付金を考慮して、液晶から有機ELへの買い替えが進んだ」(流通担当のアナリスト)
大型化の流れは白物家電も同様だ。日本電機工業会(JEMA)によると6月の洗濯機の国内出荷台数は前年同月比8.6%増の40万9000台。約6割が容量8キログラム以上の大型機種だ。JEMAは「まとめ洗いや大物洗いのニーズが高まり、大容量へシフトしている」とみている。
6月に入り家電量販店が営業を再開したこともあり、国内の家電市場は回復傾向にある。金額ベースでみると冷蔵庫など白物家電の6月の国内出荷額は前年同月比5.8%増の3073億円と約23年ぶりの高水準だ。単価の高いルームエアコンや洗濯機など大型家電が全体の回復を牽引した。
全国的な気温の上昇を受けて、6月のルームエアコン出荷額は同9.5%増の1482億円と2ケタ近く伸びた。新型コロナウイルスの影響が大きかった4~5月には1割以上、前年実績を下回ったが、6月は9カ月ぶりにプラスに転じた。洗濯機も4.4%増の349億円と同1.4%増だった5月よりさらに伸びた。
家電量販店ではテレビ、エアコン、洗濯機、冷蔵庫が爆発的に売れた
家電量販店ではビックカメラとコジマ、エディオン、ケーズホールディングスが月次営業情報を開示している。最大手のヤマダ電機は月次営業情報の公表をやめている。
ビックカメラは子会社のコジマと合算した6月の全店売上高は9.2%増。パソコンやスマートフォン、情報機器が主力のビックカメラ自体の売り上げは6.7%減。家電量販に強いコジマが支えた。コジマの全店の前年同月比の売上高は4月は4.5%増、5月は19.5%増、6月は37.0%増と急速に回復した。6月にはテレビは60.6%増、エアコンは52.0%増、洗濯機は51.9%増、冷蔵庫は55.3%増と爆発的に売れた。
他の家電量販店も同様だ。ケーズホールディングスのグループ全体の売上高は5月が21.9%増、6月が40.5%増だった。6月にはテレビは50.1%増、冷蔵庫は54.2%増、洗濯機は46.3%増、クリーナーは59.2%増、調理家電は43.5%増、エアコンは49.7%増。驚異的な売り上げを記録した。7月は伸び率が落ちたとはいえ8.7%増だった。
夏物商戦の主役は家電量販店の大型家電だった。1人10万円の特別定額給付金の恩恵を最も享受した。しかし、定額給付金の効果は一時的。神風はもう吹かない。
ノジマはスルガ銀行を持分法適用会社に組み入れ
家電量販店は、少子高齢化や人口減などに伴い市場が縮小に向かうなか、「脱家電」「非家電」をキーワードに新業態の店舗を模索する動きを加速させている。
デジタル家電専門店を展開するノジマの20年4~6月期決算の売上高は前年同期比18.0%減の1063億円と大幅な減収。一方、営業利益は64.6%増の60億円、純利益は49.0%増の44億円だった。携帯端末販売のキャリアショップ事業が振るわなかったことが減収の原因。改正電気通信事業法施行で通信契約の際の端末値引きが制限され携帯端末の販売が鈍化した。
特別給付金の支給で利幅の大きい高価格のパソコンの販売が伸び、営業増益となった。ノジマの店舗は神奈川県を中心に郊外の店が多い。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた在宅勤務の浸透に伴い、消費者の自宅に近い郊外店でパソコンの売れ行きが好調だった。
ノジマはグループ会社にスルガ銀行をもつ。6月26日、シェアハウスなど投資用不動産をめぐる不正融資問題で経営の屋台骨が揺れるスルガ銀行を持分法適用会社にした。19年10月、スルガ銀行の株式を創業家の岡野一族から140億円で買い取り、すでに5%弱を保有していた分と、合わせて18.52%を保有する筆頭株主になった。6月26日に開催したスルガ銀行の株主総会でノジマの野島廣司社長が取締役に選任された。
ノジマはITと金融が融合したフィンテック事業に本格的に取り組む。スマホの普及やAI(人工知能)の進化に伴い金融機関以外の企業がフィンテックに参入。スマホ決済に代表される新たな金融サービスを提供する動きが急速に広がってきている。
ノジマは2015年、携帯端末販売大手のアイ・ティー・エックス(ITX)を約850億円、17年、インターネット専業のニフティを約250億円で買収した。あらゆる家電製品がインターネットを通じてつながるIoT(モノのインターネット)時代を見据え、大型M&Aを連発した。その延長線上にスルガ銀行の取り込みがある。
ノジマは2021年春から夏をめどに、昨年閉店した伊勢丹府中店(東京都府中市)が入居していたビルを大型商業施設(SC)として運営する。核テナントとしてノジマの旗艦店が出店するとともに、食品スーパーや衣料品店などを誘致する。商業施設を運営し収益力を高める。一連の動きはノジマが「脱家電」に経営の舵を切ったことを示している。