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旧MRJ、開発中止の観測も…技術者間の対立で開発現場混乱、親・三菱重工の経営圧迫

文=編集部
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県営名古屋空港で飛行するスペースジェットM90 出典:Wikipedia

 国産初のジェット小型旅客機、三菱スペースジェットが離陸できなくなった、との見方が広がる。三菱重工業の収益が悪化し資金的余裕がなくなったことが大きい。

 三菱重工の2020年4~6月期の連結決算(国際会計基準)は、最終損益が同期間で最大となる579億円の赤字(前年同期は163億円の黒字)だった。売上高にあたる売上収益は前年同期比15.4%減の7780億円、本業の儲けを示す事業利益は713億円の赤字(前年同期は404億円の黒字)。事業損益のうち傘下の三菱航空機が開発する三菱スペースジェット(旧MRJ)事業の損失が688億円生じた。研究開発費200億円のほか、開発規模の縮小に伴う約1000人のリストラ費用、カナダのボンバルディアからリージョナルジェット機CRJ事業を買収したことに伴うのれん代の減損などが含まれる。

 民間航空機事業は、米ボーイングから受注している航空機部品が前年同期比で半分以下になるという厳しさだった。B777の後部胴体、B787の主翼を製造している。777の後部胴体は前年同期の16基が6基、787の主翼は43基が18基と、いずれも半分以下に落ち込んだ。新型コロナウイルスの感染拡大による航空機需要の蒸発を受け、ボーイング向け受注が大幅に減少した。その売り上げが今後、早期に回復するとの見通しは立たない。

 21年3月期の連結売上収益は前期比6.0%減の3兆8000億円の見込み。事業利益や純利益は、それぞれゼロとの見通しを公表した。主力の発電設備事業で1000億円の事業利益を稼ぎ、航空機などの事業の損失を埋めるとしている。2期連続の大赤字になるのを避けたいとの政治的な意図が見え隠れするが、ゼロ決算にもっていくのはかなり難しいだろう。

 わずか2年前、当時の宮永俊一社長(現・会長)は21年3月期には売上高5兆円を目指す中期計画を掲げたが、スペースジェットの開発遅れとコロナ禍で中計は雲散霧消してしまった。財務内容は悪化の一途だ。6月末の自己資本比率は3月末比1.9ポイント減り22.5%。一方、コマーシャルペーパーの発行などで有利子負債残高は2894億円増えて8877億円に膨らんだ。CRJ買収に資金を使い、純現金収支は3395億円の赤字となった。財務は火の車だ。

完成機を造るノウハウ

「21年3月期にスペースジェット関連の損失額は1200億円となる見通し」。オンラインで行った決算説明会で、小澤壽人・取締役専務執行役員CFO(最高財務責任者)はスペースジェット関連費用や損失が今期の業績を圧迫すると説明した。新型コロナの感染拡大でスペースジェットの開発は事実上、中断に追い込まれている。国産初のジェット旅客機として期待されたが、機体の安全性を国が証明する型式証明(TC)を取得できず、量産初号機の引き渡しの予定が7年遅れ、開発体制の大幅な縮小を余儀なくされた。

 三菱重工は、ジェット旅客機の主翼や胴体など構造部品では航空機メーカーに直接納めるティア1として豊富な実績を持つが、完成機メーカーとしての事業化のノウハウはまったくなかった。完成機メーカーは航空機、装備品に関し1機100万点ともいわれる部品をすべて管理し、機体だけでなく、複雑なシステム制御を含めてあらゆる責任を負う。ボーイングから部品を受注する部品会社の発想では、工程管理や安全性を確保するのに限界があった。

スペースジェットの開発責任者を解任

 三菱航空機でスペースジェットの開発責任者を務めていたアレクサンダー・ベラミー氏が6月30日、会社を去った。ベラミー氏は三菱航空機に入社する以前の5年間、競合するカナダ・ボンバルディアで小型旅客機「Cリーズ」の開発メンバーであり、計7機の飛行試験機の開発に携わった。その前は英国のBAEシステムズに勤務。世界を渡り歩く航空機開発のプロを自認していた。

 宮永社長(当時)がベラミー氏をスカウトした。航空機開発が遅々として進まない原因の根本には、航空機部門がある名古屋から本社に適切な情報が伝わらない縦割りの弊害があると考えた。そこで16年以降、エキスパートと呼ばれる外国人技術者を300人規模に増やし、独善的だった同部門の意識の改革を試みた。その総仕上げが、18年、ベラミー氏をCDO(最高開発責任者)に起用することだった。

 しかし、外国人の助っ人が増え、主流派から転落した日本人技術者との軋轢が深まった。開発現場は混乱し、配線や計器類などの設計変更が相次いだという。19年4月、変化が起きた。ベラミー氏の後ろ盾だった宮永氏は会長に退き、泉澤清次氏が社長に就任した。1年後の20年6月、三菱航空機の新体制と役員人事が発表された。海外の3拠点を1カ所に集約し、社員数も現在の半数となる700人程度に削減する。ベラミーCDOは退任し、後任の開発責任者には、戦闘機開発の技術者である川口泰彦氏が就いた。

 三菱重工は、今年度の開発費を前年度の約半分にあたる600億円程度に圧縮する方針を示している。それに伴い、スペースジェット事業を大幅に縮小する。400人近くいた外国人技術者の多くが去る。三菱航空機の幹部社員22人のうち外国人はベラミー氏をはじめ13人。日本人は水谷久和会長以下9人で、外国人のほうが多かった。それが7月以降は日本人ばかりの6人になった。

 水谷氏はかつて「三菱航空機には多くの外国人技術者が国籍に関係なく集う。われわれはワールドドリームチームだ」と語ったことがある。だが、今やこれは夢物語。日本人だけの開発チームでスペースジェットは離陸できるのだろうか。資金(カネ)だけでなく技術者(人)の問題がネックとなる可能性が浮上してきたわけだ。

F2後継機開発を三菱重工に任せる

 スリーダイヤの三菱は、国家とともに歩んできた歴史がある。苦境の三菱重工に政府が救済の手を差し伸べた。河野太郎防衛相は7月31日の記者会見で、航空自衛隊のF2戦闘機の後継となる次期戦闘機の開発体制に関して、開発を主導する中核1社と単独契約する方式を採用すると発表した。三菱重工を選定する方向で調整しており、10月にも契約を締結する方向だ。中核企業が機体の設計を担い、開発スケジュールを統括する。

 F2後継機の開発費は1兆円規模の巨大プロジェクトだ。インテグレーター、つまり司令塔に三菱重工がなる。だが、ここでもスケジュール遅れが生じたり、もし開発に行き詰まったりしたら、司令塔としての存在意義が問われかねない。国の防衛計画も狂う。三菱重工にとっても社運を賭けたプロジェクトとなる。

 三菱重工は、国産初の民間小型ジェット機・三菱スペースジェットから、国産戦闘機の開発に乗り替える。こうしたさまざまな状況から、三菱スペースジェットが離陸することはないだろうとの見方が広がっている。

(文=編集部)

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