トヨタ、宗教儀式と化した異常な決算会見…豊田章男社長への“礼賛”質問オンパレード
「もはや決算会見ではなくて、アキオ様をヨイショする宗教儀式と化してますね」
ある全国紙記者は6日のトヨタ自動車の2021年3月期第2四半期決算会見について、こう呆れる。アキオ様というのはもちろん、同社社長の豊田章男氏のことで、近年、日本を代表する企業としては“マスコミ嫌い”が異常な域に達しているのは有名だ。
豊田氏が出席する会見の質疑応答では、事前指名された記者だけに都合のいいヨイショ質問をさせることは当たり前。安倍晋三前首相ばりの報道管制が敷かれているのだ。今回の会見でもそれが踏襲されたばかりか、「さらにパワーアップした」(先の全国紙記者)というから驚きだ。
会見内容を見てみよう。構成は1部と2部に分かれており、1部は財務担当の執行役員が決算内容に説明するごくごく普通の内容。問題は豊田氏が直々に「スピーチ」を届けるとして設けられた後半の2部だ。
豊田氏は今回の決算で5月の通期予想で示した営業利益5000億円を7~9月期だけでたたき出したことを「一朝一夕にできることではない」と誇り、「リーマン・ショックや東日本大震災などを経て、少しずつ積み上げてきた結果が出た」と語った。その上で、37万人におよぶ社員と家族や次世代のために、「トヨタフィロソフィーでは、私たちの使命を『幸せの量産』と定義」した。今の新型コロナウイルス感染拡大を「有事」と捉え、「自分以外の誰かのために、世の中のために、未来のために、仕事をしてまいりたい」と話した。
ここだけなら創業家の社長のスピーチとして理解できる。不気味になるのは、ここからの質疑応答だ。
まず、第1問が自動車業界紙の日刊自動車新聞で、豊田氏が出席する会見で事前調整された質問をすることで有名だ。今回も一発目に当てられ、「章男社長が中間決算に初めて出席した理由」を質問した。待ってましたとばかりに豊田氏が「今が有事であり、第3、4クォーターも頑張っていくという決意をこの場でお伝えしたかった」と返答した。普通、まともな記者会見では、一発目の質問では経営者に対して業績の受け止めなどを聞くことがほとんどで、まったく業績に関係のない「社長が初めて中間決算会見に出席した理由」を聞くのは明らかに異常だ。トヨタ担当を経験したあるベテラン記者はこう解説する。
「日刊自さんは業界紙のため、モーターショーなどビジネスの関係でトヨタは超お得意さん。その社長の言うことは絶対で、章男氏が社長になってから、こういうしょうもないワガママを飲まざるをえない場面が増えました。現場は必ずしも好意的には思ってませんが、これも仕事だと割り切ってやっているのが実情です」
自分の言いなりになる業界紙を使って今回の決算で章男氏が直々に乗り出したことを「異例」と印象づけたかったトヨタの思惑が透けて見える。
株主の日生社長までヨイショ質問
さらに「アキオ劇場」は続く。日刊自動車新聞に続きオートモーティブニュースが、来年にトヨタが開設する実験都市「ウーブン・シティ」について質問した後、なんとトヨタの大口株主である日本生命保険の清水博社長が質問するという異例の事態に。
日生は、トヨタの自社保有株とグループ企業である豊田自動織機の保有株を除いて、トヨタの3位の株主。株主総会でもあるまいし、大口株主が記者会見で質問に出てくること自体、意味不明だが、この清水社長、長々とおべんちゃらを3分以上を続け、「(章男氏は)『幸せの量産』のために先頭に立って疾走しているとお見受けする。そこまで豊田社長を熱く突き動かしているのは何か」とのヨイショ質問で占めた。豊田社長も「自分には無理だと言われ続けた悔しさ」と「ジャパンラブ」とご機嫌に答えた。このやりとりについての週刊誌記者の弁。
「豊田社長は答えの冒頭で『メディアを中心に評価されていないので、くすぐったいご評価をいただいた』と嬉しそうに話していますが、自分が事前に仕込んだ質問を本当に嬉しそうに話しており、腹が立つのを通り越してかわいそうになってきました。そもそもアナリストならまだしも、株主が質問している時点で『記者会見』ではありませんし、それに社長直々にわざわざ出てくる日生の企業モラルもおかしい。コロナ禍で自動車が日本経済を支えているのは事実ですが、メディアも含めてこんな『宗教儀式』に媚びるのは、社会が劣化しているとしかいいようがない」。
この会見では、その後もトヨタのお膝元の名古屋の地元ブロック紙である中日新聞の「トヨタフィロソフィー」についてのほか、モータージャーナリストのヨイショ質問が続いた。
章男社長がマスコミ嫌いなワケ
トヨタのマスコミに対する異常な圧力は、会見での質問の事前調整だけではない。
「リリース発表をはじめ、逐一広報が担当記者に『どんな内容になるんですか?』と事前に内容を把握するために質問をしてくるのは日常茶飯事。少しでも見出しにネガティブな表現が入っていると、記事がネットに配信された瞬間に電話が掛かってくるほどの監視体制を敷いています。まあ、広報も仕事でやっていることはわかるのですが、こんなクルマ作りにはほど遠いことをやらされている社員も気の毒ですが、トヨタイズムに染まっていないとやってられないんでしょう」(トヨタ担当を経験した経済部デスク)
章男氏のマスコミ嫌いがつとに激しくなったのは、2009年の社長就任から間を空けずして起きた大規模リコール以降だという。この際、章男社長は米国議会で4時間にわたって厳しい質問を投げつけられた。
「米国社員向けの報告会で涙ぐむ場面などが繰り返し報道され、国内外のマスコミから袋だたきにされたことが章男氏のマスコミ不信を高めた」(前出デスク)
トヨタ担当を経験した複数の記者からは、以下のような証言も聞かれる。
「朝回り夜回りの際に章男氏が気に入らない質問をすると、次の日に広報からクレームが来て、ひどい場合だと出禁になるのはザラ」
「最近では排除されたメディアには単なるファクトレベルの裏取りもさせないという横柄ぶりが際立っている」
マスコミ不信のあまり、2019年に自社情報を配信するオウンドメディア「トヨタイムズ」を立ち上げた。章男氏と仲の良い日本経済新聞記者を編集業務につけるなど、出向させた日経のメディアの中立性が疑われる話も出ているが、内容はとにかく自社メディアだから当たり前ではあるが、「トヨタはすごい」「章男社長はすごい」のオンパレード。例えば、10月26日に配信された『【密着】豊田章男の休日』では、本当に章男社長が散歩する様子を約3分間撮影しただけのもの。コロナ禍に思うこととして「何もないように元気に飛び回る鳥がいる。右往左往しているのは人間だけ」と、これだけの不景気で社会全体が困窮しているのもどこ吹く風の「名言」を放つのだから、さすがに大物は違うとしかいいようがない。
豊田社長は今回の会見の中で、「クルマの評価は顧客と市場が決める」と話しているが、企業や人の価値も同じではないのか。意に沿わないレベルの低い報道があるのは確かだろう。しかし、地方の中小企業ならいざ知らず、日本を代表する大企業であり、株式を一般に公開する東証一部上場企業である以上、あらゆる批判に耐えるべきではないのか。それがイヤなら下手なマスコミコントロールなどさっさとやめて、株式を非上場にし、会見など開くべきではないだろう。
今のトヨタの姿は企業ではなく、異常に力を持った宗教団体そのものである。こんな集団を救世主としてもてはやす日本社会の劣化は悲しい限りである。
(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)