ヤリスが“常勝N-BOX”を抜いて販売トップに立った理由…ライズとルーミーがライバル車に?
自販連(日本自動車販売協会連合会)および全軽自協(全国軽自動車協会連合会)が2020年9月の新車販売台数を発表すると、ある異変が起きていた。軽自動車も含める(含軽)新車販売統計ではホンダ「N-BOX」の常勝が続いていたが、2020年9月は、登録車であるトヨタ自動車「ヤリス」が登録車だけでなく含軽統計でもトップとなったのである。
N-BOXがマイナーチェンジを控えている時期ということもあるが、ヤリスが常勝N-BOXを抑えてトップとなったことは間違いない。販売台数はN-BOXが1万8630台に対し、ヤリスは2万2066台で、その差は3436台であった。
ヤリスの勝因としては、9月の統計には派生車種である「ヤリス クロス」の販売台数がフルカウントで上乗せされたことにある。N-BOXの月販目標台数が1万5000台なのに対し、ヤリスとヤリス クロスを合わせた月販目標台数は1万1900台となっているので、月販目標台数比ではヤリス系には勝ち目がないともいえる。
しかし、2020年4月から、ヤリス クロスがフルカウントで合算されない8月までのヤリスの月販平均台数は約1万1466台となるので、月販目標台数比147%で推移している。一方でN-BOXは約1万4398台となっているので、月販目標台数比95.9%で推移していた。
ヤリスがN-BOXに勝ったのは、単にヤリス クロスが合算されただけでなく、ヤリス自体も販売好調であったこと、N-BOXがマイナーチェンジを控え、ややパワーダウンしていたことなど、さまざまな要因が合わさった結果といっていいだろう。それでは、今後はヤリスが含軽統計でトップを維持するかといえば、それは難しいだろう。
確かに販売統計を見ると好調な販売が続いているように思えるが、街なかではとにかく「わ」ナンバー、つまりレンタカーを多く見かける。販売現場では「自販連統計の販売台数ほど、売れているという実感はありません。レンタカーや法人営業車などの需要が多いのではないでしょうか」との話を聞くことが多い。
今後もN-BOXを打ち負かすためにフリート販売をより積極化させることも考えられるが、トヨタはN-BOXとのガチンコ勝負はしてこないだろう。ただ、決算セール期などに時々N-BOXを抜いてトップに立つことで、ホンダにプレッシャーを与えるようなことは今後も続くだろうから、N-BOXの前に新たなライバル(しかも登録車)誕生といっても過言ではないだろう。なお、登録車のみのランキングでは、ヤリス クロスが合算されるようになったので、ヤリスがトップを維持する可能性はかなり高いといえる。
ヤリスを脅かすライズとルーミー
N-BOXをも脅かす存在となったヤリスシリーズだが、そのヤリスを脅かす存在が身内のトヨタにいる。「ライズ」と「ルーミー」がそれだ。ルーミーは9月15日にマイナーチェンジを行っており、8月を待たずにマイナーチェンジ前の在庫車を売り尽くしているのだが、9月の販売台数は8084台となっている。マイナーチェンジのタイミングで兄弟車の「タンク」が廃止となっており、9月の販売台数はほぼ新型車のみと考えていいだろう。
マイナーチェンジ後のルーミーの月販目標台数は8700台となり、ルーミー&タンクがデビューしたときの合計月販販売台数7700台より1000台多くなっている。ただ、2019事業年度(2019年4月から2020年3月)までの月販平均販売台数はルーミー&タンク合算で約1万4000台となり、月販目標台数の2倍を販売していた。
今後も月販目標台数の2倍を販売するとなれば、1万7400台となる。「マイナーチェンジ後もルーミーの販売は絶好調です。すでに(10月下旬時点)年内納車が間に合うかどうかという納期になっています」とは現場のセールスマン。
一方、ライズの人気も衰えを見せず、2020事業年度締め上半期(2020年4月から9月)の販売台数は6万1035台となり、月販平均販売台数は約1万台となり、登録車のみではトップのヤリスシリーズに次ぐ2位となっている。ライズの月販目標販売台数は4100台なので、新型コロナウイルスの感染拡大が収束しない中でも目標の2倍強を販売したことになる。
「ヤリス クロスは3ナンバーサイズとなりますし、ライズに比べれば価格も高めです。ハイブリッドや4WDシステムなどにこだわりを持たないお客様には、ライズをおすすめするようにしています」(前出のセールスマン)
5ナンバーサイズで価格も手ごろなクロスオーバーSUVといえば、兄弟車のダイハツ「ロッキー」以外はスズキの「イグニス」と「クロスビー」ぐらいとなるので、ライズの人気は当分続いていきそうである。
この2台の勝因は、1Lエンジンを搭載していることも大きいだろう。たとえば、ルーミーのライバルとなるスズキ「ソリオ」は1.2Lエンジンを搭載するので、自動車税はルーミーの方が安くなるのである。ただ、税金のために1 Lにしたというだけではなく、ターボもあるルーミーだが、NA(自然吸気)エンジンでも目立って非力さを感じることはない。
それでは、この2台が販売台数でヤリスを抜くかといえば、ヤリス クロスが加わった今ではかなり厳しいだろう。ただ、この2台がヤリスの販売台数の伸び悩みを招く“アキレス腱”となることは十分考えられる。つまり、ヤリス クロスを検討していたお客の一部がルーミーとライズに流れるという現象が、ヤリスシリーズの販売台数の伸び悩みを招いてしまうかもしれないのである。
ホンダでは、N-BOXの存在により、新型「フィット」の販売台数が苦戦とまではいかないが、今ひとつ元気がない印象を受ける。それと同じことが、ヤリスシリーズでも今後は目立ってくるかもしれない。
いまだにヴィッツの未登録在庫が販売中?
余談だが、ヤリスへバトンタッチした3代目「ヴィッツ」の未登録在庫が、まだボディカラーが選べるほど市中に存在しているようで、ディーラーにヤリスを見に行ったら在庫のヴィッツをすすめられたとの情報も入っている(しばらくすればレンタカーなどとして売却されることになるだろう)。
販売現場では、日本国内でも海外と同じく“ヤリス”に改名されたことで売りにくくなったとの話も聞く。20年間“ヴィッツ”として販売してきて認知度もかなり向上してきたのに、「新型からはヤリスになりました」では、すごろくで“ふりだし”に戻るほど新車販売では大変なこと。そのような中、慣れ親しまれたヴィッツの未登録在庫がいまだに存在するのは、トヨタの念の入った販売施策の賜物なのだろうか?
“ヤリスシリーズの敵は身内のトヨタにあり”、トヨタとしてはライズやルーミーはダイハツからのOEMとなるものの、トヨタブランド車であることには違いない。トヨタ内で販売競争している分には、他メーカーへお客が流れる心配はない。他メーカーがますます蚊帳の外に追いやられ、トヨタ1強時代がより鮮明化していっているといってよいだろう。
(文=小林敦志/フリー編集記者)