トヨタ自動車の豊田章男社長が来春、経団連副会長に就任する意向を固めたとの情報が流れた。早川茂氏が来年、トヨタの副会長を辞める(2期4年の任期)。当然、経団連の副会長からも降りることと連動しての話だ。
経団連会長の中西宏明(日立製作所会長)の病状がはっきり伝わってこないこととも関係している。中西氏は9月7日、入院治療中の病院から約2カ月ぶりに外出。定例記者会見に臨んだが、「(リンパ腫)再発の難しさもあり、治療は試行錯誤で進めている」と説明。7月から入院しているが退院の時期は見通せないという。豊田氏が経団連入りすれば、すぐ経団連会長ということもあり得るというシナリオだ。
トヨタは丸紅の元執行役員(現顧問)の島崎豊氏を渉外広報本部フェロー(役員待遇)としてスカウトし、9月1日に就任した。島崎氏は丸紅の勝俣宣夫会長が経団連副会長を務めた時期に勝俣氏の秘書として経団連活動をサポートした。豊田氏が丸紅の島崎氏をスカウトしたことが、「経団連会長を視野に入れたものか」と受け止められたようだが、トヨタ社内外では懐疑的な声が多い。
「島崎氏にそこまでの実力はない。しょせん経団連では副会長の秘書をやっただけ。会長の秘書はやれない」(商社筋)
島崎氏は丸紅で定年。島崎氏は慶應大ホッケー部で豊田氏の後輩にあたり、その縁でトヨタに拾ってもらったという見方である。ただ、島崎氏がトヨタで渉外役をやることは間違いないだろう。
「章男さんはまだまだ社長を続けるつもりだ。現役社長と経団連会長の二足の草鞋は無理がある」(トヨタ首脳)
「豊田社長は以前から経団連入りに後ろ向きだった。急に前向きになることは考えにくい」(トヨタ幹部で豊田氏の近くにいた人物)
豊田氏の次期経団連会長内定のビッグニュースの賞味期間は、実に短かった。
トヨタ幹部も「びっくりした」人事
トヨタの一連の人事の詳細について触れておこう。7月1日付で社長秘書の山本正裕氏が、新設された社長室長に昇格した。豊田氏などと一緒にラリーに参加している“カー・ガイ”の一人だという。9月1日付でトヨタモビリティパーツ取締役の宇野充氏(トヨタ元常務役員、トヨタファイナンス社長、トヨタ部品愛知共販会長を歴任)が渉外広報副本部長(渉外担当)として戻ってきた。この人事に、トヨタ幹部は「びっくりした」と語る。
同日付で島崎氏が渉外広報本部フェローとなった。宇野氏は政治家には強いものの、関係者によると「豊田章一郎氏や奥田碩氏が経団連会長をやっていたときは、秘書の仕事はしていなかった」。
「上層部との会話で、自工会、豊田自工会会長という単語は頻繁に出てくるが、経団連の三文字は一切ない。経団連の事務局が豊田経団連会長を望んでいるのかもしれないが、社内では経団連や経団連会長に対する思いは薄い」(別のトヨタ幹部)
豊田氏の経団連入りのニュースは、経団連の“民僚”の願望なのかもしれない。自動車担当のアナリストは「豊田社長には財界活動をやることによってお金を吸い取られることへの警戒感や嫌悪感があるのかもしれない」と推測する。
(文=編集部)