東証1部上場のシステム開発会社、ネットワンシステムズは12月16日、従業員による資金流用の疑いに関する調査結果を公表した。外部調査委員会の調査報告書によると、12月15日に懲戒解雇されたAは仕入れ先企業に見積額の上乗せを要求するなどして金額を水増しし、ネットワンから2億円を不正に流出させていた。自身のプライベートカンパニーへの入金が確認されており、沖縄県に約7600万円の不動産を購入していたことや、およそ2年間で1500万円超のクレジットの利用が明らかになった、という。
このほか7人が原価付け替えに手を染めていた。ただし、個人的な着服の事実が確認されなかったことから7人は懲戒解雇とせず、懲罰委員会にかけて処分する。
ネットワンを巡っては19年から20年にかけて、複数のIT企業が絡んだ合計1000億円超の循環取引が明るみに出たばかりだ。調査結果を踏まえ、過年度の連結決算を修正した。15年3月期から20年同期までの6期と20年4~6月期の純利益を合計13億2900万円減額した。架空取引分として20年3月期に93億円の水増し分を損失処理したが、その後、従業員の不正流用が発覚したためだ。
10月27日に予定されていた20年4~9月期決算は、資金流用を調査するため延期していた。12月16日に発表した20年4~9月期の連結決算は売上高が前年同期に比べて微増の824億円、純利益は70%増の45億円だった。21年3月期通期は売上高が前期比2%増の1900億円、純利益し17%増の115億円を見込んでいる。
ネットワンが仕切り屋だった循環取引
複数の企業間で実際に商品を動かさずに帳簿や伝票上だけで売買が行われたように装う取引を循環取引という。ソフトウエアやシステム開発といった形のない商品を扱うIT業界では、悪しき商慣行といった側面があった。
東芝は今年1月18日、ITサービスを手掛ける連結子会社の東芝ITサービスで200億円規模の架空循環取引があったと公表した。東芝の発表を受けネットワンシステムズは2月13日、特別調査委員会(委員長:濱邦久弁護士)の中間報告書を公表。営業部の課長級社員(マネジャー)が取引を持ちかけるなど主導的な役割を担ったと認定した。ネットワンは12日付で当該の社員を懲戒解雇にした。
中間報告書によると、中央省庁を担当していたネットワンの元営業シニアマネジャーが今回の架空取引を差配。別の企業が納入した中央省庁のIT機器の発注案件を利用し、商品を納入していたかのように装い利益を上乗せした注文書を回していた。
帳簿上の取引だけで実体はなく、元マネジャーが注文書の偽造も指示していたという。「予算の達成が営業部のプレゼンス向上の生命線だったため不正行為はやめられなかった」と打ち明けたという。架空取引は2015年2月に始まり19年11月まで続き、取引件数は40件。累計の売上高で276億円が水増しされていた。
「元マネジャーだけが全容を把握し、架空の取引であることを認識していた」「当社において組織的に実行されたものではない」と、組織ぐるみであることをネットワンシステムズは否定した。このときも2月13日に予定していた19年4~12月期の決算発表を3月13日まで延期した。
ネットワンシステムズが主導した架空循環取引には東芝子会社の東芝ITサービス(川崎市)、日本製鉄子会社の日鉄ソリューションズ(東証1部上場、東京・港区)、富士電機子会社の富士電機ITソリューション(東京・千代田区)、みずほリースの子会社のみずほ東芝リース(東京・港区)が関与していた。ダイワボウホールディングスの子会社ダイワボウ情報システム(大阪市)も加担していたことが明らかになる。架空循環取引は累計1436億円に上った。
ネットワンは3月12日、最終報告書を公表し、決算を発表。水増し額はさらに膨らんだ。5年間累計で売上高が321億円、純利益は93億円にのぼった。
IXIの循環取引シナリオを書いたのはネットワンの元部長
ネットワンは不正の温床となった「直送」取引の原則禁止など再発防止策を講じている。同社が関与した架空取引は3回あったとされる。東証2部上場のシステム開発会社、アイ・エックス・アイ(IXI、大阪市)は、循環取引で売上高の8割を水増ししていたことが発覚。07年1月、民事再生法を申請して経営破綻した。
IXIは東証2部上場を維持するため、売上高を増やす必要があった。05年春、循環取引に手を出した。IXIの循環取引はネットワンの元部長がシナリオを書いた。13年、十六銀行(本店・岐阜市)の内部調査で行員と同行出身のネットワン社員による架空取引が発覚した。同行のシステム開発を受注したネットワンの社員が、その謝礼に行員が関与する別のコンサルティング会社にコンサル業務を発注したように見せかける手口でネットワンから約50回にわたり計7億9000万円を騙し取っていた。
循環取引はIT業界の悪しき温床
循環取引は業界用語で「Uターン取引」「グルグル取引」「まわし」などとも呼ばれている。自分が受けた注文をそのまま他社に回すのがスルー取引。丸投げすることを指す。
IT業界で、こうした取引が広がるのには、それなりの理由がある。ソフトウエアの開発は複数の企業が請け負う同業者間の取引が多いことが挙げられる。開発が長期にわたることから納品する前に伝票だけを動かし、資金を回収することによって開発費の負担を軽減することが日常的に行われているといわれている。営業担当者同士が談合し、スルー取引が行われる素地が生まれる。こうして循環取引の輪が形成されるわけだ。
こうした手法を身につけた営業マンが各社に散らばっているから、スルー取引、循環取引のネットワークが形成されやすいのだ。今回のネットワンの社員による資金流用疑惑は、4回目の循環取引になるのだろうか。成り行きが注目される。
(文=編集部)