帝国データバンクの調査によると、焼鳥店などを含む「居酒屋」の倒産が2020年1~10月に164件発生した。通年では過去最多の19年(161件)をすでに上回り、過去20年で最多となった。言うまでもなく新型コロナウイルスの影響が直撃した形であり、そのほとんどは中小零細規模の事業者だ。地域別では東京都と大阪府が多く、東京は全体のほとんどを23区内の事業者が占めている。
「飲み会マインドの低下に伴い、居酒屋の倒産は今後も増加する可能性が高いですが、この苦境を乗り切った事業者は筋肉質な経営体制に生まれ変わることができる」と語る、帝国データバンクデータソリューション企画部情報統括課副主任の飯島大介氏に話を聞いた。
人件費高騰や屋内禁煙にコロナ禍が追い打ち
――外食産業の中でも、やはり酒類を提供する居酒屋は大打撃を受けていますね。
飯島大介氏(以下、飯島) 倒産件数は過去最多の19年をすでに上回っており、このペースが続くと、今年は200件に到達する可能性があります。新型コロナの感染拡大を受けて需要が激減したことが主な要因ですが、それだけではありません。17年に施行された改正酒税法により、ビール類をはじめとした酒類価格が上昇したほか、人手不足に起因する人件費の高騰が経営を圧迫していました。さらに、今年4月の改正健康増進法の全面施行でタバコが吸える環境ではなくなったことも、客足が遠のく一因になっています。
――そこをコロナ禍が襲ったというわけですね。
飯島 もともと内部留保などの面で経営体力が弱い事業者が多かったため、休業や時短営業による減収に耐えられずに淘汰が進んでいます。クラスター発生などによる飲み会マインドの低下に伴い、居酒屋の倒産は今後も増加する可能性が高いでしょう。
負債総額別に見ると、5000万円未満が全体の約8割を占めており、中小零細規模が多いのが実情です。また、地域別では東京と大阪が多く、東京は23区が全体の8割を占めていることからも、繁華街が打撃を受けていることがわかります。
新型コロナ感染が拡大した3月以降について、日本フードサービス協会は「壊滅的な状況が続いている」と指摘しています。同協会の調査によると、「パブ・居酒屋業態」の7月の売上高は前年比47.2%。4月(前年比8.6%)と比べて大きく改善していますが、前年にはほど遠い水準です。
――大手チェーンの動向についてはいかがでしょうか。
飯島 ワタミは居酒屋から焼肉店「焼肉の和民」への業態転換を図っていますが、これは得策だと思います。居酒屋の経営を圧迫する要因のひとつに人件費の高騰がありますが、焼肉店の場合は顧客が自分で肉を焼くので、ある程度は人件費を削ることができるからです。一方、17年の値上げ以来客離れが叫ばれている鳥貴族は、20年7月期決算の最終損益が7億6300万円の赤字で、2年連続の赤字となりました。
「Go To イート」終了後が本当の危機?
――雇用助成金や家賃支援給付金などの支援に加えて、飲食店を支援する「Go To イート」事業も始まりました。
飯島 Go To イートは一定の効果はあると思いますが、業界内からは「これが終わったときが怖い」という声も聞かれます。「この金額で飲み食いできるならコスパがいいよね」と利用していたお客さんが、事業終了とともに「高いからもう行かない」と考えるのではないか、という懸念があるからです。
――ソーシャルディスタンスの確保のために、客席を減らす居酒屋も増えました。
飯島 客席が減ると客単価を上げない限りは売り上げも減ることになるため、経営的には大きな痛手です。飲み会マインドが戻らない中、現場は「新しい生活様式」に対応するビジネスモデルに転換しなければならず、それは収益力の低下やコストアップなどの悪影響につながります。
コロナ以前の状況まで回復できるかどうかがわからない中、飲食業者からは「新しい生活様式とリモート出勤の定着で飲食店の淘汰が進む」と懸念する声があります。淘汰が進むことは避けられないと思いますが、見方を変えれば、この苦境を乗り切った事業者は筋肉質な経営体制に生まれ変わることができるでしょう。
(構成=長井雄一朗/ライター)