トヨタ豊田社長のご乱心…新聞社買収画策で批判封殺、一部メディアを会見“出入り禁止”
トヨタ自動車の豊田章男社長の傲慢ぶり、ここに極まれりである。
情報誌「ファクタ」(ファクタ出版)が2020年12月号で『トヨタ「新聞社買収」の横暴』との記事を掲載し、業界関係者の間で話題を呼んでいる。記事では、業界紙の⽇刊⾃動⾞新聞の株式を第三者割当増資により持ち分を増やすことで⽀配下に置こうとしていることや、⽇刊⼯業新聞社の買収も画策していることなどが報じられている。
豊田氏のマスコミ嫌いが最近強まっており、記者会見がまるで宗教儀式に成り下がったことについては、11月8日配信の『トヨタ、宗教儀式と化した異常な決算会見…豊田章男社長への“礼賛”質問オンパレード』ですでに報じたが、カネにモノを言わせて新聞社に買収を進めているとなると、もはや異常な域に達したといっていい。
トヨタイムズの不評が買収の動機
まず、この買収の理由ははっきりしている。オウンドメディア「トヨタイムズ」の不振だ。2019年に「トヨタの本当の姿」を伝えるために誕生したこのメディアだが、人気俳優の香川照之氏を編集長に採用するなど当初は注目を集めたものの、はっきりいって「豪華な社内報」の域を出ない。アップされるコンテンツは御用評論家の座談会や、記者会見の質疑応答の焼き直しなど「トヨタはすごい」「章男社長はスゴイ」のオンパレード。これ自体は自社の資金で運営しているのだからトヨタの自由なのだが、これらのコンテンツを喜んで見る人間は豊田氏のほかはトヨタ関係者くらいのもので、およそ広がりを持つように思えない。「読者の目」を意識して楽しませるようなメディアになっていないのである。「オレはとにかくスゴイ」とすごまれても鼻白むのが普通の人間の反応だ。
そこにきてこの「ファクタ」報道である。「本当の姿」がどうにも伝わらないと見るや、カネで新聞社を買収し「客観的な評価」を買おうという魂胆が透けて見える。まるで何がオシャレか、何が格好いいかもわからないのに値札だけ見て高級品を買い、見せびらかしたい中二病の青年のようだ。
次のターゲットは毎日か産経
現状、トヨタは中部経済新聞やテレビ朝日系の名古屋テレビ放送の株式を保有しているほか、日本経済新聞社、中日新聞など大手メディアの大スポンサーでもある。前回の記者会見の記事でも、日刊自動車新聞や中日新聞などが事前調整されたヨイショ質問をしたことを報じたが、メディアも企業である以上、スポンサーの言うことが絶対なのは他の業界と変わらない。
ただ、メディアの経営とは難しいもので、編集サイドの自由を認めず、「批判精神」が感じられなくなった瞬間、良質の読者が離れていくものである。そして優れた企業⽂化というのは信頼を積み重ねるのは⾮常に難しいが、失うのは⼀瞬だ。編集の現場に土足で踏み込んでくるような経営者がトップに立てば瞬く間に読者は離れていく。量産型トヨタイムズの結果は火を見るより明らかだろう。
トヨタが日刊自動車新聞や日刊工業新聞を買収できたとして、もともと悪く書かれることのない業界紙、専門紙を支配下に置いたところで、次は一般紙に食指を伸ばしたくなるのは目に見えている。次なるターゲットは経営難が続く毎日新聞や産経新聞だろう。ウルさ方をカネで屈服させたい欲求に歯止めはかけようがないからだ。
現代日本で言論統制など不可能
この「ファクタ」報道にもある通り、日本経済新聞と毎日新聞が2020年9月中間決算の事前報道が豊田氏の逆鱗に触れ、決算会見を出入り禁止になったのは、筆者も複数の関係者に取材し事実だと確認した。どちらの記事も新聞メディアとしてはごくごく普通の内容であり、怒るような部分はまるでない。これまでさまざまな経営者を取材したが、内容自体を問題にせず「自社のコントロールが効かない」というだけで出入禁止にする大企業はトヨタだけである。
筆者が豊田氏に申し上げたいのは、SNSが普及し国民総メディア化している現代において、情報統制など不可能だということである。事実、「ファクタ」だけでなく、独立系メディアの「Business Journal」でも批判記事を出せる以上、つくろおうとすればするほど逆のニュースが出た時のダメージは大きくなる。メディアでなくてもツイッターなどでつぶやかれることでイメージがダウンすることも、まったく珍しくない。そんな時代にわざわざ老舗メディアを買収しようなど、はっきり言ってカネのムダだ。それにトヨタは東証一部上場企業である。今回の新聞社の買収計画を進めるとなれば、なんと株主に説明するつもりだろうか。自社のイメージアップには高すぎる買い物だろう。
言論の自由は自動車の歴史よりも古い
言論の自由は権力者に対して自由にモノを言えるということに本質があり、それが民主主義社会の根幹をなすものである。日本国憲法には、クルマをつくる自由は書かれていないが、言論の自由、表現の自由はしっかり明記されている。自動車は生活を支える重要な役割を担っているのは間違いないが、いくらいい自動車があっても金持ちに言いたいことも言えない社会のほうが息苦しいのは間違いない。何より、戦後の自由な社会から、優れたトヨタ車も世に出たのではあるまいか。豊⽥社⻑にはそのあたりをしっかり考えてメディアとお付き合いいただきたいものである。
(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)