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松岡久蔵「空気を読んでる場合じゃない」

NHK受信料は月600円に下げられる…約4千億円“貯め込み”、平均年収1千万円の好待遇

文=松岡久蔵/ジャーナリスト
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NHK放送センター(「Wikipedia」より)

空気を読んでる場合じゃない

 NHKは13日、2021~23年度の中期経営計画を発表し、受信料値下げを打ち出した。民間企業の内部留保にあたる「繰越剰余金」など700億円を原資にするという。NHKは公共放送として受信料という「税⾦」を国⺠から巻き上げ、職員の過剰すぎる待遇を維持してもなお、剰余⾦という形で貯蓄するだけの余裕がある。今回は「特権階級」との批判をひとまずかわした格好だ。

 ただ、今回の中計では、グループ全体の剰余⾦を含めた4000億円の余⼒の⼀部しか値下げの原資とされていない。支持率低迷にあえぐ菅義偉首相からの受信料引き下げ圧力は当面続きそうだ。

月額で地上放送1000円、衛星放送2000円が目標

「今回の計画はNHK改革の仕上げとして本気の覚悟を示したものだ」――。

 13⽇の記者会⾒でNHKの前⽥晃伸会⻑はこう決意を表明した。23年度までに受信料収入約7000億の1割程度にあたる700億円の原資について「作れなければ会長を辞める」と豪語した。23年度の黒字約100億円、剰余金400億円、渋谷放送センター建て替えのための「建設積立金」から200億円という内訳を想定しているという。

 受信料にはNHKの放送受信規約において総合テレビ及びEテレなどの地上波を受信できる地上契約(月額1225円)と、地上波とBS1及びBSプレミアムなどの衛星波が受信できる衛星契約(月額2170円)とがある。受信料の19年度の年間収入額は7115億円となっており、受信契約は19年度末には4212万件(うち衛星契約は2224万件)だった。

 この会見で前田会長は新たな受信料について正式な金額は公表しなかったが、700億円があれば「衛星契約なら月300円の割引を1年間続けられる額」との見通しを示した。この金額は「根拠がない適当な算出」(NHK関係者)だが、単純計算で年間に月額100円を値引きすると、衛星契約だけなら2200万件×100円×12カ月で年間264億円の原資で可能なため、300円として792億円。経営努力で浮いた分をプラスすれば十分達成可能な数字だ。

 なお、地上契約も含めて値引きするとなると、4200万件×100円×12カ月で年間504億円のため、全体で120円ほどの値下げになる。原資を700億円に限定するとなると、「23年度に地上放送1000円、衛星放送2000円」が現実的な新料金となりそうだ。

NHKグループで4000億円の値下げ原資

 これを踏まえた上で、筆者はまだまだNHKには受信料値下げの余力があると考える。現代はネットフリックスなどネット配信動画サービス全盛の時代だ。それらのコンテンツは軒並み月額1000円前後と安価で、退屈なNHK番組よりもはるかに質の高いコンテンツを備えている。「頑張ってたかだか300円の値下げかよ」「地上契約なら500円がせいぜい」と思うのが視聴者の嘘偽らざる意見だろう。筆者がざっと調べたところ、NHKグループには最大4000億円の値下げ余力がある。順番に解説していこう。

NHK本体だけで3000億円の余力

 NHKの剰余金は14年度の876億円から19年度には1280億円と増加傾向にあり、20年度末には1450億円に上る見通しだ。さらに、12年度からの「建設積立金」は19年度末時点で1694億円。この2つを合わせてNHK本体で最大3000億円の余力があることになる。

 剰余金については、総務省の有識者会議が年末にとりまとめた改革案によると、1990年から2000年代半ばまで200~600億円で推移していたが、財政上の問題は発生しておらず、11年の東日本大震災後に際しても取崩しは行われなかったという。いかに現在の約1300億円が必要以上に貯め込まれてきたかは明らかで、値下げに活用されるのは当然だ。

 建設積立金についても、今回の中計で渋谷の新放送センターの計画の抜本的見直しが決まったことで、こちらも先に述べた200億円を含め、かなりの部分が受信料値下げの原資となることは既定路線となっている。

子会社・関連会社にも「埋蔵金」1200億円

 さらに、今回の中計には記されていないが、NHKグループの子会社・関連会社(以下、グループ会社)の15社にも剰余金が約1200億円あり、「埋蔵金」となっていることはもっと知られていい。

 この剰余⾦が問題視されたのは17年3⽉の会計検査院の報告書で、剰余⾦が08年度の757億円から年々増加していることや、NHKが⼦会社を含む関連団体と結んだ契約の9割超が随意契約だったことが判明し契約の公平さが問題視された。

 剰余金は最新の昨年3月末時点で約1163億円とNHK本体の剰余金とほぼ同水準。随意契約にしても19年度でも約9割程度が続いており、状況はまったく改善されていない。

 NHKのグループ会社はそれぞれ、議決権を各社とNHK本体で全体の6〜9割保有している上、残りの議決権も基本的にほぼグループ会社同⼠の相互持ち合いとなっているため、事実上NHKの一部門といえる。グループ会社の分の余剰金も含めて、今後の受信料引き下げの原資となるべきなのはいうまでもない。さきほどのNHK本体の3000億円と合わせれば、なんとグループで4000億円の余力があることになる。

1年間600円の値下げまでは可能

 さて、この4000億円をスタートにして、最大限どの程度受信料値下げが可能か検証してみる。

 NHK本体の3000億円のうちの剰余金1450億円について、NHKが「剰余金は震災時の備えとして事業規模の1割は必要」と説明してきたが、これが正しいとすると700億円あれば十分ということになる。残りの750億円は値下げの原資にできる。建設積立金については、1700億円のうちかなりの部分が削られるとみられるため、1000億円を拠出するとして、1750億円がNHK本体から捻出できる。グループ会社の1200億円は問答無⽤で召し上げるとして、約3000億円が最⼤の値下げ余⼒と言っていいだろう。

 とすると、前述の全契約につき1年間月額100円値下げに必要な504億円の6倍となり、1年間だけなら600円、2年間なら300円の値引きが可能となる。これなら、「地上放送600〜900円、衛星放送1570〜1870円」とそれなりには納得感のある価格設定にできる計算となる。受信料値下げを主導する菅⾸相と武⽥良太総務相のゴリ押しコンビには、このあたりまで踏み込んでほしいものだ。

放送法の抜け穴「自主事業」で剰余金捻出

 さて、この子会社・関連会社がどうやってNHK本体と同水準の剰余金を貯め込んできたかについても書いておかねばなるまい。

 グループ会社は「自主事業」という名目で放送法に定められた本来業務から離れたビジネスも手掛けることが可能となっている。その代表格がイベントやコンサート、展示の事業で、「天下のNHK」のブランド力を背景としてスポンサー収入を得ている。放送法ではNHK本体の広告放送を禁⽌されているため、「グループ会社を通したグレービジネス」との批判は根強い。

 例えば、教育番組制作を手掛けるNHKエデュケーショナルは毎年、『おかあさんといっしょ』など国民的幼児番組の出演者・キャラクターによるコンサートを主催している。昨年度の決算によると、夏に開かれた「おかあさんといっしょスペシャルステージ」(さいたま・大阪)を開催。合わせて4日間に1日3回の12公演で13万9000人超を動員する盛況ぶりで、チケットも入手困難だったという。このイベントにはここ数年、大和ハウス工業がスポンサーにつくことが慣例となっている。NHKエデュケーショナルのこの年度はイベント事業全体で売上の6%程度の約14億円だった。ただ、⼤型イベントが中⽌となったためで、例年20億円規模の売上を出しており、同社の重要収入源となっている。

 さらに、NHKプロモーションも昨年度にコンサート・イベントで、江崎グリコ協賛の「ワンワンまつりパーティー編」を5会場で開催しているなど枚挙にいとまがない。

 グループ会社が単独で制作・放映したコンテンツならこれほどの動員も売上も望めないのはいうまでもなく、「NHKが直接スポンサーを募っているのと同じ」(総務省担当の長いベテラン記者)と批判されても仕方ないだろう。グループ会社はNHK本体にコンテンツの二次利用の使用料などで毎年計約60億円の「上納金」を支払っているが、剰余⾦がNHKと同程度に膨らんでいるところをみると、まったく不⼗分であると言わざるを得ない。

グループ会社にOB100⼈天下り

 グループ会社をめぐってはNHK職員OBの天下り先としての問題も指摘されてきた。もともとNHK本体でできる事業をグループ会社に投げていることが経営非効率の要因とされており、今回の計画でも、中間持ち株会社を設置し、業務の重複廃止などの効率化を図る方向性が確認された。NHKが昨年11月に出した説明資料によると、役員が79人から39人に半減し、従業員も181人から3分の2の126人に削減することで、人件費が年間8億円浮くという。単純計算しても一人当たり約850万円の高額な人件費をムダに払っているということだ。

 各グループ会社の決算資料を確認すると、昨年度の取締役の年収は、NHKエンタープライズ(12人)で約1650万円、NHKエデュケーショナル(6人)で約1000万円、NHK出版(8人)で約930万円、NHKプロモーション(5人)で約710万円などとなっている。一般庶民の感覚からして、ここまでの高給の役員がこの数必要なのかとの疑問が湧いてくるのは当然だ。エンタープライズやエデュケーショナルの社⻑のようにグループ会社の取締役を複数兼務している場合もあり、その役員報酬を合算するとさらに年収は跳ね上がるとみられる。

 しかも、このグループ会社の社長や幹部は基本的にNHK本体の理事や局長、横浜や名古屋など大都市圏の放送局長などの経験者である。エンタープライズ社長は元理事、エデュケーショナル社長は元NHK制作局長などパッとみたところでズラリと有力OBが並ぶ。普段、官僚の天下りを批判している組織とは思えないほどのすがすがしさだ。「グループ会社に幹部として再就職したNHK職員OBは常時100人規模に上る」(先のベテラン記者)というのも納得だ。

過剰な特権は剥奪すべき

 OBだけでなく現役のNHK職員の待遇も恵まれているため、こちらも再考し受信料値下げの原資としてほしいものだ。NHKの昨年度決算によると、約1万人の職員の給与総額が1114億円だから、平均給与が一人1000万円。これは一般基準からすると相当高給にあたる。

 加えて、福利厚生の良さは異常だ。「どこの火山が噴火しても生映像を撮影できる」「事件取材の現場で他社の2倍以上は聞き込み要員がいる」(全国紙記者)というような人数を抱えていながら、「家賃が高額な都⼼部で家賃5万円程度の社宅に住める」(30代の在京のNHK記者)など、払いたくもない受信料を払わされている一般庶民からすればあまりに過剰な待遇だろう。記者の免職問題にも発展したタクシー券の不正利用の問題もあり、「特権階級」と化したNHK記者が社会的弱者の立場に立った報道に当事者意識を持って臨めるか大いに疑問だ。

受信料引き下げ、菅は嫌いだが仕方ない

 筆者は菅政権には批判的であるが、NHK改革に関しては諸手を挙げて賛成する。携帯料金引き下げの際は、国家が⺠間企業である携帯電話会社の料⾦プランに介入することが市場原理に基づく民主主義社会の原則を脅かすと考え、批判記事を書いた。しかし、NHKは民間企業ではなく市場に基づく自浄能力はない。ここまで散々書いてきたように特権が過ぎている以上、問題意識のある政権が切り込むしか、仮にそれが自らの薄っぺらい点数稼ぎのためであれ、改革の方法がないのだから仕方ない。

 日本の受信料収入の約7000億円は全世帯・事業所を対象としているドイツに次ぐ高い水準で、衛星契約の受信料額は英独仏韓などと⽐べ、最も⾼い⽔準となっている。受信料支払率は09年度には70%であったが、未契約者への民事訴訟の提起や17年の最高裁判所判決などもあり、昨年度は83%にまで向上している。

 NHKは「事実上の税金」である受信料を、取り立て業者を使い、場合によっては訴訟をチラつかせてまで、決して経済的に豊かでない視聴者からも徴収している。そこまでして得たカネの使い道が身内の特権を守ることと、貯蓄にしか回さないということであれば、「皆様のNHK」としての信頼が揺らぐことをもっと切実に考えたほうがいい。前田氏は必要以上の剰余金は受信料値下げという形で還元する仕組みを作るとのことだが、NHKは今後は1円でも多く視聴者に還元していくべきだろう。

(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)

松岡久蔵/ジャーナリスト

松岡久蔵/ジャーナリスト

 記者クラブ問題や防衛、航空、自動車などを幅広くカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや⽂春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。
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Twitter:@kyuzo_matsuoka

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