コンビニエンスストア業界3位のローソンの竹増貞信社長(51)は就任6年目となる。「三菱商事に復帰する」(同社元役員)との情報が渦巻く。三菱商事は21年3月期決算で伊藤忠商事に業界内利益トップの地位を明け渡し、苦況が続く。
小林健会長(72)が副社長・社長時代に業務秘書を務め「側近中の側近」(元役員)だった竹増氏が親会社に復帰し、空席が続く専務になるとの人事案、“アングラ辞令”が三菱グループ内に流れている。
垣内威彦社長(65)は元生活産業グループCEOで畜産の営業一筋。ローソンの社外取締役を10年間務めた食料・流通部門のプロだ。竹増氏も、かつては垣内氏の部下だったこともある。小林会長、垣内社長に人脈的につながっていることが、「本体復帰が取り沙汰される理由だ」(元役員)。
「竹増くん自身はどう考えているのか。三菱商事に戻りたいのか。ローソンがファミリーマートに抜かれて業界3位に転落してしまった今、本社に戻ると、逃げたということになりかねない。戻るといっても本当にポストがあるのか」(三菱グループ幹部)
現在の三菱商事には専務や副社長のポストがないからだ。垣内社長の就任前から専務は不在だったが、垣内政権下の2018年度以降、副社長も選任されていない。垣内社長が常務の時代、小林前社長の時には副社長が5人いた。
「会社の重要戦略は事実上、5人の副社長会で決まっていた。垣内氏は常務時代に、それに不満を感じ、『社長以外の役員は全員フラットであるべきだ』との考えから副社長を置かなくなった」(前出と別の元役員)
資源からコンビニまで、さまざまな事業の集合体である総合商社のマネジメントは広範かつ複雑だ。なかでも業界最大の資産規模を誇る三菱商事において、社長が一人で全体を統括するのは不可能に近い。複数の副社長が“番頭”として社長を支え、誰が社長のポストに就いても組織体として機能するというのが三菱商事の伝統だった。かつての三菱商事には、「官房長官」役の副社長が社長の最側近として仕えていた。
三菱商事でサプライズ人事
任期6年の慣例に従えば、垣内社長は22年春に任期満了となり、残り1年だ。宿命のライバル、伊藤忠が突然、1月に社長交代を発表したため三菱商事社内に動揺が走ったといわれている。
三菱商事は垣内社長以下、15人の常務執行役員、33人の執行役員の計49人で構成される4月1日付の執行役員体制を1月15日に発表した。伊藤忠が1月13日に社長交代を突然決め、三井物産も昨年末に4月からの新体制を公表した。三井物産は堀健一専務執行役員(59)が安永竜夫社長(60、代表権を持った会長になる)と交代することになった。
「総合商社のトップ人事の“ドミノ倒し”が取り沙汰された。商事は慌てて垣内社長の続投を告知したのではないのかともいわれている」(総合商社担当アナリスト)
それでも1月15日に発表になった三菱商事の人事は業界を驚かせた。“ポスト垣内”の最有力と見なされていた常務執行役員コンシューマー産業グループCEOの京谷裕氏(59)が3月末で退任するからだ。同氏は、垣内氏が社長に就任した16年に54歳の若さで常務執行役員に昇進し、垣内社長と同じ生活産業グループCEOを歴任してきた。
一時期は有力候補の一人といわれた吉田真也常務執行役員コーポレート担当役員兼関西支社長(60)も退任する。吉田氏は小林前社長時代に経営企画部長を務めたが、関西支社長という上がりのポストになっていただけに、京谷氏ほどのインパクトはなかった。退任を当然と受け止める幹部が多かったという。
替わって浮上したのが、常務執行役員電力ソリューショングループCEOの中西勝也氏(60)である。中西氏は三菱商事と中部電力が20年3月、オランダの電力会社エネコを5000億円で買収した際の立役者だ。エネコはAI(人工知能)を使った顧客向けサービスで先進的なノウハウを持ち、欧州でデジタル技術も組み合わせた次世代の家庭用電力ビジネスを目指す。商事・中部電力は、そのノウハウを獲得し日本やアジアでの展開を計算に入れている。
エネコ買収を受け、三菱商事は20年はじめに、電力、流通・小売り、デジタルの各部門の社員を集めて新しいチームを立ち上げ、新規事業の検討を始めた。商事の傘下にはスーパーやコンビニがあり、食品の卸部門も強い。小売り・サービス事業と家庭向け電力を融合させる新たなビジネスを計画している。エネコを軸に、これが実現できれば、電力ソリューション事業が商事の中核に一挙に躍り出る。
常務を退任する京谷氏はローソンの非常勤の取締役である。若返りに反するが、もし、竹増氏が交代するようなら、ローソンの後継社長候補の一人になるかもしれない。商事出身のほかのローソンの役員では力不足で、激動するコンビニ業界のカジ取りは無理だという声もある。
コンビニ3社、トップ交代?
コンビニ最大手のセブン&アイ・ホールディングスでは井阪隆一社長の去就に関心が集まる。経団連に小売業出身の副会長がいないためだ。審議員会副議長の井阪氏が経団連の副会長に就任するようなことになれば、「セブン&アイでは代表権を持つ会長になり、伊藤順朗常務執行役員が社長に昇格。創業家の伊藤家への大政奉還が実現するかもしれない」(同社幹部)。
セブン-イレブンの米国本社を率いるJ.M.デピントCEOが東京本社(持ち株会社)のトップに就くという仰天人事の可能性もゼロではない。井阪氏が交代するようなら事業子会社のセブン-イレブン・ジャパンの永松文彦社長は続投するだろう。
こう見てくると、ファミマ、ローソン、セブン&アイHDの社長が一斉に交代するかもしれないのだ。“コンビニ大変”がトップ人事に色濃く影を落とすことになる。
(文=編集部)