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伊藤忠、総合商社業界トップへ…「非資源重視」だけでは説明できない“岡藤流”経営の神髄

文=編集部
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伊藤忠東京本社(「Wikipedia」より/Rs1421)

「投資の神様」という異名を持つウォーレン・バフェット氏がCEO(最高経営責任者)として率いる米国投資会社バークシャー・ハサウェイが初の本格的な日本株投資に乗り出したとして、昨年話題になった。

 8月、伊藤忠商事など5大商社株を5%超保有したことを明らかにした。将来的には9.9%まで買い増す可能性にまで言及。5大商社の株価は8月31日、一時急騰した。環境などに配慮するESG投資の普及で敬遠されがちな資源株を買う一環で“ソーゴーショーシャ株”に目をつけた、との解説がなされた。だが、「同じ業界の株式をまとめて5社買うのは異例。投資の意図がよくわからない」(国内の運用会社幹部)などと、いぶかる声も少なくなかった。

 伊藤忠の岡藤正広会長兼最高経営責任者(CEO)は「出遅れていた日本株、特に商社株に世界有数の投資家が関心を示したことは日本市場全体にとって明るいニュース」とコメントした。

 商社は国益のために資源を調達する機能を果たしてきたことから、取り扱う商品のなかで資源の比率が高い。資源価格の下落で業績が悪化し、株価は低迷してきた。資源の売り上げ比率が小さい伊藤忠株は、2020年3月のコロナショック以降、商社株のなかでは相対的に優位に立っていた。

 大納会(20年12月30日)の伊藤忠の株価は上場来高値の2981.5円をつけた。終値を基準とした時価総額は4.7兆円弱。三菱商事(3.7兆円)、三井物産(3.2兆円)の2Mに大差をつけた。

 21年3月期の連結最終損益予想は、伊藤忠が4000億円なのに対して三菱商事は2000億円と半分の見込み。20年3月期は最終損益で三菱商事に一歩及ばなかったが、悲願としてきた「商社ナンバーワン」の達成が目前に迫ってきた。

 10年4月に社長に就任して以来、経営トップとして11年目を迎える岡藤氏が培ってきた経営手法が社内に浸透したからであり、「非資源の比重が高いから」という単純な理由ではない。

非資源の分野に幅広く投資

 大手商社は2000年以降、資源への投資を拡大してきた。国際商品市況が上がれば手っ取り早く利益を挙げられるからだ。だが、岡藤氏は資源以外の分野に幅広く投資してきた。

 年の瀬が迫った20年12月22日、伊藤忠と日立造船がアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで世界最大級のごみ焼却発電を受注したと報じられた。ドバイの家庭から出る一般ごみを燃やし、その余熱で発電する。総事業費は約1200億円。24年に稼働する予定で35年間、運営も担う。現地では環境対応のため再生可能エネルギーの導入が進む。そうした新規需要を取り込むのが狙いだ。本格展開する総合商社は少ないが、伊藤忠にとって、ごみ発電は重要な分野なのだ。仏スエズと組み英国の4カ所でごみ発電所を運営している。

 大型蓄電池事業にも進出する。中国の電気自動車(EV)大手、比亜迪(BYD)の使用済み電池を伊藤忠などが大型の蓄電池に仕立て直し、21年度、欧米やアジアの工場向けに販売する。

 車載電池を再利用した低価格の大型蓄電池は再生エネ普及のカギを握る、といわれている。車載電池の再利用事業への新規参入が増え、使用済み電池の争奪戦が繰り広げられることとなる。丸紅が電池の調達先として期待していた中国の新興EVメーカー拝騰(バイトン)は資金繰りが悪化し、大半の事業を停止した。どの企業と組むかが勝負を分けそうで、伊藤忠はこうした目利きでもライバルをリードしている感がある。

 非資源といっても、伊藤忠は景気の影響を大きく受ける機械や自動車などでなく、繊維や食品の比重が高いことが利益を下支えしている。大阪の繊維商社から出発し、一般消費者を相手にしてきた。勝手知ったる生活産業分野に的を絞り、経営資源を集中したことが奏功した。

ファミマを完全子会社にし一体経営

 岡藤氏の経営手法の特徴の2つ目は一体経営だ。コンビニエンスストア、ファミリーマートがその典型例といえる。5800億円を投じ、TOBを実施して完全子会社にした。ファミリーマートは20年11月12日、上場廃止となった。

 伊藤忠はこれまで「餅は餅屋」(岡藤氏)として、ファミマの自主性に任せてきた。ところが三菱商事がローソンの子会社化に乗りだしたことから伊藤忠も動いた。「お互いが譲らない真剣勝負だった」(ファミマ首脳)というほど、緊迫した関係が続いた。完全子会社化をめぐり伊藤忠とファミマのせめぎあいは半年間続いたという。新型コロナが直撃し業績が急激に悪化したファミマの抵抗もここまで。TOBによる完全子会社化を受け入れた。

 ファミマはアジア事業で苦戦してきた。14年、韓国から撤退し、海外で最大の店舗網を失った。東南アジアでもっともコンビニが普及するタイでも合弁会社の出資を引き揚げた。中国では合弁相手の台湾系食品大手、頂新グループとの訴訟が続き、現地では撤退すらささやかれている。

 ファミマを完全子会社にした伊藤忠がまずテコ入れをするのは中国事業だ。株式市場が注目しているのは、15年、約6000億円を投じた中国中信集団(CITIC)の存在だ。「CITICの力を借りて、現在の合弁とは異なる形で中国市場に再参入するのではないか」との見方が消えてはまた浮かぶ。

 コンビニ各社は成熟した国内市場では成長戦略を描きにくくなっており、海外市場の開拓は欠かせない。海外でどれだけ利益を挙げられるかの勝負になってきた。ファミマを完全子会社にした伊藤忠は、ファミマの海外事業で大きな花を咲かせることができるのだろうか。

 総合商社は伊藤忠の時代が来るといわれている。ファミマの再生が岡藤流経営の次の到達点。頂(いただき)は、まだその先にある。

(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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