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富士通に勝った男・佐々木ベジ氏とは何者?弟・奥山一寸法師氏と共に某社へ敵対的TOB

文=松崎隆司/経済ジャーナリスト
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日邦産業のサイトより

“兜町の怪人”といわれたフリージア・マクロス(以下、フリージア)会長の佐々木ベジ氏が、乗っ取りに向けて再び動き出した。対象となっているのは東証ジャスダックに上場している自動車部品などを製造するメーカーの日邦産業だ。

 日邦産業は3月8日、フリージアによるTOB(株式公開買い付け)に反対の意見表明を行い、全面的に戦っていくことを明らかにした。日邦産業は株主たちに対して「公開買付けには応募しないでください。すでに応募されている株主の皆様は、直ちに応募の解除を行っていただきますよう強くお願いいたします」と呼び掛けているという。

 ではフリージアの会長、佐々木氏とはどのような人物なのだろうか。1955年9月、東京都の離島、青ヶ島の奥山治氏の長男として誕生した。弟には佐々木氏の右腕、奥山一寸法師氏がいる。ちなみに2人の名前はいずれも本名だ。

 佐々木氏は71年に高校進学のため島を出て全寮制男子校、東京都立秋川高校に入学。卒業後は家電量販店、マヤ電気に入社。ここで仕事を覚え翌年には20歳でフリージア家電を創業した。当初は社員は佐々木氏以外は誰もいない会社で、自ら秋葉原の街頭でチラシを配り、客を集めたこともあったという。

 78年には法人化して代表取締役に就任。この年から通信販売を手掛け、事業を軌道に乗せた。そして81年には家電以外の商品にも手を広げ、89年度には年商を200億円近くまで伸ばし、NHKの『ルポルタージュにっぽん』で「秋葉原の風雲児」として取り上げらえたこともあったという。

 そして90年にはエイボン・プロダクツの日本法人の買収を仕掛けたが、株価大暴落の末に撤退した。そして91年には累損87億円を抱え倒産の危機にあった産業機械や土木試験機械を製造する東証2部上場の谷藤機械工業(現フリージア・マクロス)の再建を依頼され、社長に就任した。

 ところが75年に自ら創業した通販会社、ピーシーネットが97年に破産宣告を受けた。それだけではない。560億円の債務保証をしていた佐々木氏自身も破産宣告を受け、しばらく表舞台からは姿を消した。しかし2006年にはフリージアの経営立て直しに成功、07年には技研興業をTOBでグループ会社化した。

 その後、ピコイ、シゲムラ建設、マツヤハウジング、東証ジャスダック上場の夢みつけ隊の社長に就任。このとき上場企業の代表取締役重複をさけるためにフリージアでは取締役会長に就任した。さらにダイトーエムイー、東証2部の技研興業の取締役会長に就任。一方で民事再生法の申請を受けたプレミアウェディングバンク、安藤鉄工建設、ホワイトルームなどのスポンサーに就任した。

 しかし、13年には都議会議員選挙で、グループ会社社員9人の住民票を千代田区内のフリージアの事務所に移させて投票させたとして、同社社員が公職選挙法違反で逮捕されるといった不祥事も起きた。20年9月には、フリージアの有価証券報告書に重要な関連当事者取引の記載がなかったとして、金融庁長官から課徴金処分を受けている。

 さらに、20年11月には、ある調査会社から、フリージアのグループ会社社員の行動調査費用の未払い分約2300万円の支払いを求め、佐々木氏を被告として民事訴訟が提起されているとも報じられた。

 このように佐々木氏は、秋葉原のバッタ屋から身を起こし、ときには敵対的な手法を用いて複数の上場企業を買収して注目を集めるなどした毀誉褒貶に満ちた人物だ。

富士通との攻防戦

 そんな佐々木氏が兜町でその名をとどろかせたのは、17年のソレキア(東証ジャスダック上場)へのTOBだ。フリージアは16年11月に富士通の特約店のソレキアの5%超の株主として浮上。17年2月3日にTOB実施の届出を提出した。買付価格は一株2800円。このときソレキアは買収防衛策を取ってはいなかったが、突然のTOBに会社側は意見表明を保留し、佐々木氏に質問状を送付。仕入先多様化によるコストダウンなどROE経営の導入などによる企業価値向上策を提案した。

 この間、ソレキアがホワイトナイトを要請したのが富士通だった。富士通とは60年にわたり販売代理店として取引を続け、9人の取締役のうち4人が富士通出身者だった。富士通の協力を得たソレキアは3月10日、佐々木氏のTOBに反対意見の表明を決議。16日に富士通は一株3500円でTOBすることを発表、ソレキアもすぐに賛同意見を表明した。

 その後、佐々木氏と富士通はTOB合戦となり、両者は買収価格を競り上げていったが、最終的に一株5450円を提示した佐々木氏に軍配が上がった。天下の富士通にTOBで競り勝った佐々木は、兜町でその名を馳せたのはいうまでもない。これまで日本ではタブーとされてきた“敵対的買収”でも企業を支配することができる、この体験は佐々木氏にそう実感させたのかもしれない。

日邦産業へのTOB

 そしてデジャブであるかのような敵対的買収劇が始まったのが、4年後の21年1月。冒頭の日邦産業の筆頭株主としてフリージアが急浮上してきたのは、19年3月25日。その後、徐々に市場から株を買い進め、19年6月13日には179万6700株(19.68%)まで買い進んだ。

 以降、19年に日邦産業が導入した買収防衛策をめぐって、フリージアからの批判が繰り広げられ、そして21年1月28日、フリージアは日邦産業側には事前の連絡もなく突然、TOBすることを表明したわけだ。期限は3月25日まで。

 これに対して日邦産業は、TOBが「当社に対して、何の連絡もないまま一方的に開始されたもの」と反発。フリージア側は、資本業務提携を結ぶための交渉力を強化するために、TOBを実施して出資比率を上げるためだと説明しているが、日邦産業の公表資料によると、2019年11月14日には日邦産業側からフリージアグループのホームページ等を参考に業務提携によるシナジーの素案を示したところ、売上高に与える影響は軽微なものだったという。

 また、これまでフリージアグループから日邦産業になされる要望は専ら資本政策に関することのみで、業務提携について積極的な姿勢は示されなかったという。

 日邦産業は2月9日の取締役会でTOBに対する意見表明を保留し、フリージアに金融商品取引法で認められている質問権を行使した。この段階で早くも舌戦が繰り広げられた。

 日邦産業は、質問状の中で「当然のことながら当社の事業パートナーとなられる方における法令遵守・内部統制に対する意識や体制について、高い関心を有している」として、フリージアや従業員の過去の法令違反行為について質問した。それに対して、フリージアは2月18日の回答の中で「事の詳細は本公開買付けの目的及び趣旨とは直接の関係があるとは受け取れません」「何故にこのような質問をされるのか、その根拠をお示し頂ければ幸甚です」と異例の逆質問で応酬している。

 そうした舌戦を経て、3月8日、日邦産業は、顧客・仕入れ先や金融機関との関係悪化を招くなどとして、フリージアによるTOBに正式に反対意見を表明した。フリージアグループが日邦産業の経営に関与した場合、有力取引先による取引の打ち切りや金融機関による新規融資の停止が懸念されるとのことで、消費者への直接の販路を持たない部品メーカーとしては、取引先から反発されるとひとたまりもない影響を受けるのは想像に難くない。

 この間、日邦産業では2月14日から3月1日まで、従業員に対してTOBに対するアンケート調査を行っていた。このアンケート調査では、従業員(全従業員は401人)の96%(392人)から回答を得、そのうちの約80%にあたる314人からTOBに対して反対だという回答を得ていたという。

 その理由は(1)「狙い・目的が不明、本公開買付け後に企業価値が向上するとは思えないから」、(2)「労働条件(リストラ・配置転換・給与賞与/退職金等)の改悪を警戒するから」、(3)「事業方針(主要な顧客・仕入先・金融機関等との取引)の転換や制約が懸念されるから」だという。反対意見の表明と同時に、日邦産業の取締役会はかねてより導入していた買収防衛策を発動することを決定。3月31日を基準日とする新株予約権の無償割当を行う。

 これに対してフリージアは無効だとして即座に買収防衛策の差し止めの仮処分を裁判所に申請した。裁判所がこの申請を却下して無償割当が行われれば、株価が希釈されフリージアは大きな損失を被ることになるから、TOB自体も中止されることになる。

 裁判所は果たしてどのような判決を下すのか。成り行きが注目される。

松崎隆司/経済ジャーナリスト

松崎隆司/経済ジャーナリスト

1962年生まれ。中央大学法学部を卒業。経済出版社を退社後、パブリックリレーションのコンサルティング会社を経て、2000年1月、経済ジャーナリストとして独立。企業経営やM&A、雇用問題、事業継承、ビジネスモデルの研究、経済事件などを取材。エコノミスト、プレジデントなどの経済誌や総合雑誌、サンケイビジネスアイ、日刊ゲンダイなどで執筆している。主な著書には「ロッテを創った男 重光武雄論」(ダイヤモンド社)、「堤清二と昭和の大物」(光文社)、「東芝崩壊19万人の巨艦企業を沈めた真犯人」(宝島社)など多数。日本ペンクラブ会員。

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