原発処理水放出、風評被害発生を煽り国益を損なう「全漁連・水産族議員・メディア」の画像1
東京電力福島原発(「gettyimages」より)

 政府は、東京電力福島第1原発の処理水を海洋放出する方針を決定した。政府や東電は、浄化装置で取り除ききれないトリチウムを含んだ処理水の安全性を強調。ただ、全国漁業協同組合連合会(全漁連)をはじめとした漁業団体、国会議員、報道機関のトライアングルの構図が必要以上に風評被害の発生を煽っている。水産物の販路拡大策などで行きすぎた歳出増圧力を高めるこのトライアングルこそ、悪の元凶なのだ。

不安心理を利用か

 全漁連の岸宏会長らは、政府による正式決定前に菅義偉首相と面会し、改めて処理水の海洋放出について断固反対の意を伝達した。岸氏は面会後のぶら下がり取材で「当然ながら風評被害が起きる」と主張。これに対し、野上浩太郎農相は「風評被害が生じることを懸念する気持ちは当然」と理解を示す。

 とはいえ、ただただ風評被害が起きるとだけ叫び続ける漁業団体の反応は過剰そのものといわざるを得ない。概念が曖昧で目に見えないがゆえに生じる消費者の不安を利用し、国から予算を取ろうとしているとの指摘も少なくない。政府は「生産・流通・消費それぞれの段階での追加の支援策を政府全体で検討していく」(野上農相)とし、漁業者らからの聞き取りなどを経て、年内に対策を決める方針。

全国の水産物支援を要望

 常識的に考えれば、福島県産に加え、太平洋に面した近隣県で水揚げや加工された水産物が支援対象になる。ただ、全漁連は水面下で政府に対し、全国の水産物に対し販路開拓などの支援を行うよう要望。本来なら、全漁連は漁業者の立場に寄り添いつつ、避けて通れない処理水の海洋放出に伴う風評被害をいかに未然に防ぐか政府と共に知恵を絞らなければいけない。そうしたことを怠り、行政に対策を迫るだけでは、団体としての責務を果たしているとはいえず、全漁連不要論が出てもおかしくない。

 しかも、自民党の水産族議員が全漁連の主張を全面的に是認していることが、事態をさらに悪くしている。水産族議員からは「処理水の放出決定により、魚ではなく何となく肉を選ぶ消費者が増える」「海を切り分けることはできない。全国の水産物が支援対象になる」との声が聞かれる。経済官庁幹部は「無茶苦茶だ」とあきれかえる。

 全漁連の顔色をうかがっているだけなのかどうかは図りかねる部分もあるが、団体の言い分を鵜呑みにすることは無責任との誹りは免れない。族議員の役割は団体の無理難題を抑え込み、軟着陸を図ることだ。「日本海側など関係ない県選出の国会議員は問題を煽らないでほしい」(被災地選出衆院議員)という良識的な声はかき消されている。

 原発事故や漁業問題を報じる大手メディアの姿勢も問われる。漁業団体の意見や政治家の立場をフェアに報じなくてはならないが、一部の漁業者や消費者団体などの感情的で断片的な話を、それがすべてかのように報道している部分も否めない。これまで処理水のことを汚染水と混同したかのような報道もあり、消費者の誤解を招いている。