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木下隆之「クルマ激辛定食」

トヨタ、水素燃料のマシンで耐久レース参戦の意義…盲目的なEV信仰へのアンチテーゼか

文=木下隆之/レーシングドライバー
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カローラスポーツ(「GAZOO」より)

 水素を燃料としたレーシングマシンが走る――。にわかに信じることはできないかもしれないが、事実である。それも遠い話ではなく、5月21日からのスーパー耐久シリーズ第3戦「NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レース」に参戦するというのだ。もちろん伊達や酔狂ではなく、世界的な風潮であるカーボンニュートラルの施策のひとつなのだから、驚きである。

 とはいうものの、水素を燃料とするクルマは、それほど奇異なものではない。ガソリンを空気と混合させて気筒内に噴射、火花によって着火させるというシステムは、一般的な内燃機関と同様である。ただ、今回サーキットに姿を現すレーシングマシンは、燃料をガソリンから水素に代えて燃焼させるという点が特徴だ。

 だが、それをサーキットで走らせるとなると、話は別だ。参戦するチームは、トヨタ自動車代表取締役である豊田章男氏が率いるルーキーレーシングチーム。マシンは水素を燃料とする「カローラ」である。さらに驚かされるのは、豊田社長が自らステアリングを握るということだ。

 オンラインで行われた参戦記者会見で、豊田社長こう述べている。

「水素への期待も不安も含めて、私が乗ることですべてを証明したいと思っています」

 水素の危険性などネガティブな材料を、レースという開発の場を通じて消化したいというのだ。もちろん、水素を燃料とすることから、量産型水素燃料自動車であるトヨタ「ミライ」の技術が注がれていることは明らかだ。水素充填システムは当然として、マシンに搭載する水素燃料タンクはミライのものを流用する。

 ミライは、搭載する水素を大気中の酸素と化学反応させることで発電させる。その電力を元に電気モーターを回転させ、駆動力を得る。だが、今回レースに参戦する水素燃料カローラは、ガソリンを燃料とする一般的な内燃機関で、燃料を水素に置き換えたものである。つまり、純粋な水素燃料車やEV(電気自動車)とは異なる。だが、走行中に一切の二酸化炭素を排出しないという点ではEVや水素燃料車と同様であり、限りなくクリーンな内燃機関車両となるのだ((厳密には微量なオイルが燃焼することもある)。

 今回、トヨタが水素を燃料とする内燃機関マシンを走らせる意図は、このところの盲目的なEV信仰へのアンチテーゼが含まれているように想像する。カーボンニュートラルが地球を救う課題であることは事実だが、そのための救世主がEVだという風潮には、少々の疑問が残る。

 確かに、EVは走行中に一切の二酸化炭素を排出しない。だが、EVを走らせるための電力は石炭を燃やすことで得ている。その段階では、二酸化炭素を吐き散らしているのだ。とりわけ、原発や太陽光、風力など発電比率の低い日本では、盲目的なEV信仰には危険を孕む。水素燃料とて、精製は化石燃料に依存しているのも事実だ。

 つまり、クルマの動力源は電気だけではなく水素も有効であり、そもそも内燃機関にも可能性が残されている。日本には多くの選択肢が残されているのである。そのひとつが、水素を燃料とする内燃機関であり、そのための開発のひとつとして、今回の水素を燃料としたレーシングカーの参戦計画なのである。

 レースは5月末に開催される。これが世界に発信されることの意義は無視できない。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)

●木下隆之
プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員 「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。

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