「指標でみる韓国の経済の今」は、毎月、1つ経済指標を選んで現時点での韓国経済の姿を解説する企画である。第1回はもっともポピュラーな経済指標であるGDPを取りあげよう。
コロナ禍で世界経済は萎縮したが、韓国も例外ではない。コロナ禍以前である2019年10~12月期の韓国のGDP(実質:2015年基準、季節調整済)は、468.8兆ウォンであったが、これがコロナ禍の影響が最も深刻であった2020年4~6月期には448.2億ウォンにまで低下した。2019年10~12月から4.4%低い水準である。
ちなみに、GDPを実質値で見る理由は物価水準の変動を除いたGDPの動きを見るためである。季節調整値で見る理由は、GDPには季節性があるからである。例えば、GDPの需要項目である民間消費は、ボーナス要因などにより特に10~12月期が高い数値が出る傾向にあり、異なる四半期(=季節)を比較するためには季節性を除いた季節調整済の値を比較する必要がある。
さて、コロナ禍前の水準より4.4%も落ち込んだGDPは、その後は少しずつ回復し、現在における最新の数値である2021年1~3月には、コロナ禍以前よりほんの僅かではあるが0.4%高い水準である470.8兆ウォンにまで回復した。韓国の潜在成長率は3%程度であるので、この間に3%以上は伸びていないと望ましい成長軌道に回復したとはいえない。しかしながら、コロナ禍前の水準に戻ったということで、2021年1~3月期は記念すべき四半期になったと考えられよう。
韓国の企画財政部が2021年4月27日に公表した、「2021年第1四半期実質GDP速報値の特徴と評価」という報道資料では、2020年時点のGDPの規模で上位10カ国(韓国は10位である)について、コロナ禍以前の2019年10~12月期を100とした場合、最新の数値である2021年1~3月のGDPがいくつになったかを記している。これによれば、GDPが最大であるアメリカは98.9、2位である中国は106.9、3位である日本は97.7であり、上位10カ国のうち100を超えたのは中国、インド、韓国の3カ国に過ぎない。ちなみに残りの7カ国はG7諸国である。
堅調な輸出と設備投資
韓国は2021年1~3月期にGDPがコロナ禍以前に回復したが、需要項目別にみると回復の度合いに差がみられる。まずは需要の半分以上を占める民間消費を見てみよう。民間消費はコロナ禍前を100とした場合の2021年1~3月の水準(以下、同じ)が94.5に過ぎない。よってコロナ禍からの回復はまだ遠い状況である。コロナ禍の影響は外出制限などによるレジャー消費の低迷や外食消費の低迷といった形で直接的に出ている。また、雇用に対する不安や所得の伸びの低下による間接的な影響も残っている。民間消費がコロナ禍以前の水準に戻るまでには、もう少し時間がかかることが予想される。
需要項目の半分以上を占める民間消費がいまだに大きく落ち込んでいるなか、GDP全体がコロナ禍以前に戻っているということは、他の需要項目がカバーしたということを意味している。GDPの回復に寄与した需要項目は何であろうか。
まずは輸出である。輸出は2021年1~3月には103.1にまで回復している。主力の輸出製品である半導体がコロナ禍の下でも世界的に需要が伸びていることもあり、輸出が下支えられてきた。それに最近は一時期不調であった自動車の輸出も回復する動きが出てきており、これによって輸出はコロナ禍以前を上回る水準に回復した。
需要項目のうちGDPの回復に一番寄与しているのは設備投資である。設備投資は、2020年4~6月期に99.8とわずかながらに減少した。しかしながら、7~9月期にはすでに107.9とコロナ禍前を大きく上回る水準に回復し、2021年1~3月には112.6にまで水準が上昇している。これには半導体産業の投資増が大きく寄与している。先述のように、コロナ禍の下でも世界的に半導体需要が伸びているとともに、今後の需要見通しも明るいため、半導体産業は半導体製造装置の購入などの形により設備投資をしている。これが設備投資を大きく引っ張り上げ、ひいてはGDPを下支えている。
コロナ禍で一時期はGDPの水準が落ち込んだ韓国は、いまだに民間消費は不調だが、好調な設備投資や堅調な輸出のおかげで、G7諸国に先立ってGDPが回復することになった。
(文=高安雄一/大東文化大学教授)