マスク不足をはじめ、さまざまな懸案事項により、“脱中国依存”が叫ばれている。たとえば、政府はサプライチェーン(部品などの供給網)の国内回帰を支援する大型の基金を立ち上げたが、主たる目的は中国への生産依存度を低下させることである。
以前であれば、こうした政策は脱中国依存に対して有効に機能したかもしれないが、今となっては、果たしてどれほどの効果が期待できるのか、極めて疑わしい。なぜなら、中国はもはや世界の工場にとどまらず、世界有数の市場になってしまっているからである。つまり、日本企業にとって重要なお客様になってしまっているということである。
中国依存度の高い日本企業ランキング
マネーポストWEBは、中国依存度の高い日本企業ランキングを発表している。そのうち、トップ10の顔ぶれは以下の通りである。
※( )内は全売上に占める中国市場比率
1位:TDK(53.0%)
2位:村田製作所(52.8%)
3位:日本ペイントホールディングス(38.9%)
4位:日東電工(31.1%)
5位:資生堂(25.6%)
6位:日本電産(21.8%)
7位:ニコン(19.5%)
7位:住友化学(19.5%)
9位:ファーストリテイリング(19.0%)
10位:SMC(18.3%)
1位のTDKと2位の村田製作所は中国市場が占める割合が半数を超えており、10位のSMCですら概ね2割を占める状況になっている。また、業種に注目すると、電気および精密機器や化学に関連するメーカーで占められている。ちなみに、しばしばニュースで話題となる良品計画の中国市場比率は18.0%で12位となっている。
売上2割減の衝撃とは?
脱中国依存を貫徹するとなると、こうした企業は売上の2割以上を失うことになる。もちろん、売上2割減はそれほど深刻な数字ではないと考える人もいるだろう。確かに、たとえば、トヨタ自動車は売上2割減でも5000億円の営業利益が確保可能、またニトリは35%程度までの減収であれば黒字を確保できるようである。
しかし、こうした企業は極めて例外的な存在であるようだ。2020年6月25日付日本経済新聞記事によると、損益分岐点比率は上場企業全体で78%となっている。つまり、22%を上回る減収で営業赤字に陥るということである。ちなみに、設備や人件費などの固定費が重い運輸や鉄鋼、外食、小売業などは概ね1割減で営業赤字に陥るとのこと。
こうした経済的な問題に加え、深刻な人権問題、安全保障上の問題など、日本にとって中国の脅威は決して軽視できるものではない。とはいえ、いたずらに強硬論を唱えても、実際に打てる手は極めて限定されるだろう。日本、米国、オーストラリア、インドの首脳や外相により協議する枠組みであるQuad(クアッド)は、安全保障においては一定の効果があるかもしれないが、経済に関して、どれほど大きな成果が期待できるかは極めて疑わしいと言わざるを得ない。
(文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授)
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